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今井神先生『NEEDLESS』完結記念インタビュー!

疾走感溢れるバトルあり!テンション振り切れ気味のギャグシーンあり!破廉恥極まりないお色気シーンあり!男のコが大好きな要素が単行本に所狭しと詰め込まれた作品だ。さらに本作は、作品を通して幾重もの伏線が織り込まれている長大な作品ともなっているのだが、驚くべきことに作者の今井神先生は、『NEEDLESS』の元となるストーリーを、デビュー以前の学生時代で既に完成させていたらしい……!
子どもの頃に考えたお話を、商業誌で連載する。漫画家志望者なら一度は夢見るであろうことを現実にしてしまった今井先生は、見事全16巻にて、商業誌版『NEEDLESS』を完結に導いた。今回はその今井先生に直撃し、学生時代の原作版にまつわるお話から、単行本最終巻のネタバレ全開エピソードまで幅広くお聞きしてきた!

『NEEDLESS』の元となった漫画(いわゆる「原作NEEDLESS」)は、中学から高校生の頃にかけて描かれていたそうです。描き始めようと思われたきっかけはなんでしょうか?それ以前からも漫画は描かれていたのでしょうか?

今井:小学生の頃からインドア派でドラゴンボールみたいな漫画を自由帳に書いていたんですが、これじゃモテないだろと中学デビューを目指して柔道部に入った所、左腕を盛大に骨折。なんかね、肘周辺の骨があちこち折れてぺちゃんこになって、破片が筋肉の中に飛び散っちゃったらしくて、今でも腕がまっすぐ伸びない後遺症が残るほど。で、自分に運動神経がないのを改めて確認、中2くらいからまた漫画を描き始めました。ニードレスの前にも、嫌いな教師を皮肉った漫画とか、剣と魔法のファンタジーとか色々描いていました。
で、キリスト教系の中学だったんで聖書の授業があるんですよね。自分は無宗教だったんでそれが嫌いだったんですが、でも聖書には面白エピソードがチョコチョコあるんで、ソレを読んでいるウチに、当時流行りだした「サイバーパンク」とか「スチームパンク」で聖書をやってみたいなと思って描き始めたのがニードレスなんです。

第三次世界大戦後の世界、第二のキリスト、能力者バトルもの……様々な要素の上に『NEEDLESS』という作品世界が成り立っていますが、そもそも描き始めた時、一番最初に先生の中にあったイメージやモチーフはなんだったのでしょうか。

今井:「ニードレス」という単語がまずありました。「ニードレストゥセイ=言うまでも無く」って英語を習った時、「この単語使える!」って。「必要なき者」みたいな感じの解釈にすれば格好いいじゃないですか。漫画を描いていたのはほとんど授業中だったので、アイディアは授業で流れてくる単語からってのが多いですね。あ、全然関係ないんですけど、聖闘士星矢の「スカーレットニードル」って技の名前がすごく好きで、それに似ていたのも一因かも。

アダム・ブレイドは、「クヨクヨ悩まない主人公」を目指して作られたそうですが、そのような主人公像で描こうと思われた理由は何かありますか?

今井:これは当時、「バスタード」や「北斗の拳」タイプの「ごついオッサンが主人公」の豪快漫画がだんだん減っていって、いわゆる普通体型の等身大少年の心理描写ばかりで葛藤しまくる漫画が増えてきたからだと思います。僕の好きなタイプの漫画減っちゃったなあ、じゃあ自分で描こう、って。読者さんが将来悩みにぶつかった時、「アイツならこんな事で悩まないよなあ」って思い出して元気を出してもらえる方が良いかなって。

世界観+設定とキャラクター、どちらの方を先に思いつかれましたか?

今井:世界観は、当時流行りはじめていた「テーブルトーク」で作りました。テーブルトークって言うのは、ファミコンとテレビの役をゲームマスター(進行役)がやる会話形式のRPGみたいなもんです。他の参加者はそれぞれ自分のキャラを演じる(ロールプレイする)わけですね。僕はゲームマスターをやることが多かったです。
で当時サイバーパンクのテーブルトークRPGのルールブックが出たんです。「AKIRA」とか流行ってましたからね。友達にもちょっとアイディア出してもらって「BLACK SPOT」などの世界を作り上げました。「道を歩きながら国防総省のコンピュータにハッキングできる」とか、もう文字通り中二ですから設定がやばいんで大半は黒歴史なんですが、使えるネタだけ昇華して漫画に使ってます。ちなみに「ディスク」というキャラは、その時は肩幅の広い黒スーツの男でした。

ブレイドの「幼女好き」という設定が一気に読者の親しみやすさを上げていると思うのですが(笑)、この設定を入れようと思われた理由は?

今井:自分がそうだからッ! いや、ブレイドって強いし仲間あんまり大切にしなさそうな性格じゃないですか。でもそれだと一匹狼になっちゃうから話が進まない。だから「仲間は大切にする」っていう設定が必要だったんです。でも例えば、ちょっと前までお互い「殺す!」とかいって戦っていて、仲間になった途端「仲間は守る!」とか言われても寒いんで、「おれちっちゃい女の子大好き!だから守るね!」の方が面白いかなって。それに、どんなキャラにも弱点がないと面白くないですしね!

ヒロインのイヴはどのようにしてキャラクター設定が固まっていきましたか。

今井:最初は「ふんどし」の事しか考えてなかったです。昔のファンタジーで良く出てきたふんどし娘を近未来の漫画に登場させたいなって。
で、あとは原作ではバイクや車に「変身」してそれにブレイドが乗るっていう設定だったんです。ただ商業誌版では「変身(コピー)っていう能力名普通すぎない?変えない?」って編集部に言われて、読み方を「ドッペルゲンガー」に変更しました。
結果、ドッペルゲンガーらしく「他人に変身する」事を最初に見せなくてはならなくなり、バイク変身、車変身のシーンは差し替えました。商業誌版で初登場時(だけ)にバイクに乗っていたり、「無機物変身が得意」って言われているのはその名残だったりします。

先生の作品で欠かせないのが「ギャグ」と「エロ」要素です。この二大要素は、「原作NEEDLESS」の頃から変わらず取り入れていたのでしょうか?

今井:入っていました。エロで言うと、中2の頃はまだロリコンじゃなかったのでお姉さんキャラの離瑠とかボロンボロン出していました。若かったですしね!!ただクラスメイトがモデルのキャラも大量にいたので、その子に見られると気まずいのでパンチラ止まりだったり(笑)
ギャグも、例えば2巻照山紅葉戦の「話の途中だったんだけどね」っていうシーンはまんま原作通りです。機会があったらお見せしますね!

作中では、分子振動にポジティブフィードバックや暗黒物質……などなどの科学的な知識が設定の下支えとしてふんだんに用いられていました。そのような情報はどのようにして/どのような理由で取り入れていたのでしょうか?

今井:これね、さっきも言いましたけど授業中の単語を……ほとんど聞いてないんですけど、ソレを拾ってアイディアにしているからなんですね。「アークライト」って名前は確か社会科か倫理あたりの資料集で探した記憶があります。
それと当時NHKスペシャルで人体やら遺伝子やらの番組がCGをふんだんに使って盛んに放送していまして、今では覆されている説もいっぱいあるみたいですけど、かなり勉強になりました。
あとは商業誌版を始める前に参考になったのは関西方面でやっていた『モーレツ科学教室』って番組です。ちゃんと科学の仕組みを教えてくれてタメになる番組なんですが、「すごい不謹慎なNHK」みたいで面白かったんですよね。大学時代に関西出身の友人にビデオで見せてもらって、ポジティブフィードバックはそれで知りました。そこに出てくる「とんち博士」、今はなんと政治家になっているみたいですけど、彼がゴミ箱から飛び出したり、ブリーフ一枚で暴れ回ってたんですよその番組で(笑)!

漫画家デビュー作『NEESLESS1.5』は原作の合間のエピソードだった訳ですが、やはりデビュー以前から「いつかは『NEEDLESS』を連載作に」という思いがあったのでしょうか?

今井:ソレしか考えていませんでした。「連載をもらえるまで新人漫画家は根性を試される」ので、とにかく2ヶ月に1回は新作を勝手に編集部に持って行ってたんですが、半分はニードレスシリーズでした。そのおかげか、連載を始める時も「ニードレスで行こうか」って言ってもらえました。なんとかの一念なんとかも通ずってやつですよね!(うろおぼえ)

数ある漫画雑誌の中から、投稿先として「ウルトラジャンプ」を選ばれた理由はなんですか?

今井:割と融通が利きそうで(笑)、連載ペースが地獄じゃない雑誌って事で月刊誌を探していました。一番は当時僕の好きな漫画「バスタード」「銃夢」が連載していたからですね。

『NEEDLESS』関連以外の読切作品も多数お描きになっており、その中には「連載にするつもりで描いていた」という作品もあったそうです。『NEEDLESS』が連載に至るまでのひきこもごも(例えば『NEEDLESS』がオクラ入りになりかけた等)があれば教えてください。

今井:言っていいのか分からないんですけど、当時の編集部の中に「ギャグ」がすごく嫌いな方がいまして。「ギャグマンガ」を描いて持って行くと、「今井君、ちゃんとした漫画描けるのになんでこんなふざけたの持ってくるの?」って言われるんです(笑)
「ギャグ=ふざけたもの」って思われていたみたいなんですよ。ホラ「お笑い芸人=馬鹿」って思っちゃうみたいな。で、今では完全に一般化してるんですが、「なにしてんだコラア!!」って言う突っ込みシーンとかで、目をまん丸に、口を真四角に描く技法あるじゃないですか。記号っぽく描くっていうのかな?当時持ってった作品には、ギャグだからそういうシーンが何カ所もあるわけですが、そのシーン全部、普段のタッチに直せって言うんですよ。一応、言われた通りに描き直してね。ただ切り抜いて上からセロテープで張って出しました。すぐ剥がせる様にして。「でもこれ直したら面白くなくなっちゃいますよ?このシーンこういうタッチだから面白いんですよ」って長々説得して、結局僕の意見が通って元のまんま掲載されました。それからしばらくも、ギャグを書いていくと怒られる→でもアンケート結果は良いってのを繰り返して、ようやくニードレスが連載される頃にはギャグを好きなだけ描ける様になったんです。ソレまでは嫌がられるからシリアスとギャグを交互に持って行ってましたからね。大変でしたけど、アンケートで応援して下さった読者のお陰です!感謝!

当初からのちのちの伏線をいくつも貼っており、中には回収に至るまで数年かかっているものもあります。次々と伏線を貼っていた時はどのような気持ちでしたか?

今井:大まかな話は原作で完成したので、伏線を張るのは簡単なんですよね。あとは「回収するまでに打ち切られなければ良いなー」というのが一番の気がかりでした。だから最初はいつでも終われる様に、4話単位くらいのエピソードを目指して描いていました。
たまにさりげなく盛り込んだつもりの伏線部分をホームページなどで質問されちゃったりすると焦ります。しかも「矛盾してる!間違いだ!」とか言われると反論したくなっちゃうんですよね。「第五波動って書いてありましたけどあれ第四波動の間違いですよね!」とか(笑) ほんと考察とかネットで見ると、ほとんどバレてますからね。よく読んでくれてるなあって嬉しくなります。

約10年間の連載で、様々なバトルシーンをお描きになっています。先生自身が、作画的に一番上手く描けたと思うバトルシーンはありますか?

今井:描いていて楽しかったのは少女部隊戦でやった逆ミニチュア部屋バトルですね。「なるべく毎回違うバトルフィールドで」と思っていたんですが、当時食玩が流行り初めていた頃で、じゃあその逆をやろうって。でかいはさみやボールを使ったバトルは楽しかったです。
上手く描けたのは13巻の終わりから14巻にかけて、最終章「街編」に突入したバトルですね。目的地に向かいながら、いろんな敵と次々に戦っていく今までの集大成みたいな感じで、新しい試みやアイディアも出し惜しみせずなかなか良い密度で描けました。あと僕は背景も全部自分で描くので、街の背景も大変だったんですよね~。

その他、連載を通じて技術面・意識面で何か大きく変化した点はありますか?

今井:最終巻で、いかに迫力ある、存在感ある、重量感のある最終バトルを描けるかって意気込んで一生懸命やったら、なんかどんどん劇画調というかアメコミ調になっていきました。
ジャンプ黄金期の漫画って結構色が付いていたのが多いじゃないですか。「聖闘士星矢」「ろくでなしブルース」「JOJO」「北斗の拳」「男塾」「シティハンター」とか……今の漫画より劇画というか紙面が黒いというか、ちゃんと色が付いている。そういう時代の漫画が好きなので、それに近づいていったのかなって思っていますし、これもいいかなって思っています。


WARNING!!ここから先は最終巻のネタバレが含まれます!!


ラストバトルでは、敵の親玉の補佐役が真の黒幕というどんでん返しが待ち受けていました。この展開にしようと思われた理由等あれば教えてください。

今井:実は原作の段階でもう黒幕は決まっていたので、ちゃんと読んでいて、勘の良い方なら黒幕の見当が付く様にかなり早い段階から「違和感」っぽい伏線を蒔いていたつもりなんですよね。
あいつの能力でビルを音も無く消滅させるのは無理じゃね?とか、なんで過去のイヴは溶けたの?とか、熱を司る能力のはずなのにダークマターとか言い出した!とか。7巻巻末の用語解説にも「とある人物の過去に語られていない部分がある。ここが重要かも」みたいに書いてあるし。さっき言った「第五波動」とかね。
アニメのスタッフさんにもこのオチは何となく話していたので、アニメでも1度ラスボスみたいになってますよね。読者の裏をかく「予想を裏切る」展開も面白いんですが、「やっぱりね!そうだと思った!」っていう「期待を裏切らない」展開も大事だと思うんですよ。特に「左天」のキャラや「第四波動」という能力名は自分でも一番気に入っていたアイディアですし、実際読者さんからも人気だったみたいでラスボスとしては合格かなって。
漫画含め表現物って全部そうですけど、結局「こんなアイディア僕は好きなんですけどみなさんどうですか?」 っていう提案でしかないんで、それに賛同してくれる人が現れるのが最高の喜びですよね。

1巻あとがきで「最初は弱い主人公が、冒険してだんだん強くなっていく」話は作れないと仰っていたなか、最終決戦での能力覚醒、さらにその能力がラストバトルでの鍵を握っていた……と、クルス、もとい山田は最初から最強の表主人公のブレイドに対して、物語を通して次第に成長する裏主人公となっていたと思います。彼の成長は当初の想定を越えていたのでしょうか?

今井:実は……連載してみて「主人公の成長要素って物語にやっぱり必要だな」って痛感しまして、8巻以降はクルスを第二の主人公にしてみました。ホント月刊誌だから1年以上表の主人公出てこなかったんですよね(笑)
もともと、話が長引いたらクルスをニードレスにして終わろうと思っていたんですよね。急に打ち切られたら能力覚醒の段階は描けないけど、例えばあと2年くらいで終わらせようかなっていう状況だったら彼を能力者にして終わろうって思っていました。幸運なことに実際そうなって編集部に感謝しています。「もう3話くらいやって良い?」「もうちょっと描き足して良い?」っていうワガママを何度もOKしてもらったので、その結果普通180pくらいで一冊になるんですが、最終巻270pくらいになってしまいました。むしろそっちの方が想定外だった(笑)

山田が男の娘化、最終的に女の子に性転換してしまう展開は当初からの予定通りだったのでしょうか(笑)?

今井:冗談の連続です。全然予定通りじゃないです。
……当時「男の娘」はまだあんまり無かったんですけど、「女装して女子校に潜入」ってジャンルのエロゲが流行ってたんですよね(笑) おもしろいなあって。
である時、いずれは主人公にという気負いか、クルスを描くのが苦痛で苦痛でしょうがなくなったんです。バトルもないキャラだし、大きな特徴もない地味なウジウジ男キャラがイヤになって。んで遊びで女装少年にしてみたら、まー楽しくて。顔のパーツは殆ど同じなのに、女の子だと思うだけで楽しくすらすら描ける様になったんですよね。幸か不幸か、読者からの苦情も殆ど来なくて。というか全国のヘンタイ紳士から絶賛の声が来たんです。「もっとやれ!」って。それで最後まで女装というか、最後は本当に女の子にしてしまいました。
まあ「男の娘」がブームになったとは言え、嫌いな人は嫌いだし、あくまでマニアックなジャンルだったので、王道はもう性転換かなって。僕は人魚姫が人間になったかの様な「良かったね」感で一杯ですが、全国の「男の娘だからいいのに」派の方々には本当に申し訳ありませんでした(笑) あ、あと「読者に僕ホモだと思われてるんじゃないか」っていう恐怖感も若干ありました(笑)
……ロリコンで男の娘のエロゲたくさん持ってるけど、自分ではノーマルだと自負しております。

最終話にて、デビュー作「NEEFDLESS1.5」と本編がどのようにして繋がるのかが解き明かされました。「1.5」を描いていた時の気持ちと、10年の時を経てその伏線を回収出来た今の気持ちを教えてください。

今井:今思うと良くこんな思い切った事したなあと思います。デビュー作が「1.5」ですからね。「1から描けよ」ですよね。ほらストーリー的に「ドラクエ1より3の方が時代が前」とかはありますけど、いきなり最初に「ドラクエ2」とか出さないじゃないですか。アホですよね(笑) こんだけ大風呂敷広げてもし1.5につながらなかったら袋だたきですよね。だから今はとにかく最終回が打ち切りエンドにならず良かったですし、これでやっと休めると思ってすごく安心してます。

今後の目標を教えてください。

今井:痩せることです。10年間の連載のストレスと、タバコ辞めた事で20kgも太ってしまいまして……もう恥ずかしくてサイン会とか出られないので痩せたいです。

高校時代に描いていた「原作」には「2」まであるそうです。今後『NEEDLESS2』を執筆する予定はありますか?

今井:もちろん全部の謎が残らず完全に解けたわけではないので、いつかは亜式や妙華が登場する「2」を描きたいと思ってます。ただ、編集部と話して、次回作は雰囲気を変えていこうって事で別の漫画を描こうと思ってます。例えば剣と魔法の世界とか。でも次の連載がポシャれば案外早く『NEEDLESS2』を描くかもしれませんね(笑)