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小原愼司先生インタビュー【二十面相の娘/地球戦争】

SF小説の傑作が、漫画によって鮮やかに現代へと蘇る!「月刊スピリッツ」で連載中の『地球戦争 THE WAR OF THE HUMAN』は、H・G・ウェルズの「宇宙戦争」を作品のベースにしながら、貧民の男の子と上流階級のお嬢様による「ボーイミーツガールもの」になっているなどの、大胆なアレンジが加えられた快作である。作者の小原愼司先生は、以前に江戸川乱歩の代表作を大胆に翻案した『二十面相の娘』を手掛けられており、その実力と手腕は折り紙付きだ。
インタビュー前半ではデビューまでの道のりから創作活動全般について、後半は『地球戦争』を中心に、今月からアフタヌーンにて短期集中連載が始まった『星のポン子と豆腐屋れい子』ついてまでお聞きした!

Q1.はじめて漫画を描かれたのはいつ頃ですか?

小原愼司先生(以下小原):鉛筆での簡単な漫画は小学生、低学年のころには。中学のころには漫画好きの友人たちと
B4の紙を8ページになるように折りたたんだもので定期的に漫画本を作ってました。ペンやトーンを使ったのもこの頃です。

Q2.以前のブログの記述によると、高校生の頃は美術部に所属していたそうです。どのような活動をしていましたか?また、小原先生はどのような学生生活を送っていましたか?

小原:美術部では油絵を描いてました。あとの学生生活は漫画、映画、小説にひたすら費やしてました。バイクにも乗りだしたおかげで遠くの映画館や本屋に行くようになりました(笑)

Q3.学生時代の愛読書を教えてください。

小原:児童文学が多かったです。ドリトル先生シリーズやリンドグレーンの名探偵カッレくんは話も挿絵も好きでした。
藤子不二雄 吾妻ひでお 諸星大二郎は別格で。

Q4.一度会社にお勤めになってから漫画家を目指されたそうです。なぜ改めて漫画家を目指されるようになったのでしょうか。

小原:高校を出て就職したのですが、やっぱり漫画描きたいな、と思って。

Q5.デビュー以前の投稿時代に、何か目標、計画は立てましたか?

小原:会社を辞めて1年描いて投稿して、何にも引っかからなければ諦めようと思ってました。結局1年で3作投稿し、3作目でアフタヌーンに拾ってもらいました。

Q6.デビュー先となったアフタヌーンを投稿先に選ばれた理由は何ですか?

小原:アフタヌーンには好きな漫画が載っていたのです。「岸和田博士の科学的愛情」と「寄生獣」。
俺もここに載りたいと思いました。

Q7.デビュー直前あるいは直後で、強く心に残っていることがあれば教えてください。

小原:デビュー後ネームに詰まってだらだらしてた時、編集の人からの電話に「なかなか描けなくて~」と言い訳したら「描かなきゃはじまらないよ」と言われたことです。今でもとにかく描け描け、と自分に戒めてます。あとは、はじめてファンレターをもらったこと。読者の感想を聞けたこと。今でも励みになります。

Q8.プロットやネームなど、お話を作っていくときに意識していること、注意していることなどあれば教えてください。

小原:読者にちゃんと伝わるか?これが自分の描こうとしてる事か?これホントに面白いか?

Q9.現在の作画工程を教えてください。アシスタントさんとの作業分担をどのように行っているのかも教えてください。

小原:ペン入れまではアナログで仕上げはコミックスタジオです。
背景は特殊な場合を除いてアタリをつけたらアシスタントさん任せです。

Q10.構図を決める際注意していることがあれば教えてください。

小原:読者に何が起きてるかわかりやすいか?

Q11.現在先生は大阪在住とのことです。東京近辺よりもアシスタントさんの確保が難しいかと思われますが、先生はどのようにされていますか?

小原:女性が多いのですが、アシスタントさんがまた別の方を紹介してくれるパターンで今のところなんとかなってます。基本的にアシスタント経験がある人が来てくれるので上手く回っています。

Q12.小原先生の描くヒロインは、どこか「一筋縄ではいかなそうな感じ」が個人的に魅力的なのですが(笑)、女の子達のイメージはどこから引っ張ってくることが多いですか?

小原:たぶん妄想7割、今までに見た色々な女性(現実、映画、ドキュメントやニュースの断片)の集合体だと思います。

Q13.早くからホームページを開設したりと、小原先生は読者との交流を積極的に行っている印象を受けます。読者からの反応が作家にとってどれくらい大きいのでしょうか?。

小原:めちゃくちゃ大きいです!最近ではメールで感想をいただく事も多いですがファンレターを貰って思ったのは自分も好きな漫画家に送っとけば良かったと思いました。
感想を参考にしますが割りとそこから逆の発想が出る事が多いです。あ、こう思ってるのか、なら逆のこうもあろう、みたいな。

Q14.「二十面相」で「古典的なものを今の味付けでやるということに自信がついた」と、『地球戦争』1集のトニーたけざき先生との対談で仰っていましたが、そんな中今作で『宇宙戦争』をモチーフに選ばれたのはなぜなのでしょうか。

小原:宇宙戦争に限りませんが極限状況というモチーフに昔から興味がありました。そんな中でまず思い出すのが宇宙戦争であり、古典的な侵略SFでした。

Q15.「貧民の男の子と上流階級の女の子のボーイミーツガール」という要素は『宇宙戦争』にはないものです。彼らを主人公に据える、という翻案にはどのような意図があったのでしょうか。

小原:まず、少年と少女の物語が先にありました。ストレートなボーイミーツガールというのも今まで描いた事が無かったのでそこをぜひやりたいと思ったところからがスタートです。

Q16.そのほか、『宇宙戦争』から意識して守ろうとしている部分、現代に合わせて変えようとされている部分があれば教えてください。

小原:古いイギリスの時代の匂いは消したくないなと思ってます。人間同士の関係は時代が変わっても同じだと思いますのでかえって人間が際立つかと。
特に現代に合わせてとは考えてません。ただ自分の物語にきちんとしようとは思っています。

Q17.各話の題が、それぞれに小さな物語が広がっているように感じられて良いのですが、あちらは小原先生が考えていらっしゃるのでしょうか?

小原:あれは僕が考えますが、担当編集の方も気に入ってくれていてボツが出たこともあります(笑)

Q18.銅版画のような見開きをトニー先生からの影響で使われるようになったそうですが、それを「毎回必ず使う決まり」にされたのはなぜなのでしょうか。

小原:単に古い時代の漫画と見逃されるのが怖くて、何か絵的にこれ!という見せ場が欲しかったのです。で、以前トニーさんがやっていた表現を思い出しちょうど作品の時代的に合うなと思い、始めました。「あぁあのエッチング風の見開きのある漫画」と言われるくらい定着するのを目指してます。老眼がはじまったのでキツイですが(笑)

Q19.アフタヌーン10月号から、トニーたけざき先生とタッグを組まれた『星のポン子と豆腐屋れい子』の短期集中連載がいよいよ始まりました。作品のイメージはどのようなところから膨らませていきましたか。また1話目にとある「仕掛け」が施されています。どのような狙いであの仕掛けを取り入れたのでしょうか?

小原:トニーたけざきさんは普段から親しくお付き合いさせて頂いているのですが、尊敬する先輩漫画家であり、僕は一ファンでもあるので、「トニーたけざきのどんな漫画を自分は読みたいか?」というところからスタートしました。一話の仕掛けはやはり驚いてもらいたいというのが第一目的です。こんな漫画が始まりましたよ、と印象付けたかったのです。小原が描きそうでもありトニーたけざきが描きそうでもあり、どっちも描いてなさそうな漫画を目指しました。

Q20.原作のお話作りにおいて、トニー先生と相談しながら作っていますか。それとも、お互いの作業は厳密に分けた上で作っていますか?

小原:基本的には僕がネーム(原作はネーム形式です)を上げてから、編集者とトニーさんと三人で打ち合わせをする形です。その段階で色々アイデアも入りますしストーリーに影響しない細かい変更はトニーさんにお任せです。直接2人で漫画の話は何となくしませんでした。
デザイン的には僕のふわっとしたネームの絵をトニーさんがはるかに良いイメージで形にして下さり僕が口を出す必要はありません。

Q21.デビュー作から作品を追うと、次第に「エンターテイメントとしてのとっつきやすさ」が増してきているように思われます。個人的な印象では、その逆を辿る作家さんのほうが多いような気がするのですが、先生がエンタメの方へと振れていったのはなぜでしょうか?

小原:描き始めの頃は自分が面白いと思うことが最優先だったのです。というかそうやって描くのが精一杯でした。すこしずつ自分の手の届く範囲を広げてきたつもりですのでそう思っていただけるならうれしいです。それなりに長くやってこれたので前よりも上手く描きたい事が形になってきたという事でしょうか。基本的には楽しんでもらいたいというところは変わってないつもりです。

Q22.最後に、漫画家を目指す学生の方にメッセージを!

小原:自分が面白いと思うものを見失わないように描き続けてください。そして、描き上げたものは必ず人に読んでもらって下さい、そこが完成です。