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紺野あずれ先生インタビュー【こえでおしごと!/私立はかない学園】

前作『こえでおしごと!』にて「女子高生エロゲー声優」という設定を活かし、様々な赤面シチュエーションを描いてきた紺野あずれ先生。そんな先生が手掛ける最新作は……全校生徒が『パンツを穿いていない』学園ラブコメディ!?またしても尖りに尖った舞台設定による作品を送り出してきた紺野先生に、作品誕生の経緯に迫る!

最新作の『私立はかない学園』(以下「はかない」)、名前からどんな内容か一発で分かる、素晴らしいタイトルだと思います(笑)。しかし、『こえでおしごと!』(以下「こえで~」)は、「コミックガム」での連載作でしたが、今作は双葉社の「コミックハイ!」で連載されています。まず掲載誌が変わった経緯を簡単に教えてください。

紺野あずれ先生(以下紺野):今の担当さんが、あとがきでも描いた「S尾さん」という方なんですけど、この連載が始まるちょっと前ぐらいに声を掛けて頂きました。実はこの方、別の雑誌の編集をやられていた五、六年前に、一度声を掛けてもらっていたんです。ずっと覚えててくださってたんだなーと嬉しくなりまして、ちょうど別の雑誌でも一度やってみたいなと思っていたので「じゃあやってみます」と。

では、声を掛けられてすぐに移籍を決められたのですか?

紺野:いや、最初はそんなにやる気はありませんでした(笑)。本当はもう一社別の雑誌からも声を掛けられていて、正直そっちでやろうとしていたんですけど、S尾さんってめちゃめちゃ押しが強い方なんですよ。もう「逃がさないぞ」って感じで、結局いつの間にやら双葉社で描くことに……

そ、それはなんというか……剛腕な編集者さんですね(笑)。これもあとがきで描かれていたことですが、はじめは全然別の設定のお話を考えられていたとか。

紺野:最初は男女が逆転する話にしようかと思っていました。そういう話ってけっこうあると思うんですけど、僕としては不満がありまして。「どうして股間をまさぐらないんだ?」と。性別が入れ替わってまずするのはそれだろう、だからそれが描きたい!とS尾さんに主張したんですけど、「そういうのは、エロ漫画になっちゃいますのでちょっと……」と言われて。まあその通りですよね、ぐうの音も出ない。他にも案は出したんですけど、結局担当さんの賛同は得られず。

そんななか……閃いてしまったんですね?あの設定を(笑)。

紺野:「パンツっていらないんじゃない?」と。奥さんのカザマアヤミさんに「パンツっていらないんじゃないですか」と聞いたら「何の話ですかね?」と言われましたが。まあ、同居人がいきなりそんなこと言いだしたらそりゃ戸惑いますよね。

その設定を、とりあえずそのまま担当さんに伝えたのですか?

紺野:話したらすぐに連載が決まりましたね。S尾さんにお声を掛けて頂いたのは今年に入ってからだったんですが、あの人は本当に押しが強いので、実は最初、当時まだ創刊されていなかった『月刊アクション』の方で連載しようという話も出ていたんです。創刊が四月なので、それに合わせてやってくれと言われてたんですが、さすがにそれは無理だとお断りしまして。

そういえば「こえで~」の最終回が、ちょうどその四月でしたね。

紺野:しかもその最終回が、16ページも増えていたので、さすがに出来ないと(笑)。そうしていたら、編集さんの間で何があったのか知りませんが、いつの間にか『コミックハイ!』で連載することになっていたんです。

結局「こえで~」の連載が終了してから2か月程度ですぐに新連載が始まると。本当に押しが強い方なんですね、S尾さん(笑)。作品のコンセプトを決めてからは、次にどういったところを決めていきましたか?

紺野:そもそもパンツを穿かない校則なんて頭がおかしいことなので、そういうことを平気で言えてしまう人が必要でした。それでまず、生徒会長の清和院花緒のキャラクターができましたね。
僕は、「ちょっと頭が変な人」が好きなんです。本人の中では筋が通っているんだけど、傍から見たら「何言ってんだこの人……」ってなるシチュエーションが好き。彼女はそんなに苦労せずにできましたね。

一巻でその会長に振り回されるのが、花緒の友人にして、一緒に副会長に就任する深草夕夏です。彼女のキャラクターはどのようにしてできましたか?

紺野:シチュエーションが決まったら、その被害を被る人達がいるだろうと。僕の漫画って、変なシチュエーションに普通の人が巻き込まれていくという話が多い、というかそればっかりですね(笑)。とにかく被害を受ける代表として、まずは夕夏を出しました。僕は「色気がない娘」というのも好きなんです。というか、色気のない女の子を辱めたい。そういう娘が赤面していると、「ああ、いいなあ……」としみじみ思います。

女の子らしくなかった娘が、自分の性に目覚めてしまう!自分も大好きです(笑)。そういえば「こえで~」の主人公柑奈は陸上部で、夕夏はテニス部とどちらも運動部ですね。夕夏はポニーテールでより活発的な感じですが……

紺野:一応前の漫画とも差別化を図らないといけないので、特徴的な髪形の方がよかろうと。あと高校の時にね、実際テニス部でポニテの女の子がいたんです。すごく似合っていて可愛かったんですけど、ある日ポニテをやめてボブカットにしてしまったんですね。そしたら一気に魅力がなくなってしまった(笑)。なんでしょうねあれ、不思議ですね~。

二次・三次問わず、テニス部はポニテが一番!(笑)。またその他にも生徒会のキャラクターとして、書記の岩倉佳澄と会計の鳳瑞姫乃が登場します。

紺野:「胸が無くて無表情な娘」と「のほほんとした巨乳」。この二人は、もうセットですね。特に無表情な娘としては、『おねがいティーチャー』の森野苺が大好きだったんです。それ以来、自分の作品にはあのタイプの女の子が絶対出ていますね。

色気のない女の子と合わせて、その三人は紺野先生の「三種の神器」ですね!さて、本作品は「ラブコメオムニバス」という紹介がされています。一巻は夕夏を中心にお話が進みましたが、今後は他の女の子達にもスポットが当たっていくのでしょうか?

紺野:「こえで~」の時は大体柑奈の視点で進む話ばかりだったんですが、同じことをやってもしょうがないので次は色々視点を変えながら話を作ってみようかなと考えています。今後、他の女の子もいっぱい出していく予定ではあります。今までとは違うキャラも少しずつ出してみよう、というのがこの漫画での試みですね。他にも色々とやってみようと思っているので、自分の中ではかなり実験的な意味が強いですね、この作品は。

他にはどのようなことを試されようと?

紺野:色んな恋愛を描いてみようかなと思っています。そのためには色んな性格のキャラクターを描かなければいけないので、いい経験になるのではと思います。

しかしそれらの話を支えるのが、「パンツ穿いていない」という設定になるんですよね?(笑)。

紺野:それがないと面白味のない、単なる恋愛ものになってしまって誰も読まないなと思いまして、何かしらそれぞれの話を繋げるものが必要になった時に、それが自分の場合「パンツを穿かない」に(笑)。
「パンツを穿かないことによってどんなことが起こるかというのを描きます!」と担当さんに言ったら、後で「あのときに『ああこの人って頭おかしいんだな』と改めて思いました」と言われましたね。こちらは真面目に作品の事を考えているのに、マッタク失礼な話ですね~。

わははは(苦笑)

「パンツを穿かないこと」で起こることの一つとして、四話に出てくる「下着ロッカー」があります。あれは秀逸な設定だったと思います!

紺野:実は最初、担当さんに反対されたんですよ。「いや、意味がわからないです」と言われて。意味がわからないと言われることに、僕が意味がわからなくて(笑)。
担当のS尾さんって女性の方なんですよ。だから男にとってここが良いんだってことが、イマイチ伝わりづらい。「パンツを入れるロッカーがあるんですよ、素晴らしいじゃないですか」と言っても通じない。なので下着ロッカーの素晴らしさを、一から説明しないといけない訳です。なんで説明しないといけないんだこんなことっていう(笑)。
なんとかして使ってやろうと思って、出すためにはどういう理屈をこねれば良いだろうと、頭をひねった結果出たのが「痴漢防止」というアイディアですね。

そのおかげで、五話冒頭の素晴らしい登校シーンが出来たと(笑)。いや、本当に妄想が膨らむ舞台設定ですよね。今後の展開などは考えられていますか?

紺野:いや、正直最初に考えていたことは大体第一話で描ききっちゃったんですよね。というか、最初の見開きの、「パンツの着用を禁止」という会長の、あのセリフを言わせたかっただけなんです(笑)。前作の「こえで~」の時もそうでしたね。女子高生が「お○んこ!」と言うのを描きたかっただけ(笑)。

一番の大ネタを、第一話で使い切ってしまったと(笑)。

紺野:あんまり先の事は考えていないというか、思い付きで話を作っているので後々辻褄を合わせるのが大変です……もうちょっと真面目な話をすると、「こえで~」は「人気が出なかったら一巻で終わるかもしれないので、そのつもりで話を考えてくれ」と言われていたんです。だから一巻分の話しか考えてなかった。ところが二巻以降も出すことになったので、急いで二巻のお話を考えました。それでも続くみたいだったから、ああじゃあもうちょっと考えます、という感じでその繰り返し(笑)。それで結局十巻まで続けられてしまったので、「はかない」もなんとかなるんじゃないかという気楽さでやっていますね。

今後どういった方向に話が転がるのか楽しみです!もう一つ紺野先生にお聞きしておきたいことで、これは前作からも言えることなんですが、紺野先生は成年向け漫画がご出身ながら、必ずしも「エロ」で勝負している訳ではありませんよね。「はかない」でも、いわゆるラッキースケベ的な展開ではなく、あくまで「女の子が赤面するシチュエーション」にこだわられている。このことには何か理由があるのですか?

紺野:エロ漫画時代の知り合いが、一般誌に移られてから苦労しているのを目の当たりにしてきて、どうして彼らは上手くいかなかったのかというのを考えた結果、「一般誌ならではの別の柱を何かしら一本作っておく必要がある」と思ったんですね。僕の場合、それが「女の子の赤面」だった訳ですが。
大体エロ漫画家さんが一般に行くと、エロの時についた読者さんの事を考えて、エロい描写が中心の作品を描くことが多いんですね。でも一般誌の限界がありますから、成年誌と比べるとどうしてもエロ描写がヌルめになります。そういう「ちょいエロ」を、一番の見どころにするのは良くないと思うんです。

と、いいますと?

紺野:武器としては持っているのは全然良いんです。作品の味付けにエロを付けるんだったら全然良いんですけど、そのヌルいエロを一番の見どころにしてしまうと、もっと激しいエロを成年向けの方でやっていたんだから、エロ漫画で付いてきた読者さんも、それに一般誌の人も、手に取れる年齢の人はおそらくエロ漫画の方を読まれてしまうと思うんですよ。

ただ、少年誌などでちょっぴりエッチな作品を描いている人もいますよね。

紺野:そういう人達は、エロ漫画を描いていないから受け入れられるのだと思います。だってAV女優が、普通の雑誌でグラビアやってもしょうがないでしょ?そんなの誰も求めていないっていう話で。女性も我々エロ漫画家も、脱いじゃったらそこで終了、な訳です。

逆にいえば、グラビアアイドルはまだ服を脱いでいないからこそ、脱がなくても価値が出るのだと(笑)。しかし、エロ漫画家さんは中々難しい問題を抱えていますね……

紺野:エロ漫画家さんは、僕を含めて大体はエロが描きたくてエロ漫画家になったとはいえ、一般誌に対してもやってみたいなという興味はあるんですよ。それに最近、エロ漫画から一般誌に引っ張っていく流れが出来ているので、挑戦する人は多いですけど、難しさが色々あります。
まず、話が思いつけない。エロ漫画は、話といっても主人公と幼馴染とか高校の同級生だとかその程度で、いうなればそれぐらいで構わない。それプラス、話の筋道が決まっているんですよね。導入があり、そこから舐めて・入れて・出して終わりっていう(笑)。その筋道が体に染みついちゃっている一方、一般誌で描くテンプレが全くない。エロ抜きで話ってどうやって盛り上げるの?という風になっちゃって、最終的に「そもそも面白いって……何?」と思うようになります(笑)。

それはあまりにも根本的な悩みですね(笑)。

紺野:エロ漫画の描き方と一般の描き方って全然違うので難しい。一般誌に比べてエロ漫画が簡単だ、という気は全くなくて、難しいとする部分が違いますね。一般誌は何も決まっていないから難しいし、エロ漫画は逆に流れが決まっているから難しい。型が決まっている中で違いを出さないといけないですからね。
エロ漫画の時から自分は絵で勝負出来ないなと思っていたので、シチュエーションとキャラクターでなんとかしようと思っていました。それが、一般に行った時にちょうど活きたのかもしれませんね。

なるほど~、自分に出来ること/出来ないことをキチンと見分けることは、とても大事なことなのかもしれませんね!

本日はありがとうございました。最後に読者の方へメッセージをお願いいたします!

紺野:行き当たりばったりな漫画ですが、今後頑張って面白くしていきますので、良かったらこれからも読んで頂ければと思います。どうぞよろしくお願いします!