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日本語→英語翻訳の際に、急に目線が下がった話:翻訳のbackstage

 ミヲリさんが、「影を追いかける」という表現について、記事にしてくれました。この時は「英語にしようとしたら、なぜ車と影に着目したのか」が、「高度が理由ではないみたいだから、根拠がなくなってしまった」ため、直感で決めたことしか伝えられていませんでした。
 ずっと気になって情報を探していたところ、「日本語(中国語)と英語の視点の違い」について論文で明確に説明されていることが分かり、とても興味深かったので、皆さんにもシェアさせてください。

 「見て、車が気球を追いかけてる。」のセリフを読んだ時、私もカドゥ達と一緒に、気球の上から車を見下ろしていました。でも、英語でセリフをつけようとした瞬間、目線が急に下がって、気球と車の高度の差が気になったのです。

図で示すと、こういうイメージです。
(車の向き、逆でした。)

 最初は、英語のchaseという言葉に、日本語の「追いかける」にはない「高度の差」を感じているのかと思って、ショーン先生に「chaseという英単語を使うと、空にいる気球と地面を走る車の高度の差を感じるか?」と質問しました。英語のネイティブスピーカーの感覚として、高度は関係ない(地面を走る車が空中の気球を追いかける場合にchaseは使える)ということでした。

 この感覚の違いを文章で説明することができないか、色々と探っていたら、日中英における視点の違いに関する論文を見つけました。「雪国」の「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。」を引用しながら、日中英の視点の説明をしています。

李 国棟, 『雪国』の日英中対象研究ー第一段落を中心としてー
 ,広島大学大学院文学研究科論集第65巻, 2015

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/24882/files/41199

 「トンネルを抜けると雪国だった。」という一文を、日本語、中国語話者は主人公と同じ視点で見るそうです。

 日本語、中国語話者:
「自分が汽車に乗っていてトンネルを抜けた。あぁ、雪国がひろがっている。」

 対して、英語話者は俯瞰した視点から見ているそうです。

 英語話者:
俯瞰した視点で(汽車の外側から)トンネルを抜けて雪景色の中を走る汽車を眺めている。

 これで、セリフを英語にしようとした時に、カドゥ達と一緒に空中にいた私の目線が急に下がったのは、英語では俯瞰する視点に変わったからだということが分かりました。翻訳する際は、完全に英語脳(英語的思考)で翻訳ができているからこそ、見える景色が変わったことが理解できました。大変興味深い気づきでした。

イラスト 成冨ミヲリさん 「気球を追いかけて」より抜粋

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