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散文:「美しき魔女と災厄の弟子」

美しき魔女は落ちている物なら何でも拾ってきた。
だから、人間の子供が月の綺麗な夜におぎゃあと泣いて目をひいたなら、特に何も思わずに連れて帰るのだった。

どうやら赤子はこの国の双子の王子の片割れであった。
だが、占星術師が「大変です。二番目に生まれた方はこの国に災厄をもたらすことでしょう。いますぐ殺すべきです」と王に進言したのだった。しかし、潤んだ青い瞳が妃をみつめたとき、彼女は家来に命じて魔女が住むといわれる森においてくるよう命じた。
魔女がもしかしたら拾ってくれるかもしれない。何せ魔女はなんでも拾うし、美しい物が大好きだったからだ。

魔女はいつも美しく、銀糸のような白い髪は三つ編みにしてあり背中を流れている。黒い服はスパンコールが煌めき、豊満な胸を包んでいる。
爪は黒く塗られかぎ爪は長く鋭い。
しかし、彼女は一見、魔女の様相であったが明るく微笑むと、まるで慈愛に満ちた女神のようであった。たれ目であることと、見た目は年若いこと、そして思ったよりもドジであることが、魔女であることを忘れさせる。

ああ、甘い物が食べたいなあと彼女は花畑をすべてこんぺいとうに変えたり、ドラゴンの寝床にある宝石を奪ってしまおうと目論見、欲張ってスカートを広げて宝石を持ち出そうとしたら見つかり、慌てて逃げようとしてほうきから転げ落ちたりした。

拾った子供は漆黒の髪に美しい顔立ちをした美男子に成長した。魔女の寿命は長く、彼女は「やっぱり人間の子は成長が早いのね」と言った。弟子はとうの昔に魔法の呪文をすべて会得し、独り立ちできるのだが魔女の傍にずっと暮らしていたかった。しかし、やがて死が訪れることを知り怖くてたまらなかった。
魔女に「僕も不老不死になりたい。あなたとずっと暮らしたい」と言ったのだけど、人間は不老不死にはなれないと説いた。それは世の理らしい。

あるとき、魔女が留守をしたときに部屋の掃除をしていると古い書物がみつかった。その本は初めて知るものだった。世の理を書いたもので、たしかに人間は不老不死になれないとか使い魔は契約しなくては使えないとか、夜空の向こうには更に夜空が広がっていることなど、様々なことが書かれている。
弟子はある一文を読んで、息がとまるかと思った。そして独り立ちするには十分な理由ができた。

魔女は赤子が青年になっても全く災厄を国にもたらす要素がないので、占いは間違いだったのだと考えていた。
けれど、十年ぶりに弟子が家に戻ってきて、魔女の手をとったとき「なるほど、これは災厄だ。この国にとって最悪な弟子を育ててしまった」と後悔した。
弟子は「あなたを魔女から人間にします。そして死ぬまで僕と一緒に暮らしましょう。大丈夫、悪魔に代償は払えそうです。百万人の民の命を捧げれば叶えてくれるそうです」と言った。
彼は生まれた国と敵対する国に宮廷魔法使いとして取り入ったそうだ。

魔女は握手をした。
愛しいからこそ、魔女も決意した。

「あなたとは闘うことになるわね」

いつもと変わらぬ、あどけない笑顔で微笑んだ。

おわり。

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