見出し画像

散文:タイムラインの恋人。

通信アプリにあるタイムライン。
連絡先を登録しただけで、その人があげた写真などが共有される。

飲み会のときに連絡できないからといった理由で、登録した男性がいるのだけど、タイムラインによく投稿するタイプだった。

たまたま。

彼があげたご飯の写真がおいしそうだったから、ニコチャンマークを押したら、会社で声をかけられた。

「島田さんって、タイムライン見る人だったんだ。いいね、してくれてどうも」

私は周囲の目を気にして会釈しただけだった。
このときから、彼のタイムラインを心待ちするようになってしまった。
我ながら気持ち悪い女である。

タイムラインにはなにか応募しても反映される。私も遊園地の入場券があたる応募をしてみた。
あわよくば、彼と行けたらいいなと妄想しながら。
彼が友達といった海外の写真もすかさず、いいねした。女の子はいっしょではなくてほっとした。
彼女はどうやらいないようだ。
そのはず。彼を狙っている人は大勢いた。
そして、それらをまとめている女ボスがフライングを許さないからだ。
どこかにでかけるときは、みんなで。
連絡先を知っているのは社内でたくさんいる。
密室で二人にならない。
二人だけの共有ネタを作らない。

だから、いいねを押しても私はすぐにいいねの波にのまれる。
たくさんの知っているアイコンの女性がいいねしていく。
現実は恋人なんかじゃない。

私は社内でおとなしい人で通っている。
実際、インドア。
彼のようにタイムラインにあげるネタなん
ほとんどない。

婚活パーティーで一度もマッチングしたこともない。すごい。我ながら、大丈夫か。

彼のことが大好きな女ボスは独身で40代。彼は二十代後半。
それは恋なのか独占欲なのか、よくわからないけれど彼に恋人ができないのは、女ボスが牽制しているせいもあると思う。

つい、私は彼女に聞いてしまった。

彼氏さん作らないんですか?

禁句だった。私もどうかしていたのかもしれない。そのとき彼女、あなたに関係あるの?と怖い目で睨んできた。
退職の危機。

それから、私だけ会議の時間を知らない、女性だけまわる婦人科検診などの回覧板の存在を知らない、給湯室のカップがなくなったりした。
些細なことだけど傷ついた。

タイムラインの彼がいくら写真をあげても、私
いいねを押さなかった。
恋人などではなかったからだ。

私は体調を崩して職場を去り、しばらくして介護施設のパート事務になんとかつくことができた。

タイムラインで彼が結婚しました、と写真をあげていた。
人づてに聞いた話だと、新入社員で入った同じ部署の女の子。すぐにみんなと意気投合、なおかつ女ボスとも仲良くなって、周囲納得の結婚らしい。
なんだか、大物の気配。
空気読むとのもうまいんだろうなあ。

忙しくてタイムラインを見ることも減っていたけれど、私はどうして彼がタイムラインに写真をあげるのか、ふと不思議におもった。

もしかして、別の誰かにあてたものだっただろうか。
フェイスブックにもつながっていない、誰か。
通信アプリだけは繋がっている。
その誰か……たぶん。女性?
彼女にあてたアピールは沈黙だったのかもしれない。
まんまといいねを押した私は違う。

その謎の彼女はいいねを押さない。
観念して、別の女の子と結婚。
あてつけで結婚しました報告をタイムラインに。

ま、今の私には関係ないけど。
どうでもいいや。
そんな女々しいことしない人がいいや。
私も彼氏できたし。

目障りなので連絡先を消そう。

介護施設には紫陽花が咲いている。
写真を撮って、彼氏に送ろうと思った。
きっと送ったらすぐに電話をくれるだろう。

携帯で文字を打ち込むことが苦手な彼氏
思い浮かべて私は微笑んだ。


おわり。

#小説 #短編





サポートしていただけただけで、めちゃ元気でます。あなたのこと好きになって、みんなが私もやろう、って思う記事を上げれるよう精進して参ります。主に小説関連!