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[暮らしっ句]探 梅[鑑賞]

冬枯れの野山に早咲きの梅を探しに出かけませんか?

 探梅の ちんちん電車の箱の中  西山美枝子

 バスでもいいですが、ローカルな乗り物を乗り継ぐと、景色はどんどん鄙びていくのに胸が高鳴ります~
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 探梅の 絵地図置かるる 無人駅  山梨幸子

 駅員さんがいないのは、こんなご時世ですからやむを得ません。でも、絵地図がちゃんと用意されていた。地元の人のためのものではないですね。シーズンに訪れる観光客への心遣い。絵を見ただけで地域の愛されスポットがわかるというもの。
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 探梅へ まづは小用済ましけり  塩路五郎

 これ特に年配者には大事なこと。冷えると余計に近くなりますから。里山なんかにすぐ入れればいいんですけど、国道の一本道をしばらく歩くことになったりすると男性だって人目を憚りますから。
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 里人の返す会釈や 探梅行  鈴木撫足

 都会だと知らない相手から声をかけられると警戒が先に立つかも知れませんが、人の少ないところだと無言ですれ違う方が気味が悪い。そういうこともありますし、旅先で気分が開放的になるということもあります。思い切って挨拶して、感じよく応えてもらえるとうれしくなりますよね。
 わたしも介護で朝の散歩をするようになって、挨拶一つでこんなに気分がよいものかと日々実感しています。慣れるまで失敗というか不完全燃焼なことも多かったのですが、ひとつわかったコツは相手に合わせることですね。こっちの気分でフレンドリーに振る舞ったり、今はそれどころじゃないんだ、という感じを出すと、まあズレます。失敗談~
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 探梅の 人のやさしき 里訛  小林成子
 探梅や 笑みを交はしつ 知らぬどち  篠原幸子

 これは探梅に来た者同士のささやかなふれあい。話しをするほどではなかったけれども、見ただけで気心が知れる感じがしたのでしょう。そういうことってありますよね。同行者に「知ってる人?」とか後で訊かれたりして。それくらい瞬間的に打ち解けた空気になることがあります。こういうのは桜のお花見ではむずかしい。なーんもないところで、気持ちが大事にされる。
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 近道とて人の軒先探梅行  金國久子
 村中の犬に吠えられ探梅行  林昭太郎

 これもあるあるです。地元の人に道を尋ねると、生活道路を教えて下さるわけですが、それが私道だったり、道じゃない家と家の隙間だったりする。こんなところ通って怒られないなあ、と思っていたら、怒られはしないけど猛烈に吠えられたという。
 犬もね、わかってるんですよね。あ、自信のなさそうなのがやってきたと。だから、ギリギリまで引きつけておいて突然、吠えて驚かせる! 
 まあ、昔と違って放し飼いは大幅に減ってるそうですが、それに反比例して犯罪が増えているのだとか。難しいですね。
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 探梅も そこそこにして入る蕎麦屋  田中きよ子

 はい。梅の花はまだみつかりませんが、美味しそうなにおいが漂ってきました~ 「ちょっと早いけどお昼にする?」 「サンドイッチはもってきたけど、暖まりたいね」 「あんな昔ながらの佇まい見たら素通りするのももったいないしね!」
 今部屋の棚に、三十五年前に柳生の里で買った梅干し(梅漬け?)の陶製の容器があります。竹筒くらいの大きさ。値段まで覚えている。確か七百円。その時は、ちょっと高いなあと思ったんですけど、当時は窯巡りもやってたんで、雑器に惹かれて買い求めました。民藝にかぶれると雑器が欲しくなるんです。雑器風の作品じゃなくて手作りの量産品。
 とはいえ、薄暗い店では良く見えたんですが、明るいところで見ると安っぽい。飾っておく気にもならなかったんですが、三十五年も経つとこれが化けるんですよね。庭や物干しで風雨にさらしたのが幸いした。雑人間も世間に揉まれて味が出てくるといいんですが~

 ということで、今回は花にまで辿り着くことが出来ませんでしたが、探梅行というのは、まさしく「プロセス経済」ならぬ「プロセス遊興」。結果じゃないんです!

出典 俳誌のサロン 歳時記 探梅


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