十丸文王

「とまるふみお」とお読みください。商業ライターやってます。ここでは、趣味で集めている『…

十丸文王

「とまるふみお」とお読みください。商業ライターやってます。ここでは、趣味で集めている『怖い話」を公開してみようかな、と。

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第73話 友人の話-手編みのマフラー

銀行員のコウダくんは手編みのマフラーをもらったことがある。 「いや、ぜんぜん恋バナ系やないねん」 期末や年末はどうしても仕事が立て込む。 帰宅が深夜になることも多い。 年の瀬が近いその日も、家路についたのは日付も変わろうかという時刻だった。 どうにか終電で最寄り駅につくと、そこからマンションまでは、徒歩で15分程度。 疲れた足を引きずり、真っ暗な街を歩いていると、心も体もしんしんと冷え込んでくる。 「寒いっすねぇ」 商店街のはずれで、声をかけられた。 見ると、見知

    • 第72話 友人の話-死神の体臭

      死が近い人には独特のニオイがある。 クリーニングチェーンの受付をしているホシミさんはそういう。 「古い香料とカビと干物を混ぜたような感じ。ミイラを嗅いでみたら、そんなニオイがするんやないか、って思う」 病気のニオイではなく、事故で死ぬ人も、自殺する人も同じニオイがする。 「せやから俺が嗅いでるのは、その人に憑いてる死神の体臭みたいなもんかもしれん」 客の持ってくる衣類のニオイで、ホシミさんには死期がわかる。 長く地元でクリーニングの受付をしていると、「あの人はどうなっ

      • 第71話 友人の話-結婚祝い

        「霊より人の方が怖い気がします」 ナガセさんは一昨年の春、勤め先を寿退社した。 県内では名の知れた機械部品メーカーだった。 広報で少し責任のある仕事を任され始めた矢先だったので、周囲には惜しむ声もあった。 「先輩の女性陣からは特に」 せっかく育ててやったのに、ここで辞めるのか。 責任のある地位を女性になかなか回してもらえないのは、あなたのような人がいるから。 そう責める人もいた。 とはいえ、結婚はタイミングのものだ。 仕事場で知り合い、付き合うようになった彼とは、い

        • 第70話 友人の話-猫の恩返し

          「動物に助けられたこともあるで」 ヒガシノくんは獣医師をしている。 現在は住宅街に医院を構えているが、駆け出しのころは勤務医として辛い経験も積んだ。 「助けられたときは嬉しいんやけど、そうでないこともあるやろ。ときには殺さなあかんことも」 獣医師は、いわゆる安楽死や殺処分を頼まれることがある。 病気やひどいケガで助からない命なら、苦痛を取り除くため、と割り切れるが、そうでないときは辛い。 駆け出しのころは特に、割り切ることができず、人知れず苦しんだ。 「最初に勤務し

        第73話 友人の話-手編みのマフラー

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        • 友人の話
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        • 家族の話
          5本
        • noteフォロワーの話
          4本
        • 妻の話
          9本
        • 親戚の話
          1本

        記事

          第69話 友人の話-留守電

          「自分ではどうしようもないこと、ってやっぱり怖いですね」 カキヌマさんは関西では有名な女子大に通っていた。 実家は広島なので、合格と同時に、ワンルームマンションを借りた。 初めてのひとり暮らしだ。 昼間は大学、夜は外食店のアルバイト、と楽しく忙しく日々が過ぎていった。 そんな中、ひとつだけ気になることがあった。 奇妙な留守電が入るようになったのだ。 「あなたも……でしょ?」 女性の声でそう告げるだけ。 意味がわからないし、声の主も思い当たらない。 なんとなく気味が

          第69話 友人の話-留守電

          第68話 友人の話-クワガタ

          クボタくんは霊の存在を信じるという。 「見たことはないねんけど」 小学生のころ、クボタくんはクワガタ捕りにはまっていた。 住んでいた街は、大阪北部の住宅街だが、街の北側に連なる里山に入れば、カブト虫やクワガタが捕れた。 「早起きが辛いねん」 それでもクボタくんは学校が夏休みに入ると、友人と連れだって毎日のように山へ行き、クワガタを捕った。 ただ、それだけ頑張っても、いつもたくさん捕れるわけではない。 ミヤマクワガタは、ほぼ毎日のように捕れたが、ノコギリクワガタが捕れ

          第68話 友人の話-クワガタ

          第67話 友人の話-写真館

          ワサカくんは写真館を経営している。 祖父の代からある古いもので、彼は3代目だ。 「そりゃ、写ることはあるで」 いわゆる心霊写真である。 スタジオで撮ったお見合い写真や家族写真に、「あり得ないもの」が写ることは、そう珍しいことではないという。 「人の顔とか、腕とか……まあ、フォトショップで消すだけやけど」 変なものが写りましたよ、と告げるわけにもいかない。 そこはデジタル時代のいいところで、パソコンに取り込んでしまえば、どうとでもなる。 お祖父さんの時代にもあったが、

          第67話 友人の話-写真館

          第66話 友人の話-顔

          サノハラくんは食品会社の営業マンをしている。 営業一筋12年というベテランで、成績もいい。 地域の営業所では、ほぼ毎年トップの成績を収めてきた。 ある年、その風向きが変わった。 ライバル会社からやってきたタムラくんのせいだった。 6歳年下の好青年で、社内の女性陣からもウケがいい。 親父ギャグでどうにかコミュニケーションを図っているサノハラくんとは大違いだ。 さわやかなルックスのおかげか、新規開拓のペースも速い。 サノハラくんが日参してやっと担当者の面会をとりつけている

          第66話 友人の話-顔

          第65話 友人の話-万引き

          ハナキくんはコンビニの店長をしている。 地主の親がチェーンの営業マンに勧められて始めた店だ。 「息子の仕事場を作りたかったんでしょうね」 サラリーマンを1年で辞め、以来、アラフォーまでバイトや派遣で食いつないできた。 そんな息子の行く末を考えて、始めてくれた店だという。 いくらかでも黒字ならよし。 ハナキくんもそんな気楽な気持ちだったが、いざふたを開けてみると、開店からひどい赤字が続いた。 原因は簡単だった。 地域はコンビニの密集地で、後発の店が食い込む余地は、最初か

          第65話 友人の話-万引き

          第64話 自分の話-後ろを通るモノ

          書き続けると、見るようになる。 実話怪談には、そんな都市伝説がある。 このジャンルの巨匠、平山夢明さんや福澤徹三さんなども、そのようなことを書いておられる。 見るだけではすまない、とも。 以前にも告白したが、ぼくは今まで一度も、「見る」という体験をしたことがない。 そのため、書くことによる怪異との接触には、少し期待するところがあった。 拙作「ききがき」をアップする時間帯はバラバラだが、ライティングはほとんど深夜である。 本業のノルマが終わってから、「じゃあ書こうか」

          第64話 自分の話-後ろを通るモノ

          第63話 友人の話-つきとばす

          「一番嫌なのは、やっぱり事故ですね」 ワタナベくんは某私鉄で駅員として働いている。 昨年までの勤務地だった駅は、なぜか飛び込み自殺が多かった。 そのため、ホームのあちこちに監視カメラがつけてある。 内勤をしていても、怪しそうなのを見つけると、構内に連絡を入れ、止めに行くのだ。 「トラウマになることもあります」 判断が間に合わず、飛び込む瞬間をカメラ越しに見てしまうこともあるからだ。 結果は、電車の速度や飛び込み方によってまったく違うという。 「マグロ」と呼ばれるように

          第63話 友人の話-つきとばす

          第62話 友人の話-同居人

          「もうずぅっと、彼女なんておらんのに!」 外食チェーンで居酒屋の店長をしているモチダくんはそう怒る。 昨年、転勤があり、引っ越すことにした。 独り身だし、勤務時間が長い仕事なので、住む部屋にはこだわらない。 通勤の便がよく、家賃が安ければOK。 その条件で見つけた部屋だった。 3階だが目の前を新幹線の高架が走っており、あまり環境はよくない。 さらに「薄暗くて、なんや変な臭いがするなぁ、って」 部屋自体も好印象ではなかったが、職場まで自転車なら3分という立地にひかれて、

          第62話 友人の話-同居人

          第61話 友人の話-駆除

          「お祖母ちゃんに怒られてから、ほとんど人に話したことはないんです」 子どものころ、サカイさんはよく不思議なものを見た。 「押し入れの隙間からのぞいている人とか、墓地を飛んでいるボールみたいなものとか……」 報告すると、家族からは「そんなものはいない」と否定された。 信じてくれるのはただひとり、少し離れた街に住む母方の祖母だけだった。 彼女もまた、見える人だったのだ。 サカイさんの力はだんだん強くなり、小学4年生になるころには、ものによっては触ることもできた。 ある日

          第61話 友人の話-駆除

          第60話 友人の話-続き

          「前世のことって、責任をとらなきゃいけないものなんでしょうか?」 ひとり暮らしをしているクリヤマくんの家に、ある日女性が訊ねてきた。 見知らぬ人だったが、休日で暇だったこともあり、なんとなく家に上げた。 「フツーの感じだったし、古い知り合いかな、と思ったんです」 30代半ばというから、クリヤマくんと同世代だ。 顔を見ていると、なんとなく懐かしい気がしてくるが、名前はわからない。 小学校の同級生とか、そんなのだろうか? 「あなたとは、前世で一緒だったの」 思い出せない、

          第60話 友人の話-続き

          第59話 友人の話-福の神

          コデラくんは警備員をしていたことがある。 仕事先は、古い商業施設で、巡回とトラブル時の対応が主な仕事だった。 「基本的には暇でしたね」 面倒なのは、テナントで万引きがつかまったときくらい。 ほとんどの時間は詰め所にいて、定時に巡回するだけ、という楽な仕事だった。 ただ、冬に入って、少し事情が変わった。 テナントからのトラブル対応要請が増えたのだ。 「浮浪者がウロウロしてたわよ」 苦情を受けて探してみるが、立ち去った後なのか、それらしき人物は見つからない。 数日後、

          第59話 友人の話-福の神

          第58話 友人の話-おかえり

          キノシタさんはお祖母ちゃん子だった。 「両親が共働きだったので」 幼少時から、同居しているおばあちゃんが面倒を見てくれた。 母親よりもおばあちゃんが好きだったという。 「学校から帰ると、いつも『おかえり』って迎えてくれて」 どんなに嫌なことがあっても、その声を聞くと元気を取り戻せた。 そんなお祖母ちゃんば亡くなったのは、彼女が小学2年生のときだった。 大きなショックを受けたキノシタさんは、お祖母ちゃんの死を上手く受け止めることができなかった。 「本当に起きたこと

          第58話 友人の話-おかえり