見出し画像

ホモ・モーベンス―都市と人間の未来

中銀カプセルタワービルの解体を追ったNHKのドキュメンタリー番組の放映を、元住民の仲間たちと一緒に鑑賞する夜。

カプセルが縦に連なる特徴的なそのビルは、残念ながら昨年竣工50年のタイミングで解体されてしまった。でも、そこに住んでいた人たちはまるで「長屋」のご近所さんのように、離れてもまだ繋がっている。

ドキュメンタリーの映像には、何度も黒川紀章さんが登場していた。

黒川さんが1969年に上梓したホモ・モーベンスという本に書かれている「カプセル宣言」には、未来の都市と建築についての提言が詰まっている。

カプセル宣言(要約)
第一条 カプセルとは、サイボーグアーキテクチュアである。
人間と機械と空間が、対立関係をこえて新しい有機体をつくる。建築は、これからますます装置化の道をたどるであろう。
第二条 カプセルはホモ・モーベンスのための住まいである。
カプセルは建築の土地からの解放であり、動く建築の時代の到来を告げるものである。
第三条 カプセルは多様性社会を志向する。
生活単位としてのカプセルは個人の個性を表現し、カプセルは組織に対する個人の挑戦であり、画一化に対する個性の反逆である。
第四条 カプセルは個人を中心とする新しい家庭像の確立を目指す。
夫婦を中心とする住宅単位は崩壊し、夫婦・親子といった家庭関係は、個人単位空間のドッキングの状態として表現されるようになるだろう。
第五条 カプセルは故郷としてのメタポリスをもつ。
カプセルと社会的共有空間とのドッキングの状態が社会的空間を形成する。故郷とは、具体的な日常空間をこえた、精神的領域となるであろう。
第六条 カプセルは、情報社会におけるフィードバック装置である。
我々はあらゆる多様で大量な情報の洪水のなかで生活することになろう。カプセルは情報社会の中で、個人が自立できるための空間なのである。
第七条 カプセルは、プレファブ建築、すなわち工業化建築の究極的な存在である。
カプセルの量産は、規格大量生産方式ではなく、パーツの組み合わせにより、選択的大量生産方式となるだろう。量産は規格化を強要するものではなく、量産による多様性の時代が到来する。
第八条 カプセルは全体性を拒否し、体系的思想を拒否する。
建築は部品に分解され、機能単位としてカプセル化される。建築とは、複数のカプセルの時空間的なドッキングの状態として定義されるだろう。

『ホモ・モーベンス―都市と人間の未来』(1969年、中央公論社)

中銀カプセルタワービルが完成したのは、それから3年後の1972年。新陳代謝を意味する建築のコンセプト「メタボリズム」の理念に基づいて建てられた、2つのタワーと140個のカプセルからなる近未来的なビル。都会で仕事をするビジネスマン向けのセカンドハウスとしてつくられた分譲マンションである。25年をめどにカプセルは交換され、新陳代謝をするはずだったが、50年の節目の年に建物は解体されてしまった。

けれど、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの前田さんたちの努力によって、23個のカプセルは救出され、これから第二の人生を送るために旅立とうとしている。

ここから先は

167字 / 1画像

個人的に思い入れのある本、大切にしたい本、知人が書いた本や、私がちょっとだけ載ってる本などについて書いています。

「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。