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【ミズサキマキ 水惑星再開発推進機構】吉本ゆーすけ先生

漫画家の登竜門であるアフタヌーン四季賞にて佳作を受賞。それをきっかけに『アフタヌーン』(講談社)にて『ミズサキマキ 水惑星再開発推進機構』を連載した吉本ゆーすけ先生。新人漫画家である吉本先生だからこそ聞けたリアルなお話は、漫画家を目指している方々にとって参考になるのではないでしょうか!

漫画に興味を持ったきっかけは何ですか?

吉本:ゆーすけ先生(以下吉本)これといったきっかけはなく、気づいたら読んでました。小学生の時は『らんま1/2』『烈火の炎』が好きで集めていましたよ。漫画も描いてはいましたが落書きレベルでしたし、漫画家になろうとまでは思っていなくて、卒業文集の将来の夢には「サラリーマン」と書いていましたね。漠然と目指し始めたのは中学、高校生あたりかな。面倒くさがりな性格なんで(笑)、自分が好きなことを仕事にしたいとその頃から思い始めたんです。

どのような中学、高校生活を送りましたか?

吉本:中学生の時は、放課後にバスケ部の練習をして、帰宅してからアニメを見る、という生活をしてました。その頃はまだ漫画の描き方を知りませんでしたね……。高校生の時は、毎日19時過ぎまで授業があるクラスの生徒で部活が一切できなかったから、土日に近所の体育館に行って友人と筋トレをしていましたね。

19時過ぎまで授業があったんですか……!

吉本:といっても勉強は苦手だったんですけどね(笑)。でも、国語の現代文だけはいい点がとれていました。多分、漫画に通じるものがあるからでしょうね……。
ともかく、学生時代の経験がストーリーや登場人物の掛け合いに活きていると思います。多分、どんな漫画家さんも若い頃の経験が漫画制作につながっているのではないでしょうか。僕は今も若いですが(笑)。

漫画家になるための練習はしていましたか?

吉本:「なんとかなるだろう」と思っていて、特に何もしていませんでした……。まあ、なんとかならないんですけどね(笑)。小学生から高校生まで運動ばかりしていて、美術とはほぼ無縁だったので、美術教室などに通っておけばよかった、と今は思います。強いて言えば、好きな漫画やアニメのキャラクターを模写したり、自分は投稿しませんでしたが読者投稿イラスト雑誌を読んでいましたね。あと、「絵」関係の仕事に就きたかったので、美術系の大学に入学したいと親に言っていました。

そして、美術系の大学に入学されたんですよね。美術を本格的に学び始めてどうでしたか?

吉本:思っていたより、周りの学生は絵がうまくて、僕は絵が下手だったんだと思い知りました……。自分より努力していたり技術のある人がたくさんいる現実を知って、はしゃいでいられませんでしたね。そんなことのせいか、元々明るかった性格が暗くなっちゃって、夢と希望のストーリー漫画ではなく、ダメな主人公の漫画に共感するようになりました。『ネムルバカ』の石黒正数先生にすごく影響を受けましたね。

他に影響を受けた方はいますか?

吉本:同じ大学の同居人にすごく影響を受けました。彼とは、5時間、時には10時間くらい漫画について話したり、ネームを見せ合ったりします。僕とは性格がかなり違うので、自分の考えになかったような意見を言ってくれますね。努力家な彼は今、漫画家になって第一線で頑張っていますよ。出会っていなければ、ここまでできていなかったので感謝してます!

その他、大学時代印象に残っている出来事はありますか?

吉本:一般参加だったコミティアで、知り合いの方の打ち上げに参加させていただいた時の事ですね。そこにプロの漫画家さん達がいて、お互いにダメ出しをしていたのを聞いて衝撃を受けましたね……!とてつもなく上手くて魅力的なのに、そんなにまで考えているのかと……。これに触発されて漫画を描こうと思いました。それまで、ちゃんとした漫画を描いた事がなかったんです……。

初めて漫画を描いた時はどうでしたか?

吉本:もう手探りでした!今まで読んだ漫画を思い出しながら、コマ割りはこんな感じだろうかと思いつつ、ネームは描かずに仕上げました。ストーリー作りにつまづかなかったし、担当がいないから打ち合わせもないし、ネームなんて描く意味がないと思っていましたね。今は、ネームの大切さが身に染みてわかっていますよ(笑)。そのように描いた漫画は、退屈している主人公がちょっとした事でこの世界は面白いと気づく、という大学生が描きそうな青春のモラトリアム的なストーリーでした。その漫画では、自分の思っている事をキャラクターに言わせることができて楽しかったけど、はたして最後まで描けるのかっていう不安があって……。完成した時は、描き終えることが出来たんだ!という達成感でいっぱいでしたね……!今見たら突っ込み所の多い拙い漫画だろうけど、愛着があります。

その漫画を持ち込みしましたか?

吉本:持ち込み前に、コミティアの出張編集部で見てもらってたのですが「一生懸命描いたのは伝わるよ。僕は好きだけど、漫画としていいものかというと、そうではないかな。」と言われてしまいました。つまり未熟ってことでしたね……。持ち込み先は、僕の作風に合いそうな青年誌を探そうと何冊か買ったうちのひとつだった『アフタヌーン』の四季賞受賞作を読んで、そこに決めました。それで、持ち込みしに行ったんですけど、表紙を家に置いてくるというミスをしまして……。その日は、編集部に行った後そのまま帰省することになっていたんで、仕方なく、後から表紙を持って行くことにしました。でも、その後震災があって帰ることが出来ず、締め切りを過ぎてしまい、四季賞に出す事も無く終わってしまいました……。

それはとても残念ですね……。持ち込んだ漫画を見てもらった編集さんから何か教わりましたか?

吉本:1コマ1コマの場面の切り変え方などを学びましたね。それと、ストーリー構成を学ぶために、星新一のショートショートを読んだ方がいいと言われました。多分、余程の天才でなければ誰もが通る道だと思うんですが、客観的に自分の作品が見れていないせいで良し悪しがわからなくて、ストーリーを考え始めると客観的にはだめなことでも自分の中では完璧だと思っちゃうんですよね。その反省をいかして2作目では、冒頭部分のインパクトに気をつけて、読者の興味をひくような絵や台詞を入れるように心がけました。「わかる人にわかればいい」ではなく、万人が読んで理解できるように、雰囲気を「漫画っぽく」するように。でも、そう意識したらどこにでもありそうな漫画になってしまって、1次選考は通ったけど最終選考で落ちてしまいました。

3作目はどんな漫画でしたか?

吉本:趣味や性癖やフェチを出しまくりました!目つきが悪いけど、実はいい子っていうキャラクターが好きで、それのみに特化した話にしましたね。でも、それでおもしろい長編漫画を描ける自信なくて、1話数ページのオムニバス形式で3話描きました。

その漫画が2012年四季賞夏のコンテストで佳作を受賞されたんですね。決め手は何だったのでしょうか?

吉本:良くも悪くも、趣味を全面に押し出したからだと思います。でも、もっと目つきが悪くてよかったとも言われました。フェチを狙った漫画を描くなら、それが極端であればあるほどいいので、もっと強調した漫画にすればよかったと思いますね。

連載と試行錯誤


連載が決定したきっかけは何でしょうか?

吉本:受賞後、担当と打ち合わせをしながら漫画を描いている内に、そのまま連載へとつながりました。最初に、主人公が変わった人間達を立ち退かせる、というストーリーを考えたんですが、読者へのひっかかりがなさすぎるので、立ち退かせる相手を変えたら面白いのではないかと……。そしたら担当さんに「立ち退かせる相手を星人にしたらどうか」と言われて、SFの要素を組み入れたんです。お互いに意見を出あう中でストーリーが固まったので、担当さんとの話し合いはとても大切でした。

初めての連載はどうでしたか?

吉本:無駄に考えすぎて独り相撲してましたね……。受賞した漫画はペンタッチが多かったんですが、連載した漫画はギャグ寄りのストーリーだったので、トーンを使ったりキャラクターの表情を豊かにしたりしなければと考えすぎて、描き慣れていなかったせいか、うまいこと消化できませんでした……。あと、大きな事を激しく、というより、小さな事を淡々と、という作風になる傾向があるので、ストーリー上で起こる出来事やキャラクターのリアクションを大きく、と担当さんから直しをもらっていました。それがあってか、起承転結を作って話をまとめる力は連載を通してつきましたね。

どう考えて漫画のストーリーを作りましたか?

吉本:キャラクターに何をさせたら一番おもしろいかと考えながら作っていきます。キャラクター達が行動した結果がストーリーになる、と僕は思っているので……。前は、描きたい話を考えてからキャラクターを考えるという方法でしたが、僕の場合それだと、キャラクターに味がなくなってしまうんです。しかし、ストーリーでもキャラクターでも何かひとつずばぬけていればおもしろくて売れる作品になるものだと当時は思っていて、ストーリーばかり意識して他を疎かにしていたことがありました……。何かずばぬけているものを持っていたり、それに自信を持つことはいいことですけど、それを過信して他を疎かにしてはいけないですよね。

今の目標は何ですか?

吉本:女性漫画家さんが描くような表情や心理描写を描きたいです!でもなんだか一生できないような気がして、劣等感や敗北感があります……。あと、叶う事があるなら、『アフタヌーン』で30ページの連載をとれたらいいなと思いますが、ページが増える分、内容を増やさなければ読者が飽きてしまうので、見せ方に気をつけたいです。でも一番の目標は、お世話になった人に恩返しできる漫画を描くことですかね。

この仕事で楽しいと思う時は?

吉本:頭の中で構想を練っている時ですね。頭の中では、描きたいシーンが100%出せている状態なので楽しいです!ネームにするとつじつまが合わなくて上手くいかない時はストレスではありますけど……。漫画家という自分の好きな事をする仕事は楽しいけど、そんなつらいこともたくさんあります。でも、それってかけがえのないことなんでしょうね。

最後に、漫画家を目指している人にメッセージをお願いします。

吉本:人の意見はちゃんと聞きましょう!新人漫画家さんは、担当の意見を作品に反映させないことが多くなりがちですよね。でも、担当さんを敵と思うのではなく、恋人くらいに思っていいんじゃないでしょうか(笑)。意見全てを鵜呑みにしてはいけませんが、担当さんが求めていることに答えることが大事です。ダメ出しをもらったら、なぜダメなのかをちゃんと考えて、それをうまく消化してものにしていけば前進します。もし、本当に漫画家を目指していて、何が何でもなってやるという確固たる意思があれば、「必ずなれる」とは言えませんが、目指す価値はあるので、諦めずに頑張ってください!こんな僕でもなれたので、なれると思いますよ。