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あのときも、あのときも、あのときも。

令和も何年かすぎて、平成が懐かしい。私にはよくわかないけれど、月へも旅行に行けちゃうんだってさ。昔の人が聞いたら信じられないよね。でもまだ火星には旅行に行けないし、早々科学ってのは進歩してないのかな。

同性婚も認められる自由な時代だけど、私はレイイチさんと結婚した。レイイチさんは男性ね。最近では、相手が同性でも驚かない。私の女友達もずっと昔から幼馴染だった女の子と結婚した。Wウェディングドレスは綺麗だったよ。

レイイチさんと今朝、些細なことで喧嘩した。くだらないこと。あたしが月のものがずれこんでいたけど、週末は絶対買い出し行っておきたいから、一人で買い込んできたんだけど(レイイチさんはお仕事)帰宅して貧血で倒れてしまった。

すぐに回復したのに、レイイチさんは無理しないでほしいと怒った。そして、体の不調はすべて報告してほしいと言われた。私はまるで子供みたいな扱いに嫌気がさして、逆に何も報告しませんっ! と怒鳴った。

レイイチさんはショックを受けた様子であった。彼は私に対して甘い。過保護すぎるくらいだ。

私は、いやなことがあったら『嫌なこと日記帳』につけて忘れるのだけど、秘密の引き出しを開けて書こうとした瞬間。

――あれ?

なんだかデジャヴを覚えた。

最近何かこの日記帳に書いた気がする。けれど前のページの日付は数カ月前だった。まあいいか、と考えて走り書きをする。出だしはこうだ。

『5/27 今日、バカレイイチと喧嘩した』

× × ×

「お帰り。仕事早引きしたの?」

エコバックなどを探しているところにレイイチさんが帰宅した。レイイチさんはネクタイを解きながら「今日、俺休みだった。忘れて出勤しちゃったよ。買い物? 付き合うよ」と言いながら流れるような動きで私服に着替える。

私は急に月のもので体調が悪いところだったので、内心助かったと思った。私は運転免許もってないから、徒歩で買い物へ行くところだった。レイイチさんは当然のように車を運転して、重い荷物も持ってくれた。帰宅して荷物をすぐに冷蔵庫に入れてくれて、晩御飯も今日は適当でいいやとか言い出した。私としては、体調悪いの気づいてくれたんだと思って、何も言わず甘えることにした。そうだ、アプリにつけておかなくては。

5/27に私は開始日という印をつけた。

× × ×

付き合っているとき、レイイチさんは私のことをよく尋ねた。初恋の人は誰? とか。過去痛かった出来事は? とか。悲しかった出来事は? とか。過去最悪、憎い人はいた? とか。 憧れの人はいた? とか。

私は可能な限り思い出そうとするのだけど、大して大きなケガも病気もしたことがないし、幸いにも嫌いになった人間はいつの間にか消えるようになっていた。ありがたいことだ。レイイチさんほど好きになった人もいないしきっと運命だったのだと思う。

レイイチさんは鼻筋の通ったきれいな顔をしている。私はこの手のたれ目で綺麗すぎる顔は自分の日本人顔と合わないから苦手だけど、過去にあこがれた人や助けてくれた人がみんな似ていることから、私のが好きなタイプなんだと思う。

小学生の頃、私と妹で近くのスーパーへ雪が降り始めていたけれど、バスで買い物へ出かけた。雪が降っているのに出かけることに興奮したのを覚えている。母もそんなに降らないだろうしバスも動いているから平気だと判断した。けれど、雪は本降りとなってきた。積雪十センチ。これは久しぶりの大雪。バス停にはたくさんの人が待っていた。

バスは一向にやってこない。すると大学生くらいの男性がバス会社に電話した。不安そうにする人たち。彼は、みんな待っているだんぞ、バスを動かしてくれと交渉していた。どうやら雪で運行停止していたらしい。やがてチェーンをつけてバスがやってきた。私たち姉妹はその男性にとても感謝した。その大学生はレイイチさんによく似ていた。

高校の頃。私から告白して付き合いだした先輩が二股していることが、翌日くらいに情報で入った。情報の出どころはよくわからず、友達も友達から連絡来たと言っていた。その友達も友達からで、私は助かったのだから犯人捜しをあきらめた。

大学生の頃、母が病気で亡くなってあとを追うように父も死んだ。私は自暴自棄になっていた。これからどうやって生きていったらいいのかわからなくなった。鬱にかかっていたのだと思う。道を歩いていて信号が赤だったのに横断歩道をぼうっと歩こうとしていた。そこで強くひっぱってくれた男性がいた。

レイイチさんに似たその人は「いつかきっと、あなたを必要とする人と出会うから今じゃない」と強く言い放った。その人は私を強く抱きしめた。私は往来で大泣きしてしまった。

× × ×

彼女は、とても不運な人だった。本来であれば。

小学生の頃、雪の日にバスが来なくて姉妹で雪道を歩くことになるのだけど、そのとき妹が滑って本来人が歩かない山道から転がり落ちてしまう。

高校の頃、付き合っていた彼氏は二股しているうえに覚せい剤を所持していた。当時、付き合っていた彼女も警察に疑われるのだった。

大学生の頃、両親を亡くした彼女は交通事故にあってしまう。命はとりとめたが、傷が残ってしまった。

その不運な話を聞いたのは付き合ってからだ。

俺は彼女をずっと探していた。彼女は幼い頃タイムトラベラーだったのだ。

しかも無意識の。勝手に過去に飛び、戻ってきている。


俺も一度死のうと思ったことがあった。

他愛もないことだ。まだ中学生の頃、家に借金がたくさんあって返す見込みもないし、俺はイジメにあってたし、生きている意味なんてなかったからだ。公園でブランコを漕いでいると、彼女に出会った。幼い彼女は、俺に「泣いてるの?」と聞いてきた。

泣いてなかった。でも、本当はずっと泣いていた。

うなづくと、彼女は俺の頭をなでた。俺は彼女に年齢を尋ねた。

「えっと、れいわに生まれたから五歳」と言った。

まだ平成で、元号は発表しておらず、何を言っているのかわからなかった。彼女はポーチからお菓子をくれた。個包装のチョコレイト。

消費期限は2024年とあった。

× × ×

そのブランコで出会ったときから俺は猛勉強をした。借金は親がなんとかした。悲観するほどの額ではなかったし、奨学金で通った大学では、成績優秀で卒業した。そのまま科学の分野へ進み、俺はタイムトラベルについて研究した。その能力者は一定数いることが判明。

宇宙理論も進み、実験的に過去に飛ぶことが成功。未来へも飛べた。しかし、人体実験はまだ研究者らしかしていない。

原子レベルに分解再生を繰り返して飛ぶため、遺伝子に異常があるかはわからない。それでも、俺は過去や未来の彼女を救えているので問題ない。

心配なのは、彼女がまたタイムトラベルするかもしれないということだ。この前喧嘩したとき、彼女は過去に飛んでしまった。

過去に飛ぶと、現在の彼女はいなくなってしまう。

嫌なこと日記にはバーカと記されていた。知るか、バーカと思ったけど俺の方が好きなので、そっとしておく。

俺は過去に飛び、その時空の俺が会社に行っている間に買い物へ付き合った。喧嘩はなかったことになった。

しかし、このままだといつかバレてしまうだろう。

彼女は不幸な星の生まれであるし、きっと様々な困難がやってくる。

それも修正できないほどの。

タイムトラベルの能力は一種の病気であった。

俺は彼女をずっとこの時空につなぎとめておくことができるのか。心配はつきない。

× × ×

夜、眠るとき。

レイイチさんは、いつだって私の顔をじっと観察するように眠る。なんかいつか死ぬ人を見るみたいで怖い。

レイイチさんはたまに神がかった予言をする。きっと不思議な能力を持っている人なのだ。元号が変わったときも「令和」って聞いたことがあると両親に言ったらしい。まさに神童ね。

「おやすみ。また明日」

頬を撫でる手が優しい。

私もそっとつぶやくように言った。

「また、明日」



おわり。


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