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【春秋一話】12月 不祥事の陰にある同調圧力

2021年12月20日第7123・7124合併号

 11月初旬、新聞に掲載されていた死亡記事に目が留まった。社会人類学者で、東京大名誉教授の中根千枝さんが10月に94歳で亡くなったとの記事だった。
 中根千枝さんは1967(昭和42)年に「タテ社会の人間関係」を著し、序列偏重の日本社会を考察した。その著書は半世紀以上にわたり読み継がれ100万部を超えるベストセラーとなっている。
 この著書の中で、日本社会では「場」、つまり会社や学校という枠が重大な役割を果たし、その中では「タテ」の関係が発達して序列偏重組織を形成し、大きな影響を及ぼすという日本独特の特徴を説いている。
 中根千枝さんは、その後もこの日本の特徴に関する著書を出版し続けていたが、最近では亡くなる2年前の2019年に出版した「タテ社会と現代日本」がある。
 その中では、現代社会を捉えて「日本型経営がかたちを変えつつあり、年功序列のような制度が薄らいだとしても、タテのシステムは残るところには残る」として、昭和40年代に論じたことが現代でもそのまま当てはまって残っていることを説いていた。
 最近はこのような日本の特徴が「同調圧力」という言葉で注目されており、コロナ禍を契機に関連する書籍が多数出版されている。
 同志社大学政策学部教授で組織論の専門家である太田肇氏が最近出版した「同調圧力の正体」という著書もその一つである。
 この著書で同氏は社会の中の集団を「基礎集団」と「目的集団」の2つに分類し、「基礎集団」は、家族やムラなどの自然発生的な「共同体」、「目的集団」は企業や学校、政党、競技団体などの具体的な目的を達成するための「組織」と解説している。
 そのうえで、日本では典型的な組織である企業や学校などが共同体のような性質を併せ持ち、いわば組織が共同体化してしまっているとして、その要因を3点挙げている。
 一つには「閉鎖性」、二つには「同質性」、そして最後に「個人の未分化」を挙げている。「個人の未分化」とは、個人が組織や集団の中に溶け込んでしまっていることを指し、そのことにより一層同調圧力を受けやすくなるという。つまり日本では「閉鎖的」「同質的」な組織や集団は共同体になりやすく、個人が未分化だと同調圧力に対して無防備となってしまう。
 太田氏は、平成時代の後半から特に目立って起こった企業や役所などの組織的な不正、職場や各種団体で発生したいじめ、パワハラ、セクハラなども同調圧力をもたらす3つの要因のもとで起きているという。
 例えば、東芝 の 不適切 な 会計 処理 をめぐって は、経営 陣 が あまりに も 高い 収益 目標 を 設定 し、現場に強く迫ったことが長年にわたる不適正な会計処理を引き起こしたと言われているが、組織の中での同調圧力が未分化されていない個人の思考停止を招き、不祥事につながった。
 そして不祥事が明るみに出ると「管理徹底」や「綱紀粛正」を唱え、周囲もそれを受け入れる。その結果、当面は不祥事を防ぐことができても問題意識や責任感は醸成されず、管理強化に無批判に追随することにより、新たな不祥事を発生させることにつながる。
 東芝に限らず様々な企業や組織で不祥事が発生し、監督責任の名のもとに管理監督者が責任を問われ組織の中で役職から排斥されることがあるが、そのことが真の病根を摘んでいるとは言えない。企業として行うべきことはこの同調圧力の要因を理解し、そのうえで組織の中に未分化されない個人を活かす経営を行う努力を続けていくべきではないか。
 失われた30年と言われている現代日本、浮上のカギはこのようなところにもあるのではないだろうか。
(多摩の翡翠)

カワセミのコピー


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