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創作した詩や小説の紹介

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創作した詩や小説を紹介しています。一部抜粋して掲載しています。なお、紹介した詩や小説などは、アマゾンにて電子書籍化しています。
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記事一覧

「先生のこころと死」(短編集その3)より引用

 先生は病死したのではない、殺されたのである。旅館に着いて散策に出掛けた。果樹の豊かな実…

歩く魚
2年前
8

「三千代との愛」(短編集その3)より引用

「あなたは思い余って、最後には私を殺したんではないですか」と三千代は代助を真っすぐ見なが…

歩く魚
2年前
5

「藤尾の死」(短編集その3)より引用

藤尾は北を枕に横たわっている。白い布が顔伏せしている。死んでいるのである。自らが死を選ぶ…

歩く魚
2年前
2

「奈美さんと長良の乙女」(短編集その3)より引用

活きの良い人間がいて、活発に暮らしている者もいるが、体を病める者や心が狂って牢に閉じ込め…

歩く魚
2年前
11

短編小説その23「眠る月」

      眠る月 月が眠っている。トタン屋根に登って月にたどり着くと、揺り籠の中に月は…

歩く魚
3年前
8

短編小説その22「ロックバンド」

      ロックバンド 男はロックが好きである。ロックバンドが鳴らす轟音が、耳をつんざ…

歩く魚
3年前
8

短編小説その21「雪に埋もれる少女」

      雪に埋もれる少女 雪は降り続けていて蒲団を被るように暖かさを感じる、少女は雪に埋もれて眠っている。どうしようもないのではない、きっと安らいでいる。といって何もの疑念が払拭したわけではない。向こうのすぐ傍の山小屋にたどり着こうとしていた。それが小屋のすぐ目の前で雪に埋もれてなぜ眠っていなければならないのか、安らいでいてはいけない。立ち上がって歩かなければならない。二人きりの晩餐会を開く予定があるのである。確かにひどい吹雪であった。風が吹いて雪が纏わり付いて目の前が

短編小説その20「自転車を押す男」

自転車を押す男 自転車を押している男がいる。自転車がボロくて乗れないのか、坂道が急勾配で…

歩く魚
4年前
9

短編小説その19「消却すべき肖像画」

消却すべき肖像画 あの人は肖像画である。壁に掛けられている。いつも部屋の中を覗いている。…

歩く魚
4年前
6

短編小説その18「砥石と刃物」

      砥石と刃物 砥石とは刃物を研ぐ石のことである。光沢を持って鋭利に美しく刃物を…

歩く魚
4年前
9

短編小説その17「笑う死刑台」

      笑う死刑台 笑うのは死体ではない、死刑台である。この場所に引き連れられて、死…

歩く魚
4年前
8

短編小説その16「歌う歌詞カード」

      歌う歌詞カード 衝立のように立って歌詞カードはマイクを握りながら歌っている。…

歩く魚
4年前
7

短編小説その15「熱気球と太陽」

       熱気球と太陽 ある晴れた日の朝、熱気球は空高く昇り始める。蒼空に大きな気球…

歩く魚
4年前
6

短編小説その14「石を食う牛」

      石を食う牛 牛は石を食らう、牧草があるのに敢えて石を食らう。言葉みたいに反芻する。胃袋のなかには粉々になった石が詰まっている。どうにも困ったことだと牧場主は牛を牛舎に閉じ込める。何日も外には出さない。牧草も与えない。石を排出するのをただ待っている。牛は牛舎の中で寂しげに鳴いている、その声は次第にか細くなっていくとも牧場主は放置しておく。彼はこの問題を解決しなければならない。一頭の牛は結構な財産である。もっと生育させて大きくして売り飛ばさなければならない。それ以上