見出し画像

えのきづ先生インタビュー【琴浦さん/アクレキ】

『琴浦さん』によって、個人サイトでの作品公開から書籍化・アニメ版放映と、漫画界のシンデレラストーリーを駆け上がり、近年4コマ誌や新創刊の「月刊アクション」に自身初のストーリー漫画を連載するなど活動の幅を広げているえのきづ先生にインタビューを敢行しました!

初めて漫画を描かれたのはいつ頃ですか?

えのきづ先生(以下えのきづ):多分小学生ぐらいの頃だと思います。多くの人がやるのと同じように、チラシの裏とかノートに描いていましたね。その頃は『キン肉マン』が大人気で、描く漫画は「○○マン」みたいなキャラクターが敵と戦う漫画ばかり描いていました(笑)
そんな感じで中学ぐらいまではちょこちょこと描いていたんですけど、高校生になる頃にはいったん全く描かなくなっちゃって。

それはなぜなのでしょうか?

えのきづ:中学ぐらいから興味の対象が漫画よりもパソコンの方にいっちゃったんです。自分でプログラミングをいじって、ゲームばっかり作ってましたね。自分ひとりでゲームを作るとなると、ゲーム画面で使う絵も自分で描かないといけないので、ドット絵を描いたりはしていたんですが。

そこから、再び絵なり漫画を描くようになったのはいつ頃なのでしょうか?

えのきづ:相当年を食ってからですね(笑) 仕事始めて社会人になってから大分経ち、仕事にも慣れ始めてきた頃に多少暇な時間ができたんです。じゃあその空いた時間で何しようというところで、描いたイラストや漫画をネットに上げるようになったんです。

きっかけとしては、ネットの存在があった訳ですね。

えのきづ:それまでは一人遊び的に描いていたものを、他の人にも見てもらえるような場所ができたというのは大きかったですね。当時はネットが一般にも流行り始めた頃だったので、時期も良かったと思います。

そこから、ご自身のサイト「ENOKIX」の立ち上げに繋がっていくのでしょうか。

えのきづ:ネットで色々イラストとかを描き始めると、手元に画像がいっぱい溜まってくるじゃないですか。当時はpixivのような投稿サイトも無く、それらをどこかに公開しておく場所があったらいいなということで、自分のサイトを立ち上げて描いた順にイラストを公開し始めたのが最初ですね。
それと当時は、いわゆるお絵描き掲示板というものがすごく流行っていたんです。作画ツールとかがまだ普及してない頃で、そういうツールを持ってなくても描いて投稿出来るというところで人気があったんだと思います。自分のサイトにも掲示板を置いてそこに人を集めて、その中で絵を描いて遊んだりしていましたね。そこで知り合った当時の人達とは今でも交流がありまして、中には漫画家やイラストレーターになっている方もいらっしゃいます。

琴浦さんの1巻などに、10年来の友達というイラストレーターの方から寄稿イラストが掲載されておりましたが、そういった方達は……

えのきづ:その辺りの人は皆、当時のお絵かき掲示板やチャットで知り合った作家さんです。周りに漫画やイラストを描く知り合いがいなかったので、そういった繋がりは全てネットを通してですね(笑)

その頃から「えのきづ」名義で活動されていたようですが、ペンネームの由来は何ですか?

えのきづ:最初の頃はyahooの掲示板を使っていたんですが、そこを使うにはまずはじめにIDを登録しないといけなかったんですね。最初は自分の名前で登録しようと思ったんですが、すでに誰か他の人が使っていたようで登録出来なくて。それで適当に色々と試している内に、たまたま登録出来たのが「えのきづ」という名前だったんです(笑)

先生的には、こだわって決めたものではなく、たまたま決まったものだったんですね(笑)

えのきづ:こういう理由だからあまり話したくはなかった(笑) こちらも最初は普通に「えのきず」と入れたんですけど、そっちはもう使われてたので、結局「えのきづ」という変な綴りになったんです。
とにかくその掲示板では、自分のIDがみんなで呼び合う名前にもなるので、そこから「えのきづ」「えのきづさん」と掲示板の人に言われるようになって、そうしているうちに皆さんの間で定着してしまって、変更するタイミングを見失ったちゃったんです。
だから、僕から学生さんにアドバイスとして言えることが一つあります。ペンネームを考えるときは、一番最初にちゃんと決めた方がいい!将来どうなるかはわかりませんが、いざ漫画家になる!という時には、その前に色々活動していて変えようにも変えられなくなっているはずなので(笑)

『琴浦さん』が4コマな本当の理由

サイト運営と合わせて同人誌での活動もされていたようですが、始められたきっかけはなんだったのでしょう?

えのきづ:お絵かき掲示板の中で知り合った作家さんの多くが同人活動をやっていたので、それに影響されて始めました。といっても最初の内は自分で1冊本を作りきる気力も無く、仲間内で年に1回合同誌を出すくらいで、個人誌を出し始めたのは大分後になってからなんです。

サイトの同人誌情報を見ると、2007年が個人誌としては一番古いようです。2007年といえば、後にデビュー作となる『琴浦さん』をご自身のサイトで公開され始めたのもその年ですよね?

えのきづ:そうですね、同じ時期だったと思います。

その年からコミティアに毎回参加されるようになったりと、積極的に漫画を作りあげていくようになったようです。何か先生の中でターニングポイントがあったのでしょうか?

えのきづ:それはね、ありました(笑) ちょうどこの頃に、コミティアに初めてサークル参加したんです。その時は全然売れなくて、なんと2冊しかはけませんでした(苦笑) それがすごくショックだったし、知り合いの作家さんにも「お前何やってんだ」と呆れられたり色々言われたりしましたね。

差し支えなければ、その「色々」を具体的に教えてください。

えのきづ:とにかく同人スキルというものがまるでなかったんです。まず指摘されたのが、表紙が地味すぎること。スペースの机が茶色なのに、表紙の色が茶色の本を作っちゃって(笑) おまけに普通だったら机の上に布なりなんなりを敷くものじゃないですか。そういうのも全然やらずに、そのままドンと机に本を並べて、値段も手書きで書いて置くだけという感じでやっていました。とにかく本の中身というよりも、周りの見せ方が良くないと。売れなかったのはそっちの方が大きかったですね、中身以前にまず手にとってもらえない訳ですから。
とにかくやるからには、もうちょっと頑張らないとという気持ちになって、真面目に漫画を描き始めたのがちょうどその頃ですね。

そんな中描き始めたものの一つが『琴浦さん』だった訳ですね。以前のインタビューで元は練習用として描き始めたと仰っていましたが……

えのきづ:そうですね、コミティアに参加して、より多くの人に手に取ってもらえる本を作るための練習用として最初は描き始めました。まずは漫画を描くことに慣れないとまともなページすら描けないだろうということで、最初の内は漫画の出来よりも、ラフでもなんでもいいからとにかくちょっとでも時間を見つけて毎日描く、ということを目標にして『琴浦さん』は描いていましたね。琴浦さんが4コマなのも、練習用だったことが理由だったりします。

それはどういうことでしょうか?

えのきづ:コマ割の手間を省くためです。練習なので、とにかくガンガン描いていくのが大事なのであって、コマ割で悩んでいるヒマなんてないんだ、と。まあ正直に言うと、コマを割るのが面倒臭かったんですね(笑)

ある種の省力化として、4コマがあったと(笑)

えのきづ:それと、ネットでの更新がしやすいというのもありましたね。4コマだと一日一本ずつというペースでも更新していけます。逆にストーリー漫画だと、1ページ描くのも時間がかかりますし、毎日1ページずつ更新しても読者が追いにくいじゃないですか。4コマだったら1本ずつでも読むことは出来るだろうと。『琴浦さん』は4コマを描いているという意識もないままに描き始めたので、今でも4コマを描こうと思って描いていないんです。ちゃんと4コマを描いている作家さんから怒られてしまいそうですが(笑)

しかし、4コマという形式を意識しなかったことが、『琴浦さん』のコメディとシリアスを行ったり来たりする、4コマらしからぬストーリー展開を生み出すことになったのかもしれませんね!
ともかく、その練習用だった『琴浦さん』がマイクロマガジン社の目にとまり、単行本・連載デビューを果たすと。その時の顛末は巻末あとがき漫画などで触れられているのでそちらに譲りますが、デビュー後もしばらくは兼業作家として会社務めも続けられていたとか。当時はどのような感じで執筆をされていたのでしょう?

えのきづ:会社が終わった後と土日休日は全て使って描いているという感じですね。そして他は何もやらない(笑) 仕事するか漫画描くかという感じの生活でした。漫画を描き始めていた頃が仕事も比較的落ち着いている時期で、休日出勤があるような感じでもなかったのも大きかったですね。

そこから専業に移られた理由はなんですか?

えのきづ:今の話とも繋がるんですけど、次第に仕事のほうがどんどん忙しくなってきてしまい、漫画家とサラリーマン、どちらを選ぶかという2択になっちゃって―さすがに両方を選ぶのは無理なので―、せっかく漫画で仕事が出来るという感じにもなってきたので、じゃあ漫画家やってみるかと。仕事が辞めたかった訳ではないです、決して(笑)

まずはキャラクターが第一!えのきづ先生の仕事現場

作品制作において、気を付けているポイントを教えてください。

えのきづ:セリフ中心な4コマが多いというのもあるんですけど、セリフは毎回特に頑張って考えています。同じ話の内容にするのにしても、言い回しの違いでイメージが変わってきたりしますので、そういった所の微調整ですね。なので自分のネームはほぼセリフのネームと言っていいですね。絵を描かないでセリフだけ入れていくこともありますし、ネームに絵を入れることはあってもそのままで描くことはあまりなくって、絵の方は実際に原稿を描く時に決めることが多いです。

ネタ出しなどはどのようにされていますか?

えのきづ:作業はネームや作画含めてすべてパソコンでやっているので、思いついたネタは全部パソコンにメモしています。こういう話を今後描きたいなというのもありますし、ちょっとした、たとえば「今自分が気になる萌えポイント」みたいな(笑)、どうでもいいものなど使う予定がないのも含めて、ちょっとでも気になったことはなるべくメモして書き溜めています。琴浦さんにこういう表情をさせたい!といった結果が先にあって、そこまでの過程を後から考えたりという話の作り方もあります。

物語展開において、読者の意見をかなり取り入れられていると伺ったのですが。

えのきづ:かなり影響を受けますよね。皆がこういった展開は予想しているだろうというのを想像した上で、あえて避けるように逆張りする時もあります。まあ『琴浦さん』の第3部みたいに、逆を狙いすぎて行き過ぎちゃうこともあるんですが(笑)

あそこは色んな意味で衝撃的なラストでした(笑) とにかくどの作品に関しても、キャラクターが作品内を自由に動き回っているイメージがあります。

えのきづ:自分は基本的にキャラクター重視というか、キャラさえ作れば後はどうにかなるだろうみたいな考えで漫画を描いているところがありますね。一回キャラさえ出来てしまえば、そこから先は勝手に話は転がっていくという気持ちが強いです。

最近は『琴浦さん』を筆頭に、連載量がどんどん増えていっています。何か苦労していることはありますか?

えのきづ:実際に連載として動いちゃっているものについては、それこそキャラクターができているのでそんなに苦労はしないんです。逆に苦しいのが、今から新規で描いてくださいというものですね。実は今も水面下で色々やっているんですけど、なかなかキャラが動いてくれなくて苦労しています。

それらの作品が早く日の目に出て欲しいですね!現在連載中のもので一つ取り上げると、月刊アクションで連載中の『アクレキ』は、2011年に出された同人誌がベースになっているようです。

えのきづ:元々本当は、双葉社さんの別雑誌で4コマを描かせて頂く予定だったんですね。ただちょうどその頃、ちょっと調子に乗っていたというか(笑)、「最近4コマばっかりで飽きてきちゃったんですよね~」みたいな感じのことをつい言っちゃったんです。そしたら編集さんに「それならストーリー漫画でも良いですよ」と言われて、その時は、またまた~という感じで笑って終わったんですけど、次に話が来た時に「編集長の了解もらいました!新雑誌やるんでそちらにお願いします」と担当さんに言われしまって、気が付いたらそちらで描くことになってしまいました(笑)
それで連載前の準備作業として、まずは編集さんにプロットを出さないといけなかったんですが、会う当日まで連載案が全然思いつかなくて……何も持っていかないのもどうだろうと、苦し紛れに昔描いた同人誌を持っていったんです。そうしたら「これでいきましょう」と採用されちゃって(笑)

先生としても予想外の展開だったんですね(笑)
そういえば、現在連載中の『桜乃さん迷走中!』も『アクレキ』も、女の子二人が「同棲する」という要素が同じですね。何か理由はありますか?

えのきづ:それはわかんないですね(笑) 描いてたらそうなっちゃうとしか。多分話が作りやすいんですよね。別々に住んでいると、まず会うところから描き始めないといけないんで、やっかいなんでしょう。同棲してたら、基本部屋の中で話が全部済むじゃないですか。どれだけ省エネで描くかというのは、自分の一大テーマなので(笑)

長く漫画家を続けていくには、省エネ術は大切な技術だと思います!
本日はありがとうございました、最後に漫画家を目指す学生の方にメッセージをお願いします。

えのづき:そもそも漫画家目指さなかった人間が言っていいことなのかっていうのがあるのですが(笑)  それはともかく、漫画家って年なんて関係なくいつからでもやれる仕事ですから、漫画家だけを目指して視野が狭くなってしまうよりかは、いろんなことをやりながらもう一方で漫画を描き続けていた方が良いのではないでしょうか。とにかく、色んな人に見てもらえる場所で描き続けていれば、その内どうにかなっていくはずだと思うので、気軽にどんどん作品を描くのが良いと思います。

しかしそのためには、先生が『琴浦さん』を毎日描かれてサイトに更新していたように、アウトプットを欠かさないことが大切なのでしょうね。

えのきづ:多分そこが一番難しいところなので、とにかく続けるというのが大事ですね。