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ソーシャルVRのこと(5)共創と利他的文化

ソーシャルVRの未来的な文化についてお話ししてみようと思います
それは、次の時代の兆しと捉えることができるかもしれません。


1.その世界は、世界でもっとも先進的な文化を持ち始めている?

 現実世界は人の利己(=エゴ)によってどろどろのなかで動いている…社会人になれば多くの人が気づく事です…エゴがあるから、SNSでマウントとるひとがいて、エゴがあるから競争原理が働いて、職場で出世を争い、市場競争でシェアを奪い合い、特許で利益を守りまくる。エゴがあるから国家間が争い、戦争になり…大なり小なりエゴがあって、その関係性のなかで生きるのが人間であると言ってもいいのではないでしょうか…おそらくそれは、ホモサピエンスがこの世界に発生したときから始まっているように思います。私たちは今の今でも、利己(=エゴ)の世界で生きています。それは良いとか悪いという話ではなく、事実だといえるでしょう。

 利己の反意語ってなんでしょう…利他という仏教用語があります。
これはこの世界のために己の力を発揮するという姿勢を表す言葉です…利他は調和とかみんなで協力してなにかを行う(=共創)ことをしたり、全体を盛り上げようとするような行動となって現れます、持てるスキルをみんなのために使ったりする(=スキルシェア)なども利他的な行動と言えます。
利他という言葉はもともと仏教用語ですから、昔からあった概念です。そしてこれを行うのはお坊さんが一般的だったのかもしれません…例えば日本の各地に弘法大師(=空海)の言葉に従い橋を架けた、井戸を掘った…みたいな話はたくさんありますが、「この世界、この国、この地域のために…」という言葉が本来は最初にあり、弘法大師(=空海)はその地域のみんなを説き、お金と人を出させて、その地域のために橋や井戸を作らせたのでしょう…これは、偉いお坊さんというカリスマ性とプロジェクトリードするという弘法大師のスキルをシェアしたからそれができたのでしょう。しかし、この場合、弘法大師(=空海)が利する事はあまりありません…まあ、教えに共感して空海の弟子…というか真言宗のお坊さんになる人やお寺の檀家になるひとはいたかもしれませんし、完成パーティーに呼ばれるくらいの事はあったでしょうが、それくらいのことでしょう…橋や井戸によって空海が得る対価としては等価交換ではないものであることが推測されますが、この地域においての価値は最大化していますよね、だからこそ、今も言い伝えが残っているのでしょう…

 この、お坊さんくらいしかやっていなかった利他…これがソーシャルVRでは普通に成立していないか??? そう思う事が多々あります…
利己の現実世界はこれまでの人間の歴史の積み上げの上に成立していますが利他のソーシャルVRの仮想世界は、これまでの歴史と全く異なる原理で動き始めている気がしていて、そういう意味では新しい文化を持ち始めていると考えてよいのではないかと思います。

2.利他や共創がもたらすこととは…

 通常の企業のお仕事をやっている人はわかると思いますが、たくさんの人がいて、それぞれが利害関係や異なるミッションを持つグループでプロジェクトをやると、必ず創作物の権利を主張したり、特許を取って守ろうとします。これが企業間を越えだすと当然の事なのですが、グループメンバーはそう思っていなくとも、所属する組織の方針や決まり事があって、結果なにもできなくなる、みたいなことが普通におきます。これは現実世界では当たり前のことで、企業の利益を最大化するために行うまったく悪気の無い事です。でも結果何も生まれないしなにも面白くなくなる…

 つまり、共同作業するためには、利他的なマインドと創作物に対する権利の共有というのが少なくなからず必要です。現実世界では様々な自己利益を最大化する制度や制度を守ろうとするメンバーのマインドによって阻害されてプロジェクトメンバーを分断します。トップが超法規的な事に同意するプロジェクトとか、突然ゴジラが現れて暴れ出すなどの異常事態にならないと、異なる利害を持つ者が共同でなにかやるのはかなり難しいのです。

 ソーシャルVRは、幸か不幸か、そういったしがらみがありません。なんならそういうものから離れたいわけです。そうなるとどうなっていくかというと、面白い事が起き始めます、現実世界と異なる文化が生まれだします。
 そこでは現実世界ではあまりないような、様々な人の協力関係や共創関係が生まれています。なんとなく同人文化がベースにあるような気がするのですが、はたしてそれだけなのかな…と思う事があります。 なにか、ソーシャルVRが楽しい世界であるために、自分たちができる事をやっている、そんな風にかんじることがあります。そして多くの場合、スキルの提供に対しての金銭的な取引がなされていない?気がします。

 具体的にどんなところにそれを感じるかというと、初心者が必ず行くであろうJPチュートリアル、JPバージョンは個人や数人のメンバーが運営しています。そしてチュートリアルでサポートしてくれる人は、いわゆるボランティアと捉えることが出来ます。新たな人との出会いがあるのは事実でしょうが、チュートリアル後一度も会わない人もいますよね…。そして、VRChatやNeosVRで開催される各種イベントの多くは無償で開催され、企画、運営、広報、会場ワールド設営は、複数のコアメンバーによって行われています。
そしてワールドは、VKetみたいな見本市イベントでもない場合は、個人の表現やチームメンバーの共同制作になっています。

3.では、ソーシャルVRにビジネスはないの?

 3Dアセット(アバターや改変衣装)の制作、ワールドの制作を請け負ったりする事で対価を得るビジネスはもちろん存在しますが、それが起きているのはソーシャルVRの外の話であって、ソーシャルVRのなかでの取引はありません。(2023年9月現在)
 今後はどのようになるかはわかりませんが(利用者数が現在の10倍にでもなれば変わってくるかもしれません)さまざまな現状を見ていると、この世界は現実の世界とは異なる文化があり、ソーシャルVRの中でビジネスをやるということは、まだ時期尚早な感があります。(個人的な感覚です)
 ただ、NeosVRでは、NCRというイーサリアム由来の暗号通貨が用意されています、まだ有効活用はされていませんが、国境を越えたやりとりは暗号通貨による取引を行ったりすることはありえるかもしれません。また、活動の運営をDAOでやる、というような事もありえるかもしれません。
 そして、感謝の意を伝える形で行われているのが、アマゾンのウィッシュリストをつかったギフト文化、いわゆる”干し芋”というやつですが、これも対価という意味合いではなく感謝という意味合いが強い文化であると言えます。こうしたことで、みんなが、みんなといる事を楽しみたい気持ちから様々な活動が行われていくでしょう。

4.もしやるならば…

 もし、ソーシャルVRをビジネス的な流れで活用したい場合はどうするかといえば、現実世界で行っているような〇〇を提供する、という考え方は、アバターやワールドアセットなどのモノ売りに限られる感じがします。この世界と相性が良いのは、ずばりプロセスエコノミーだと考えています。事業者と利用者が共に何らかのサービスやモノをよりよくしていく事を活動として楽しむ。そういう関係性が生まれるならば、ソーシャルVRは最強かもしれません。あるいは、個人情報を必要としない、心理的な自由さを活かしたインタビューの場としてのソーシャルVRなどは可能性があるのではないでしょうか。そして、意外にも、ここで最も大切なのは相手の素性は知らないけれど、確かに存在する人と人との関係です。AIと対話するならば、それは現実世界のほうであって、ソーシャルVRでは、むしろアバターで成り代わった存在として人と会いたいというのが基本的な価値観として存在します。ここを無視することはできないと考えた方がよいでしょう。

5.私が身をもって感じた共創のパワー

 私は、NeosVRの中で実施されているMMC23(メタバース・メイカーズ・コンペティション2023)のワールド・ソーシャル部門で部門賞を頂くことが出来ました。なんだか自慢みたいですが、この作品は私一人で作ったものではなく、結果的に5名の制作者によってつくられました。

夜中に作業と会話が続きます
完成した模型で動作確認を兼ねて遊ぶフレンドさん、この後ネット記事化していただきました

 MMCは1ヶ月のなかでアイデアの構想、制作を行うコンペです。私は、かなり無計画にワールド作ってみよう、くらいで始めてみました。スケッチブックに絵を一枚だけ書いて、それをNeosのVR空間内に作った制作中ワールドに置きました。制作中は常にオープンにしておくといいよ、とフレンドさんに言われていたので、インスタンスは常にFriend+(=フレンドの関係者もOKというワールドへの入室制限)にして、ワールド名も、MMC作業中。としました、その後ワールドに必要な建築物などをCADで作ってワールド内にひたすら追加していったのですが、都度都度フレンドさんが現れてアドバイスしてくれたり、機能追加をしていってくれました。実は事前に手伝ってほしいというリクエストは一切していません^^ 気が付けば制作中ワールドはいつも3-4人がいて、めいめい好きな事をやっています。夜中の2-3時にです…

ガリバートンネル的なもの…既存のものの形状と、プログラムの改良をしているときの様子
MMCの制作期間は最初に作った人の許諾を取りに行ったりアドバイスもらったり、
夜中のVRはにぎやかです

 私も、技術的にわからないことなどを他の技術に詳しいフレンドさんに聞きに行ったり、その場で会話を楽しんだり、参考にあるアイテムを頂いては作業をすすめていました。

作業中の様子(機関車の動きをつけるプログラミング中)

 一人のフレンドさんは、いわゆるプログラミングが得意な方で、気が付けば静止していたアイテムが動くようになっていました。別なフレンドさんは、NeosVRのワールド制作を多数しており、そのノウハウを惜しみなく投入していただきました、また別なフレンドさんは、室内の小物をたくさん提供してくれました…Blender(3Dの形を作るソフト)の勉強で作った小物がいろいろあるから…ということで追加していってくれるのです^^、そしてこのフレンドさんは、出来上がったワールドを撮影してYoutubeで紹介してくれました。また、あるフレンドさんは、自身の制作の合間に来てくれて、技術的な課題について、会話の中でクリティカルなアイデアをその場で置いて行ってくれました…このようなことが毎夜繰り広げられ、なんと締め切り1週間前にデータ出稿できました…

データ出稿のために完了を祝う

 実はこの作業、双方は特に約束も依頼や受託の関係もなく進みました。すべては「おもしろいから」「自分の〇〇が役に立てられると思うから」…
このワールド制作においては、私のスキルは3Dのデータを作って並べるくらいしかなかったのですが、気が付けば、「こうなればいいなあ」の目指したい到達点をはるかに超えた事を達成していました。

ある鉄道模型趣味の人の部屋、を作ってみました
部屋にはジオラマがあって、楽しむことが出来ます
ただ、仮想世界ならではなのは、スケールトンネルをくぐると
小さくなってジオラマの中に入ることが出来る点です
ジオラマの汽車に乗る、という体験ができます

 SDGsの標語で「誰一人のこさない…」みたいなのがあったと思いますが、このワールド制作はまさにそれでした…「VRなんもできない…」って言ってたフレンドさんも、自分ができる事で面白そうなところで参加していましたし、それはとても重要な要素であったりしました…私はみなさんに感謝しかなかったです…お金という対価を支払う行為がなくとも、こうしたかたちで自由な想いで参画して何かプロジェクトを完成することが出来る事を初めて体験しました。私の中で、これは新しい時代の働き方に通じるものがあるのかも、と思ったと同時に、このプロジェクトのモチベーションは「おもしろい」に尽きるなと感じました。

制作メンバーとネット記事のライターさん
トロフィーを頂き、賞金は均等に分配しました^^

 あえてここまで使いませんでしたが、このプロジェクトはまさに共創によるものでした、そして、Web3で呪文のように言われる自律分散という言葉は魂にも当てはまるなと感じた瞬間でした。

 実は私を含め、フレンドさんの全員が、他のMMCの制作プロジェクトを掛け持ちしていました、誰かが誰かの面白いに自律的に参画する、こうしたかたちがこれからの時代の主流ではないかもしれないけれど、副業や趣味活動のスケール、イベント運営、ローカルな芸能活動などで活かされていくのではないか?と感じました。

6.まとめ

 今回は、ソーシャルVRの中で起きている新しい価値観について書いてみました、クリエイティブ作業に関しては、NeosVRはVR空間の中でそれを行うことが出来ます。VRChatやClusterでは、Unityを使う事になりますが、作業中の様子をDiscordで共有しながら共同作業する事が行われています。プラットフォームの違いはあれど、仮想世界でなにかのプロジェクトを成立させるには、一人でやるのもいいですが、多くの人とやれた方が楽しいです。そしてこの流れは、現実世界にも言える事なのではないかと思います。
 これらの活動で、私は人の”利他性”というものが重要なのではないかと感じています、それは共産主義のような全体主義による全体利益の最大化ではなく、個々人の自律的で自由な意志と感謝で成立するようなものです。たとえばAIやロボットが単純作業や思考作業をアシストする時代、私たち人間がやることは、こうした活動になっていくのではないか?と思う事があります。

ではでは、この記事、面白いと思いましたら、ぜひ”スキ”を頂けますと励みになります^^

次はなにを書こうかなあ…
コミュニティとか、VRのアイドルとか、普段何やってるの、的なのいってみましょうか…ああ、アバターのところで言っていた、声の話も面白いかも…
ラジオ体操、イベントについてのはなしとかも書けそうだなあ…
クリエイティブの話もいいかもしれないですね。
ワールド制作の手順とかも書けそうではありますが、ここではVRってなに?という人を対象にしたいから、別なシリーズにしとこうかなあ…
アバター制作はまだ書けない(作ってないので)し、衣装制作も、もうちょっとやってからだなあ…3DアセットのBooth販売までのプロセスとかかかけますね、権利の話とかもいけると思います…

VR睡眠、VR感度とかもある意味ではおもしろいかもですね…VR感度というのは、多分拡張感覚とかっていうもので、ヘッドマウントディスプレイ上での視覚情報をトリガーにして、あたかも触られたかのように知覚する感覚です。お砂糖については、そっちに詳しい人も居そうだから、その人に譲ります。 ネタは尽きないなあ…こういうの書いてってのがあれば、コメント欄とかで書いてみてくださいね^^

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