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住居侵入、準強制猥褻――朝6時半に住宅に侵入し就寝中の未成年二人の体をさわる

 被告は20代の男性。
 手錠と腰縄をかけられており、左右にいる刑務官と比べ長身である。細身だが肩幅は広く、しっかりとした体格。ウェーブがかった茶髪は首筋を覆う程度に長い。
 彼が問われている罪は、住居侵入準強制猥褻である。
 ちなみに、強制猥褻と準強制猥褻の違いは、被害者の意識の有無にある。被害者の意識が正常であれば、強制猥褻。被害者が睡眠中、泥酔中、薬物による意識朦朧状態などの場合は準強制猥褻となる。
 被告は、朝の6時半に他人の家に侵入し、まだ眠っている14歳の双子両名の体を触ったという。

事件の詳しい経緯

 被告は高校中退後、アルバイトをしながら母と二人で暮らしていた。友達の家を転々とすることもあったが、長期間家を空けたことはない。深酒をしては道端で眠り込んでしまうことが何度かあったという。
 被告には窃盗などの前歴があるが、刑罰を受けるには至らず前科はない。

 事件が起きたのは2018年12月8日の朝6時30分ごろ。
 知人との酒盛りを終えて酔っていた被告は、自分が住んでいるのと同じ集合住宅の一室に侵入した。その時、玄関は無施錠であったという。

 リビングでは一家の夫妻が朝食を取るなどしていたが、被告の侵入に気づくことはなかった。夫妻の間には中学生で14歳の、双子の息子がおり、息子たちはまだ眠っていた。双子は二段ベッドを使用し、Aさん(仮名)は上で、Bさんは下で寝ていた。
 被告は双子の寝室に侵入した。

 被害について、Aさんはこう証言する。
「二段ベッドの上で寝ていたら腰を触られた。パンツの中に手を入れられた。トントンとちんちんを叩かれた」

 また、Bさんはこう証言する。
「足の脛を撫でられた気がして起きた。顔を覗き込まれたが寝たふりをした。左足の膝や太ももを触られた。ポンポンとちんちんを叩かれた。ズボンの上から尻を撫でられた。うーんと唸ったり、寝返りを打って、寝たふりしながら抵抗した」

 およそ10分間ほど双子の体をさわった後で被告は帰っていき、退出の際にも夫妻に気づかれることはなかった。
 双子はすぐに両親に被害を訴え、犯行から数時間後の朝9時ごろに被告は警察から聴取を受けた。その時、呼気からはアルコールが検出された。
 また、双子のベッドから被告の指紋が見つかった。

 事件からおよそ2か月後の2019年2月になって、被告は逮捕された。
 被告はこう語る。
「寝てる男の人の陰茎にさわる動画を見たことがあり、影響を受けた」
 同じ集合住宅に住んでいることから、被告と双子は顔見知りではあったが、特に親しいわけではなかった。もちろん、事件までに被告が双子の家に迎えられたことなどもなかった。

 双子の母親はこう話したという。
「大事な息子にいたずらされて怒っている。あれから施錠はちゃんとしているが、襲われたら子供を守れるか心配」


 被告は双子の両親に示談を求めたが「もう関わりたくない」と拒否された。
 その代わりに、被告は2万円を贖罪寄付した。贖罪寄付とは、被害者と示談ができない場合や、被害者のいない交通事故や薬物使用を起こしてしまった際に、公益団体などに寄付して贖罪の意思を示すことである。
 また、被害者の心情を慮り被告とその母は引っ越しをすることになった。

法廷にて

 裁判には被告の母親が出廷し、被告について語った。
「優しくていい子で、嫌なことも断れない。私の話もよく聞いてくれる子。仕事がうまくいかないと聞いていた。
 お酒もあるけど、悩んでいたんだと思います。女の子になりたいという思いに悩んでいた。男の人に興味があるというのは高校生の時に知った」

 被告は病院で診断されたことがあるわけではないが、性同一性障害を抱えているという。言動は女性的で、友人にも同じような人が多く、周囲は被告を女性として扱っていた。
 被告の友人は母親に性同一性障害のことを説明し「おばちゃん、わかってあげて」と言ったという。
 母親が話す間、被告は泣いていた。

 弁護士や検事の質問に、被告はボソボソと聞き取りづらく答えていた。
犯行当時のことは酔っていてあまり覚えておらず、友人と酒を飲んだ後で気づいたら自宅にいたという。
「好きな対象は男性ですか」と問われ「はい」とだけ返した。
「同年代ではなく未成年が特に好きなのか」という問いは否定した。

 裁判官は被告にこう述べた。
「思春期にこういう被害を受けることがどういうことか、しっかり考えてほしい」

 検察官はこう述べた。
「被告は猥褻性が高い行為を執拗に行った。被害者は、叫んだら何をされるかわからないと強い恐怖を感じていた。また、被告には前歴もある。求刑2年6か月」

 弁護士は執行猶予を求めた。

判決

 懲役2年6か月、執行猶予4年。
 就寝中で抗拒不能の未成年に猥褻行為をしたことは重く見られ、情操に悪影響がないか危惧された。一方で被告は既に50日以上も勾留されており、贖罪寄付をしたことや被害者の家から離れるため転居したことなどが考慮された。
 また、被告には保護観察がつくことになった。転居したとはいえ、新居は元の集合住宅からそれほど遠い場所ではないからだ。
 性犯罪は常習性が高いこともあり、しばらくは定期的に保護観察官から指示を受けるようになる。

感想

 被告を最初に見た時、「チャラそう」だと思った。その理由はゆるくウェーブがかった長い茶髪にあった。しかし被告が性同一性障害だと知ると、あの髪型は女性がよくするお洒落なヘアスタイルなだけなのかとも思えた。
 考えてみれば、茶髪のロングなんて女性ならありふれたものなのに、男性がしていればチャラそうに見える、普通の会社員ではないように見える、というのはずいぶんな差である。文明開化の時代には、断髪した若者が保守派から批判を受けたというが、今ではショートヘアは男女ともにごく当たり前のスタイルとして定着した。今後更に開化していけば、男性の髪型のバリエーションも増えるだろうか。
 開廷表には被告の名前と罪状などの、ごく基本的な情報しか書かれていない。被害者の年齢性別などの属性は一切書かれていない。そのため私は、当初被害者は女性なのだろうなと思っていた。
 被告は長身で、すらりと細身ながら肩幅は広く、声はボソボソとしているが低めでかっこよく、端的に言えば「女受けが良さそうな男」に見えた。
 モテないが故に女性を襲うというタイプではなさそうで、「普通に彼女つくればいいのにな、それともいるけどやっちゃったのかな」と思っていた。
「被害者の陰茎に触れ…」という言葉が出てはじめて被害者は男性なのだと わかった。
 ちなみに、そうわかった途端に、傍聴人のうち3人ぐらいが次々と席を立っていったことが印象に残っている。女性の猥褻にまつわる話を聞きたかったという、そういう人たちだったのかもしれない。
 被害者が少年だとわかった後は「ゲイなのかな、女性と間違えただけなのかな、成人男性は無理でも少年には関心があるというタイプなのかな」と私は想像を巡らせた。そして、ただ同性が好きだというだけならゲイの風俗店なり出会いの場なりに行けばいいのに、あの容姿はゲイにも受けるタイプなんじゃないかな、と思った。
 その後で性同一性障害があるとわかり、「女受けしそう」「ゲイにも受けるんじゃ」と思えた容姿が、女性としての意識を持つ被告にとっては長所ではなく苦しみになっていたのかもしれないと、それまでの思考が一気に逆転するような感覚があった。
 被告は虚脱したように無表情に前を見続けていたが、母親の発言時には涙をぬぐっていた。
 無断侵入して猥褻行為というのはどんな事情があっても悪であるし、被害少年らの証言文は聞いていてかなりのホラーだった。目を覚ますと自分の顔を見知らぬ者が覗き込んでるって怖い。
 被告は少年らを可愛いななどと思って前から好んでいたのだろうか? たまたま開けられちゃった部屋にいたからなんとなく犯行に及んだだけで、別の部屋が空いたらそこの住人を襲ってしまったのだろうか?
 判決の際には、被告の母親の隣で、被告の友人らしき女性が泣いていた。
被告は難しい問題を抱えてはいるが、家族や友人の理解はあるようだし、再犯せずに平和に生きてほしい。

動画を作っていました。

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