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少年時代の思い出と「置き土産」

旅をしながら、あるいは日常の思い入れのある場所で、この小さな小さな素焼きの陶芸作品を置いてくるというのが企画の趣旨。「置き土産」というプロジェクトをここ15年くらいやってます。

もともと僕が大学で陶芸彫刻を専攻していたこともあり、自宅に小さな電気窯もあるので、こんなプロジェクトを思いつきで初めてみたのが15年くらい前。途中しばらくやってなかったり、呼び名やお作法を変えたりしつつも、たまにこの素焼きの作品をつくっては、どこかに置いてくるというのをやってきました。

素焼きの粘土なので、やがては自然に還ります。そのままでも小石と同じですし、潰したら砂になって土に戻っていきます。

今回は、少年時代を過ごした地元の街で、思い出の場所に置いてきました。荒川の上流、川の流れの中にポトリと落としたり。いつか、今自分が住んでいる荒川区の隅田川にその作品が流されてくる様を想像しつつ。

この河原に、当時小学生だった僕ら悪ガキたちの「秘密基地」がありました。ゴツゴツした岩場ばかりの川沿いに、なぜかそこだけさらさらの砂地があり、プライベートビーチのような場所。ちょうどそのエリアは外から見えないようになってたので、秘密の隠れ家にはぴったりでした。

時に悪者を倒すヒーローごっこ、ある時は犯罪に立ち向かう探偵、またある時は秘密の探検隊など。その時その時によって、秘密基地の役割は変わりました。僕らにとって、大切な場所でした。

確か記憶によると小5くらいの時だったと思うのですが、
「ちょっと、私もその秘密基地に連れて行きなさいよ」と、クラスの女の子に言われました。

学校のホームルームで「〇〇君が女子をいじめてましたー」と発言するようなタイプのボスキャラの女子。名前は、S子。僕は、どちらかというと女子をからかう「〇〇君」タイプだったので、S子のことは正直苦手でした。

「バーカ。連れてくわけねーだろ」と僕はS子に言いました。

「あ、ここ?意外と狭いんだね」と、秘密基地を見てS子は言いました。
僕は、ムスッと黙ったままそこに立ってました。結局、秘密基地を見せることになり、放課後に2人で来たのでした。

「なんか、ドブの臭いがしない?ここでなにやってんの、みんなで」と、よく喋るS子。僕は、黙ったままS子の後ろ姿をチラチラ横目で見つつ、大げさなフォームで流木を川に投げたり、草を引き抜いたりしてました。

「ちょっと、こっちきて隣に座って」と、上目遣いでS子が僕に言いました。僕は、黙って言われた通りに彼女の右横に座りました。

すると、彼女の右手が、そっと僕の左手の上に重ねられました。さっきまで饒舌だった彼女が、静かになりました。僕も、何を言って良いのか分からず、光を反射する川面を黙って見つめていました。

「じゃ、そろそろ帰ろうか」と彼女が言いました。

別れ際に「今日はありがとね」と、S子が言いました。僕は黙って手を振り、家まで走って帰りました。

翌日、S子に会ったらどんな会話をすればいいのか、ドキドキしながら学校に行きましたが、僕を見たS子は「あ、おはよ」とあいさつしただけでした。まるで、昨日は何もなかったかのように振る舞うので、僕は混乱しました。

それ以来、2人の間には特に何もないまま、小学校を卒業しました。

ただ、秘密基地に一緒に行って以来、ホームルームでS子が僕を名指しで注意することが少なくなった気がします。

* * *

という後半のお話は、ほぼフィクションですけどね。ただ、一部はホントの話です。どの部分が現実に起こったのかは、ご想像にお任せします。

久しぶりに実家に帰り、懐かしくなってこの場所を訪れました。そして、S子と手を繋いだあたりに、そっとこの小さな陶芸作品を置いてきました。

「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。