トロパンはフランスのエッセンスを取り入れた
「ちゃんとした」日本のパン屋さんだ。
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「ちゃんとした」が故に、
入りずらさがあってはいけないと思う。
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接客は一人一人に向けた温かさが大切だし、
店のデザイン、カラーも趣味の押し付けにならない楽しさがなければならない。
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フランス語だらけのネーミングで心臓に負担をかけてはいけない。
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名前も特にふざけた訳でなく楽しんでもらいたい。
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こんな想いからパンの名前を決めているのだ。
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例えば、「イケジリーナ」
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これは少し小ぶりのバケットである
「パリジェンヌ」をイメージしたもの。
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でもトロパンがあるのは
パリではなく池尻大橋なのだ。
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パリのような350gのバケットではなく、
200gのバケットをエコバックに入れて
遠慮がちに少し顔を出しているような
「池尻ーナ」であってほしいという想いがある。
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そして、「R-50」
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これはレーズン50％の意味。
あえてこの書き方にしてるのにはワケがある。
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例えば、
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終電ギリギリの電車で帰宅して、また朝早くから会社に向かってプレゼン準備をするサラリーマン。
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なかなか言うことを聞かない子どもの送り迎えをして、家に戻ったら慌てて洗濯物を取りこむ主婦の方。
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そんな、毎日くたくたになりながら一生懸命に生きている人たちが「R-50」を見て、
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「なんでR指定なの？」「年齢設定高めだね」
なんてツッコミがあればいいなあと思う。
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そして、
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「あ、私にも、まだパンにツッコミを入れるだけの余裕があったっけな」
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「まだ生きる力が1%は残っているじゃないか」
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そんなふうに自分の余裕の幅の確認みたいなものになればいいなあと思う。
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そんな想いから生まれた「R-50」
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まずは生地の誕生秘話から。
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理想のイメージは、
「ザクザク」と「しっとり」のメリハリがある生地。
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クロワッサン生地はどうか？
いや、バターが多すぎる。
小さめなサイズのパンではあるがそれでも重い。
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菓子パン生地だとどうか？
それだと柔らかすぎて食感に飽きてしまう。
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そこでクロワッサン生地の端の残生地で薄く伸ばした同じ大きな生地２枚で、レーズンをサンドすることにした。
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次はレーズン。
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最初はサルタナレーズンをカルヴァドスで漬けて水気を切ってやってみた。
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味は確かに美味しい。
しかし生地との比率50%でこのレーズンのサイズだと、量が少なく口当たりが少なすぎる。
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次に、カレンツを冷蔵で冷やしローラーで通しても潰れないようにサンドして通してみた。
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沢山入っている、それにちゃんと潰れてない。
ただ少し酸味が立ち気味だから、どこかで甘味を出してバターとの調和を図らなければいけないな。
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そしてセンターにクリームチーズを入れてバランスが取れるのか、センターの砂糖を強めるか、というところ。
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チーズケーキの途中工程までのキリのクリームチーズ、クレームエエペス、グラニュー糖で構成。フードプロセッサーでクリーム状にして、絞り袋に入れフレキシパン（シリコン）に絞り冷凍する。それをセンターに少し緩めに包み込む。焼き始めることで開くようにしたい。
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その後グラニュー糖をそのままのものと、増やしたタイプのもので焼いてテストするステップへ。そのままのものはキリの塩気が少し感じる。クリームチーズの酸味が立つから塩味が強調されてバランスが悪い。増やしたタイプはバランスは整うものの重くなってしまい、どちらもベストではない。

ただ、前者はバランスが悪いだけ。五味のバランス、そして食感と香りを調整すればいいのではないか。そこでこの酸味、塩味それぞれの悪くなかった点をもっと掘り下げる事にした。
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まずは食感を考える。コンベクションオーブンで 200°C以内160°C以上を13分から14分、焼く前にグラニュー糖をかけると少しキャラメル化する。粒子のシャリシャリ感が残る程度だ。これは食感の美味しさの一つになるだろうと予測。
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香りの部分では、ラム酒のアルコールの感じではなくラム酒の香りに着目。焼成最後の高温にした時の２分〜２分半のところで、ラム酒をクリームチーズのセンターにかける。するとアルコールは飛ぶが香りが残るというはず。
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と、食感と香りでそれぞれの仮説を立てる。

実戦では狙い通りのことが起こり、思惑通り目的が達成できた小さな喜びを味わった。
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仕事では、準備がとにかく大事。
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しかし仕事以外では一概にはそうとも言えない。
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ヒトとヒトの心や会話などは、準備をしないことでの「鮮度」の重要性を意識している。
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だからポップに書くネーミングや説明は、
相手の心を動かす会話のようなものに。
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職人はお店の表に立つことはなかなかない。
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でも、だからこそ、
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表にでなくてもできる「オモテナシ」を、
これからも提供していきたいと思います。