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【つるた部長はいつも寝不足/不器用な匠ちゃんetc……】須河篤志先生インタビュー

持ち込み作品が新人賞を受賞して『つるた部長はいつも寝不足』の連載が開始するまでの道のり、そして、個性豊かなキャラクター設定や百合漫画ストーリーのこだわり等を須河篤志先生にお聞きしました!ただいま『コミックフラッパー』(メディアファクトリー)にて連載中、マニアックな造形趣味を持つ恋愛初心者の社会人達を描いた『不器用な匠ちゃん』は2014年7月23日に最新5巻発売です!


幼い頃から漫画を描いていましたか?

須河篤志(以下 須河):漫画というより、絵を描いていましたね。物心ついた頃からノートに落書きをしていました。八歳の時に、母から『コミックボンボン』(講談社)を買ってもらったのが漫画との出会いです。それから、なんとなく将来の夢は漫画家と思っていて、中学生になるとその思いが大きくなり、美術系のことが学べる工業高校のデザイン科に入学しました。40人中五人だけ男子という特殊なクラスで、今でもその五人とは仲がいいですね。その学校や美術室の雰囲気が好きなんで『つるた部長はいつも寝不足』(以下『つるた部長』)は描いていて楽しかったです。

高校で漫画について何か学びましたか?

須河:漫画とデザインはジャンルが違うのでこれといっては……。漫画は読者を楽しませるエンターテイメント性があって、デザインは自分の考えを出す芸術性があって、見せ方が違うんです。初めて本格的に学んだのは漫画の専門学校に入学してからです。

その時に何か影響を受けたことはありますか?

須河:漫画をあまり知らなかったから、いろいろ読まなければと思って、たまたま志村貴子さんの『ぼくは、おんなのこ』を買ったんです。それを読んで「ああ、俺はこういうのが描きたいんだ」と思いました。それまでジャンプ系のバトル漫画くらいしか読んだことがなかったので、かなり影響を受けましたね。だから、中学高校の時に漠然と目指していた漫画とは逆の漫画を今は描いています。

持ち込み活動をしていたけれど賞に出していなかったのはなぜですか?

須河:賞に出せないほどひどかったんですよ。初めて描いて持ち込んだ漫画は、今見返すと、何だこれ?ギャグじゃないの?というほどの作者にしかわからない内容で……。だから、賞に出さなかったというより、出せなかったんです。

持ち込み先はどこでしたか?

須河:最初は志村貴子さんがいるからというだけの理由で『コミックビーム』(エンターブレイン)に持ち込んでいました。3作目からは、そこだけでなく複数の編集部に持ち込みました。そこで『コミックフラッパー』(メディアファクトリー)だけ名刺をもらえたんです。

持ち込みで編集さんに何を言われましたか?

須河:漫画は「掴み引き山場」をどう見せていくのが大事だと言われたのは覚えています。でも、考えてもわからないですよね……。最初から「掴み引き山場」を考えられる人はたくさん映画を見ている人か天才ですよ。だから最初の頃は、自分が描きたい漫画を描けばいいと思っていて、指摘された点を改善することははぼなかったです。そうじゃないとやっぱりつまらないし、描く経験値得るための時期ですからね。

そして『NAKED』が第1回MFコミック大賞フラッパー賞を受賞しましたね。

須河:『NAKED』は6ヶ月かけて描きました。考え始めて3ヶ月くらい経った時、「あーもういいや!すごいの描けばいいんでしょ!」と吹っ切れていたら、担当さんから「ちょっとエロいやつ描いてみれば?」と言われて、それならヌードデッサンしかないじゃんと思って(笑)、シリアスな路線で考えていた話を変更したんです。そのネームを見せたらいつもあまり褒めない担当さんが「これはすごい漫画だ。」と言ってくれました(笑)。そして受賞したんですが、「絵が上手な人がいるなかで、君がフラッパー賞です。」と言われたぐらいで、見たら自分より上手い人ばかりで……。ストーリーのカタルシスがよかったのが選考理由だと聞きましたが、よく自分が取れたなと思いましたね。その後、連載用の案を考えてと言われましたが「いや、まさか連載するわけないだろう(笑)。」と思いながら『つるた部長』を担当さんと練り上げたら、そのまま連載決定して、よく踏み切ったなとびっくりしましたね。

『つるた部長』の話はどう考えましたか?

須河:最初はオムニバス形式にしようかと思ったんですけど、キャラクターがぶれるから主人公はひとりにしたほうがいいと言われてやめたんです。その後、テーマとして妄想はどうかと言われて、最初はどうかと思ったんですが、おもしろいなと思って取り入れることにしました。でも後々、妄想を考えるのが大変で随分苦しめられました(笑)。今もそうですが、途中がどうなっても最終的に物語が繋がるから、最初と最後だけは考えろとよく言いますけど、最終回も前もっては考えていませんでしたね。

瀬戸君のお兄さんが登場したことによりストーリーが大きく動きましたが、生まれた過程をおしえてください。

須河:『つるた部長』は鶴田さんの成長がメインのストーリーなんですが、瀬戸君の心をどう鶴田さんがほぐしていくかもメインなんです。それをどうひっかきまわすかだったり、瀬戸君の美術に対するつまらない態度を生み出したりした人が誰なんだろうと考えて生まれたのが瀬戸兄でした。そのシーンのためだけに生まれたようなキャラクターというのが嫌で、ストーリー全体に繋がるよう気をつけていますね。『前略、百合の園より』(以下『前略』)では、倉敷さんが漫画を描いているという設定がインパクトをつけるためだけにならないように、『不器用な匠ちゃん』(以下『匠ちゃん』)では、キャラクターそれぞれの趣味がおざなりにならないようにしています。

『つるた部長』では、女の子の気持ちを繊細に描かれていますよね。

須河:このシーンでは女の子はどういう気持ちになるんだろうと考えた事はほとんどなくて、ひとりでにするっと頭から出てきます。カエル(須河先生の相方さん)と一緒になってから少女漫画をよく読むようになったので表現できるようになったのかもしれませんね。カエルは漫画のヒントをくれたり本気で相談できたりする大きな存在です。

『つるた部長』や『匠ちゃん』でもそうですが、美術や歯科技工士の専門的な描写や説明がありますが、どう描いているのでしょうか?

須河:調べて描いていますね。『匠ちゃん』では取材もしていて、歯医者さんや山海堂さんで質問をして写真も撮っていたんですが、いざ行ってみると、質問が出てこなかったり資料にならないような写真を何枚も撮っていたりして収穫があるようでないときもあります(笑)。説明のシーンは読者が飽きる部分だし、僕自身、長くて難しい説明は読み飛ばすんで、短くてわかりやすい説明になるように工夫しています。

『つるた部長』連載終了後、pixivにて「部長うらばなし〆。」を公開されましたよね。

須河:今考えるとネタが出てくるんですが、僕の力不足で、主人公以外のキャラクターに視点をずらすということができなかったんです……。これはこれですごくいい経験ができたんで満足はしていますが、もっとこうできたらよかったという思いが強く残っていますね。

『つぼみ』(芳文社)から掲載のお話がきたときのお気持ちをおしえてください。

須河:百合ジャンルのオファーがくるとは思っていなかったのでびっくりしました(笑)。でも、相方さんと一緒になるようになってからBLや百合を読むようになって興味はあったので抵抗はなかったですね。

『前略』のあとがきに百合とはなにかと悩んだと描いていましたが……。

須河:漫画だと簡単にハグだキスだ云々とやっていますが、実際は同性愛って禁忌の部分があって、思いを伝えるだけでハードル高いじゃないですか。だから「すぐキスするわけないじゃん!」という抵抗があったんです。あと、読者がどの辺りまで求めているのかわからなくて、キスさせたほうがいいのかすごく悩みました。そして、ただ告白するだけでも「それが百合だ!」と思って描いてみたんですけど、百合じゃなくて友情のような気がしてきて、この作品が百合である意味があるのかって相当悩みました……。掲載後、ネットの批評やアンケート結果を見て、伝えられるものがあったとわかって、ほっとしましたね……!

それでは最後に、漫画家を目指している人達にメッセージをお願いします。

須河:まずはとにかく漫画を描く事が大事です。『つるた部長』の最初と最後を見れば分かってもらえると思うんですけど、漫画は描き続ければ自然と絵が上達しますし、どういう話作りをしたらいいのかがわかってきます。そして、漫画は見せるために描くものなので、できたら必ず誰かに見せましょう。描いて見せることが大事です!