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六本木ヒルズで「伝える」をテーマのイベントに登壇してしまった男の話

思いもよらぬ角度から話がやってくることがある。

六本木ヒルズの会員制ライブラリー『アカデミーヒルズ』のイベントに登壇のお誘いをいただいたのは、ある晴れた日の午後だった。収録の仕事を終えてガリガリ君でも食べようかとコンビニに入った時、そのメールに気づいた。

以前、ライブラリーが主催するビジネススクールに通っていたのだが、その時お世話になった人からの久しぶりのメールだった。

ぜひ「伝える」をテーマのイベントに登壇してほしい。

メールの文面の冒頭には「宇都宮さんの著書を読んで感激しました……」的な挨拶文があり、その時点で、僕の心は決まっていた。

OK、もちろん。喜んでお引き受けいたします。

イベントが3ヶ月先ということもあり、なんだか遠い未来のことのように思えて、何とかなるだろうと思い即レスした。ガリガリ君のことはすっかり忘れ、気をよくしてコンビニを後にした。

しかし、日にちが経つにつれて、だんだんテーマが重くのしかかる。

「伝える」って何だ……。

どんな人が来るかもわからないイベントに「伝える」を伝えるって難しくないか。しかも僕だけでなく、もう1人、マーケティングの凄腕みたいな人が登壇して、2人でトークセッションするという。イベントの当日に初めて会う人と一緒に、知らない人たちに「伝える」を伝える……。ぐぬぬ……。ぐぬぬ……。

OK、ベイベー!俺、やっちゃうよ。

あまりに高い壁にぶつかると、一周まわって僕の中の「矢沢永吉モード」がONになる。やるしかない。やっちゃえ、秀男。

後日、「告知ページ」ができたということで連絡がきた。

タイトルは元々知ってはいたがこれを見て改めて思った。

"バズる"だけでいい?

イベントのタイトルとしてはとても素晴らしい。しかし、よく考えてみたら過去にバズった動画に携わったのは1回しかない。

1回しかバズってない男が「バズるだけでいい?」と言うのは、女性と1度しかデートしたことない男が「今夜、南青山のフレンチでいい?」と涼しげに言うに等しい。大丈夫か、本当に大丈夫か。

僕の中の「矢沢永吉」は静かにステージを降りていた。もの音ひとつ立てず、ひっそり幕を下ろしていた。

参加者はライブラリー会員限定ということもあり、このイベントに登壇することは誰にも言わず、こっそりやってこっそり終えるモードに入っていた。

すると、ある日、いきなり友人からFacebookのメンション通知が飛んできた。

いやいや、テロか。いきなりメンションつけて投稿って、テロか。おとなしく会社でのトークネタを巡回しといてくれよ。でもわざわざ投稿してくれるのって、悪気どころか愛しかないよね。ありがとう。

すると、その数時間後、また別の友人からこんなメッセージが届いた。

あかん、もう、あかんで……。バレとるやないの…。

僕のなかの「弱気な関西人」が不安げに耳打ちしてくる。こっそりやって、こっそり終えるはずだったのに。沈黙の艦隊が沈没しはじめとる。

自らSNSなどで告知すべきかどうか。たまたまこの2人が見つけただけかもしれない。しかし「2つの同じような出来事が偶然同じタイミングで発生したときは行動を起こす合図」という謎のマイルールを自分に課していたため、いろいろ考えた結果、告知に踏み切る。

もう、正直に言った。
自分に一番嘘のない正直なテンションだった。
伝える上で一番大事なのは「正直さ」かもしれない。

オファーをもらった時、ウキウキしながら即レスしたくせに「古巣からの依頼だから断れないでしょ」と書いたのは照れ隠しだ。ギリセーフとしよう。

せっかくなので、会社ホームページのニュースも更新した。

「弊社代表が登壇します」と書いているが、それを書いたのは僕だ。代表自ら「弊社代表が〜」と書く恥ずかしさったらない。

でも何がきっかけで仕事につながるかなんて分からない。やれることは何でもやっちゃえ。僕のなかの「矢沢永吉」がいつのまにか戻っていた。

そして迎えた本番当日。

一緒に登壇した干ししいたけの専門問屋・杉本商店の杉本さんの話がめちゃくちゃ面白くて助けられた。このイベントを一緒にやるまでは杉本商店を僕は全然知らなかったが、マーケティング戦略がとても勉強になった。

社長が自ら「しいたけの形をしたかぶり物」をかぶってイベントで活動したら売上が激増したらしい。僕も「ビデオカメラのかぶり物」をかぶろうかと思ったが秒でやめた。

イベントでは、自分なりに考えてきた「伝える」のテーマについて語った。終わった後も何人かの人たちが熱心に質問しに来てくれて、いくらか伝えたいことが伝わったのだとホッとした。

イベントが終わったあとの帰り道、ガリガリ君を食べようとは思わなかったが、代わりに普段気にも留めない餃子の自販機で冷凍餃子を買った。

水分量を間違えて、焼餃子にも水餃子にもなりきれなかった見すぼらしい「くずれ餃子」が出来上がった。

これはまずいと思い、一緒に登壇した杉本商店さんの「本格椎茸粉」をかけたら、見事に旨味が倍増し、美味しく完食することができた。

杉本餃子を頬張りながら改めて思った。
イベントに登壇して、本当によかったと。

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