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とても個人的なミュージックレビュー②  "The Beautiful South"


The Beautiful South
1988-2007, GB

Paul Heaton & Jacqui Abbott
2013-

チケットはジョンが持ってる

 人生には何度かピンチが来る。今なんとかしないと明日5億円のマイナスが出てしまう!というタイプのピンチを迎える人もいれば、何か一つポコンと栓が抜けたようになって、いろんなものが勢いよく流れ出してしまい、これは確かだ信頼できるとつかまっていたものもほろりほろりと崩れて、もう大きな流れにのみこまれて溺れていくしかないという状況に、来月あたりなるんじゃないだろうか、という思いつきが真実味を持って迫ってくる、そんなような自家発生的なピンチに苛まれる人もいる。私には後者のが、時々形を変えてやってくる。
 2019年の夏の初め頃は、じわじわと悲しい気持ちが近づいてくるのを感じていた。どのくらい大きくて破壊力があるやつなのか、どのくらい長くつきまとわれるのかわからない、新種の塊りっぽい。いつも奥の方に持っている、まあまあハッピーで忙しい時には無視できる種類のものではないようで、不気味な感じがしていた。
 友達のジョンは、よくアムステルダム・ボスで犬の散歩をする。そこは巨大な森林公園で、大きな木がどっさり生えている他、池がいくつか、運河、草地、ヤギ牧場、毛の長い牛の放牧エリア、アスレチック場、ボートレース場、カヌーコース、レストラン、カフェなどたくさんの施設がある。乗馬用の小径もあり、人の少ない平日昼間などには、結構な速さで駆ける馬が近くを通ってぎょっとしたりする。馬が走り去った後の風と後ろ姿はいい。多くの人は、犬のリードを外して散歩する。オランダの犬はよくしつけられていて、人を噛んだり人に近づき過ぎたりしないので、飼い主も安心して自分の犬を自由にさせる。犬たちは広場を駆け回ったり、尻尾をふりふり犬同士で交流したり、草原で仰向けになって背中を掻いたり、水浴びをしたりする。白鳥がいて、鴨がいて、上の方ではずっと鳥の声がしている。
 アックス、マリア=ホセ、タムシン、私は、気が向いたらジョンとジョンの犬の散歩に加わった。フランシーンとベリは、忙しくて来れないことが多かった。ローラはその時すでにマドリッドに戻っていたと思う。3、4人で2時間ほど公園を歩き、おしゃべりして、キノコを見つけてはああだこうだと言い合い、最後は大抵ヤギ牧場の近くでコーヒーとケーキで休憩するというパターンだった。友達と、犬と一緒にボスを歩くと、とてもいい気分になった。鳥の羽ばたく音、友人の声、乾いた葉を踏んで砕く音、濡れた葉を踏んで靴の下がじゅるっとする感覚、高い木、枯れた木、苔、リス、突然の雨、思いがけなく差し込んでくる太陽の光、.....。 森公園の中で感じたことは、私から出てシャボン玉のようになり、膨らみ厚みを増して、私を覆う細胞膜のようなバリアになる。この柔らかい膜が、私に近づいてくる得体の知れないものから私を守る、そういうイメージでいた。

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 そういうこともあって、私の散歩の会参加率は高かった。そして、ジョンの犬のブラック・ジャックは、私を一番気に入ってくれていた。多分そんなことも手伝って、ジョンはコンサートに一緒に行く相手を探しているときに私のこと一番に思いついてくれた。
 ジョンはずいぶん前にチケットを二枚買っていた。それは、The Beautiful South というイギリスのポップロックグループが、パラディソ・アムステルダムというところで上演するコンサートのだった。パラディソは、以前は教会だったところを何十年か前に、コンサート会場やクラブとして使えるように改造してあるところ。以前は教会だったけど来る人が減ったので、別の目的で利用しているというところは、他にも、元教会ビアホール、元教会歯医者、元教会イベント場など色々ある。どこもちょっと厳かな雰囲気が残っていて、新しい利用目的とのミスマッチングな感じがとてもユニーク。

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 The Beautiful Southは、1988年から2007年の間イギリスで活躍していて、人気があった。2019年には解散してからずいぶん時間が経っていたが、ポール ヒートンとジャッキ アボットというメインメンバーの2人が来て歌うという。


Good As Gold (Stupid As Mud)


 2人が歌う曲は、とても綺麗で心地よい。歌詞は下品なのも多くて、クイーンズイングリッシュではないけれど、イギリスの人たちは、結構そういうのが好きなのではないかと思う。“Good As Gold (Stupid As Mud)”のサビの部分のメロディもすごく気持ちいい。

I want my love, my joy, my laugh, my smile, my needs
Not in the star signs
Or the palm that she reads
I want my sun-drenched, wind-swept ingrid bergman kiss
Not in the next life
I want it in this
I want it in this

愛、喜び、笑い、笑顔、いるものみんな
星占いじゃなくて
手相占いでもなくて
太陽の光と風に包まれた イングリッド・バーグマンのキスが欲しい
次じゃなくて
このライフで手にしたい
このライフで手にしたい

この曲は下品なところはなく、そんなに簡単じゃないけど、笑ったり泣いたりしながら止まらずに突き進むぜよというもの。がんばってほしい。

The hill to happiness is far too steep
I'll carry on regardless
Dried his mouth in the memphis sun
He carried on regardless
Tried to smile and he bit his tongue
But carry on regardless

ハッピーへの坂道は急傾斜過ぎるけど
いいからこのまま行こう
メンフィスの太陽で彼は口が渇いたけど
かまわず進んだ
笑おうとしたら舌を噛んじゃったけど
かまわず進んだ

“Prettiest Eyes”

 この曲には、最高に可愛い目(prettiest eyes)のとこにあるカラスの足(小皺、 crows feet)が出てくる。もう若くなくなった2人の歌。英語らしい脚韻(Rhyming) も楽しい。

Now you're older and I look at your face
Every wrinkle is so easy to place
And I only write them down just in case
You should die

君はそんなに若くなくなって 
顔にはすぐ皺が出る
もしもの時のために書き留めておくだけだよ
君が死んでしまったときのために
Well my eyes look like a map of the town
And my teeth are either yellow or they're brown
But you'll never hear the crack of a frown
When you are here
You'll never hear the crack
Of a frown


僕の目は街の地図のようだし
歯は黄色か茶色だけど
でも、機嫌の悪くなる時のカチッという音は絶対聞かないと思うよ
君がここにいれば
カチッといわない


Don’t Marry Her, Have Me

 たくさん好きな曲ができたけど、でもこの曲がやっぱりいい。その気持ち全部わかります!と、多分たくさんの人が思った。私も思った。”Don’t marry her, have me” は、オフィシャルなのではhave になってるけど、ライブではfxxxと歌ってた。そうなるとよりストレートで、同感ですの気持ちも強化される。

She's a PhD in "I told you so"
You've a knighthood in "I'm not listening"

彼女は "言ったわよ"の博士
あなたは "聞いてないよ "の騎士

When your socks smell of angels
But your life smells of Brie

靴下が天使みたいなにおいでも
あなたの生活はブリーチーズみたいににおう



結論
 

 世界は楽しい音楽であふれてる。もっと分け入っていって頭を音楽の中に浸からせちゃったらいい。そうしたら元気をなくしたり、壊れるかもと心配したりてる場合じゃなくなる。恐れるな、2019年の私。

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