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電子計算機使用詐欺――1億8千万円分のシュークリームを買ったと騙した女

 被告は初公判時22歳の女性。非拘束で、胸まである髪は金に近い明るい茶色。
 彼女が問われている罪は、電子計算機使用詐欺である。
 電子計算機使用詐欺とは、簡単に言えばコンピューターなどの機械を相手にした詐欺である。人を騙せば詐欺で、機械を騙せば電子計算機使用詐欺となる。
 例としては、駅の有人改札でキセルをすると詐欺になり、自動改札でキセルをすると電子計算機使用詐欺になる。
 被告は勤めていた洋菓子店にて、菓子を購入した際に得られるポイント89万5000円分を詐取したという。
 被告は容疑を全面的に認めている。

事件の詳しい経緯

 事件当時、被告は一人暮らしをしながら専門学校に通っていた。勉学の傍ら、トンカツ屋で働き月に30万円程度稼いでいた。しかし、トンカツ屋でのシフトが減らされ、給与は月に20万円弱ほどになってしまい、被告は洋菓子店でのダブルワークをはじめた。
 洋菓子店は大阪市鶴見区の大型スーパー内にあり、シュークリームをメインにしたチェーン店である。

 洋菓子店はスーパーのポイント制度の加入店だった。200円ごとに1ポイントが付与され、1ポイントは1円としてスーパー内で使うことができる。
 店員の立場を利用すれば、不正にポイントを得られるのではないかと被告は思いついた。

 2016年10月、被告は他の店員の目を盗み、ポイントを付与するための機械を操作し、所有している母親名義のクレジットカードに不正にポイントを付与した。
 1度目の犯行は、洋菓子店でアルバイトをはじめてから、たった1週間後のことだったという。

 その犯行がバレなかったことから、被告はその後もポイントの付与を繰り返し、2年間で累計7回行った。
 そうして付与されたポイントは全部で、89万5000円分となった。
 おおよそ、1億8千万円分のシュークリームを購入したら得られるポイントである。

 店は時には書類の上では、1日に2810万円分のシュークリームを売ったことになっていた。本来、そんなにも売れる店ではなかった。
 被告は改ざんによってポイントを得ていたが、洋菓子店本部に提出する書類でその不正を隠すことはなかった。流れ作業で一日の売上を印刷して貼り付けるのみで、内容は把握していなかったからだ。
 本部の者も書類は保管するのみですぐに精査することはないため、被告の犯行は最初の不正から2年以上も露見しなかった。

 洋菓子店はポイントの発行額に応じた金銭をスーパーに支払っている。2019年になってから、洋菓子店は2018年10月分のスーパーへの支払いが異常に多いことに気づいた。
 既に退職済みであった被告の犯行によるものだと特定され、洋菓子店の本部は警察に被害届を出した。

 被告はこう語る。
「朝の5時30分にいきなり逮捕された。7時から仕事のある日だった。悪いことをしたのがバレたと思った。なんでこんなことをしてしまったんだろう。たくさんの人に迷惑をかけてしまった。もうこれからはこういうことはしない。ちゃんと働いて、無駄遣いしないようにしたい」

 被告は得たポイントのうち69万円分は逮捕時には既に使っていた。
 保釈後、被告は実家に帰って母と二人暮らしをするようになった。母は、当時の被告の金遣いが少し多くなったとは思っていたが、犯行には気づいていなかったという。

 洋菓子店は事件について「きちんとけじめをつけ、厳正に処分してほしい」とコメンした。また、示談金として100万円を求め、被告の叔母がその肩代わりをした。
 被告は叔母に対し、月に2万円ずつ示談金の返済を行うことを約束したという。

 現在の被告は奨学金の返済も行っている最中であるが、月に26万円ほどの給与があり、それほど窮してはいない。
「悪いことだとは思っていたが、具体的にどういう犯罪かなどはわからなかった」と被告は述べた。

 検察は、複数回に渡る悪質な犯行だとして、懲役2年を求めた。
 弁護士は、被告の若さと犯行の稚拙さから寛大な処置を求めた。

判決

 懲役1年6ヶ月、執行猶予3年
 つまりは、今後3年間なんの罪も犯さなければ服役をしなくてもよい、ということ。

 判決の日、被告は髪を黒に近い暗い色に染め直していた。
 裁判官はこう述べた。
「発見が容易で手口としては稚拙。若く、犯罪歴もなく、直ちに服役させるのは酷。社会の中で反省するように。無罪ではないとわかってください」

感想

 裁判所で見るほとんどの被告は中年男性なので、若い女性は珍しかった。電子計算機使用詐欺という罪状もこれまた珍しかった。珍しさのわりに傍聴人はあまりいなかった。
 開廷表に被告の年齢は載らないし、珍しい罪状でも詐欺事件はあまり耳目を惹かないのかもしれない。今回の裁判は聞いていてわかりやすかったが、他の詐欺事件は手段が複雑で理解しづらいものもあるので、とっつきづらい気がする。
 色んな店のポイントカードを持っているが、具体的な仕組みは知らなかったので勉強になった。店によって制度は違うのだろうが、ポイントの発行によって店側がお金を出さなければいけないというのは知らなかった。被告もわかっていなかったのだと思う。
 ポイントを詐取したところで、なにも現物のシュークリームを奪ったわけではない、物理的には損害のない、誰の身銭も切らせないものというイメージがあったのではないか。「ズルをしている」みたいな感覚はあっても、確かな罪悪感は生まれにくかっただろう。それにしても89万円分って思いきりが良すぎる。1日で2000万円以上買ったことにする度胸がすごい。文を書いていて、聞き間違えや計算間違いがないか不安になるぐらいに出てくる数字が大きい。
 89万円分のポイント、というのは何度もメモされていたので正しいように思うが、他はゼロが多すぎて不安に思う。誤りがあったら申し訳ない。これは数字に限ったことではないのだが。
 被告は「裏技を見つけちゃった」ぐらいの軽い気持ちで犯行に及んだだけだろうし、本来は学校に通いながら30万円稼げる勤勉な人なので、再犯の恐れは低そう-。
 しかし、考えてみれば月に30万円稼げるトンカツ屋って時給いくらなんだろう? 時給を高く見積もって1200円だとしたら、月に250時間働かなければいけない。1日8時間以上、休日もなく働き続けていたことになる。繁忙店だからもっと時給が高いとか、調理師免許などを持っていてその分上がっていたりするのだろうか? なんにせよ、大変な勤労学生生活であったと思われる。
 示談金や奨学金の返済は負担であろうが、やり遂げる力はあるように思う。

動画作ってました。

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