木霊

私は木霊

深い深い山の奥

誰かを待ち続ける

そして

いつか

ここへ来た時のように

人間に戻り

山を下る

それが私の夢

ここに私をおいて

遠ざかるあいつの後ろ姿を

今でもはっきりと憶えている

あいつの呼ぶ声に誘われ

山を分け入ったのは

愚かな私

百年が過ぎ去り

そしてまた百年

いくら待っても

声は聞こえない

淋しさに耐え切れず

声を涸らし呼び続けた日々

自由になる為には

誰かを犠牲にしなければならない

私に出来るだろうか?

自問自答を繰り返しながら

じっと待ち続ける

そして今

誰かの声

二百年以上聞く事の無かった

人の声

そしてその姿を見た時

私はすべてを悟った

あの時

私を置き去りにした後ろ姿も

今、目の前に立ち尽くすのも

私自身に他ならなかった

すべては

私の心が生み出した幻

私は木霊

初めから私はここにいた

そして

これから先も

ずっと・・・

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