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【実録】泣く男 ~あとがきより

実録泣く男表紙

この本は、2008年10月バジリコ社から「女の前で号泣する男たち」という長〜いタイトルで刊行された書の復刻版である。個人的には「泣く男」とずっと呼んでいたので、この機会に改題した。
重版することもなかったので、契約を解除してもらい、晴れて私の自由にできる著作物となった。
今は電子書籍であれば、出版社を通さずとも自ら売ることができる。自分で書いた本は、自分のレーベルから出す。楽曲でも映像でも書籍でも、そういう時代なのだ。

もともとは、バジリコ社さんに拾っていただいた本だった。実は別の出版社から刊行することが決まっていたのだが、突如出版中止となった。
打ち合わせを重ね、すべて書き終え、ゲラもあがり、書店に並ぶためのコードまで取得したのに……。その時こそ泣きたい気持ちだった(泣かなかったが)。
本文にあるとおり、文中のデータは、私が身銭を切って調査したもの。このまま露と消えてしまうことなど到底許されない。せめて投下資金は回収したい。そんな経緯があり、あらゆる伝手をたどり、ようやく刊行にこぎつけたのだった。
当の出版社は、実はその後倒産した。なんらかの大人の事情があっての出版中止だったのだろうな、と今は達観した気持ちでいる。

売れ行きは全くもって寂しいかぎりであったのだが、内容の衝撃度は意外と高かったのか、マスコミの一角を賑わせることとなった。

2009年9月には、産経新聞関西版文化面に文章を書いた。全国版ではなかったところが悔しかった。掲載紙は入手のしようがないので、わざわざ送ってもらった。新聞の紙面に顔写真入りで掲載されることは嬉しいものである。
2011年1月には、関西テレビ制作でフジテレビ系全国ネットで1回だけ放送された「日本人が知りたい数字の謎!ヒミツの数字くん!!」という番組で取り上げられた。
前年末に、「収録しちゃったので許可をくれ」というテレビ業界ならではの強引な要望があったのだが、「勝手に使ったことは許すので、企画書を確認させてください」とオトナの対応をした。その後、その企画書は大学の授業などで使い倒している。テレビ番組の企画書など見たことのない学生には、大変ウケがよろしいのだ。

同年11月には、J-WAVE『RADIPEIDA(ラジペディア)』という番組に電話取材で登場した。自分の声がラジオから聴こえてくるのは、とても気恥ずかしい想いがしたものだった。
2012年5月には、二股交際が発覚し、芸能記者の前で号泣した男性俳優の騒動を受けて、フジテレビ「とくダネ!」に、私自身が登場してコメントした。5月の大型連休中、閑散とした社内で1時間かけて収録したが、オンエアに使われたのはわずかに1分程度。よくある話であるが、それでも当時何人もの方から「出てましたね! テレビ!」と声をかけられた。テレビの威力をまざまざと思い知らされた。

それから少したった2014年10月には、光文社「FLASH」の特集内にコメントをした。特集のタイトルは、ここに記すには憚られるものであるため控える。
そして2015年6月には、小学館「女性セブン」の特集記事に登場した。当時私が住んでいた地方都市まで、記者さんにわざわざ来ていただき、ホテルのラウンジで打ち合わせをしたことを覚えている。

泣く男マスコミ露出

かように出版してすぐに火がついたということは全くなかったのだが、実に7年もの長きにわたり、世の隅っこでこっそりと話題になっていた。そんな書なのである。

ところで、出版から10年以上たち、「泣く男」の事情は変わったのだろうか?

刊行直後には東日本大震災があった。つらい体験ではあったが、人と人との絆の重要性を再認識させられたともいえる。ところが、新型コロナウイルスの影響で、友人との絆も途切れそうな気配だ。つまり、男女の関係も必然的に希薄化している。これでは男が泣くシチュエーションなど増えようはずがない。
A・H・マズローの欲求5段階説にしたがえば、「所属と愛の欲求」(Belonging Needs)が満たされたうえで、その上位である「承認の欲求」(Esteem Needs)が彼女との関係において満たされないから、(彼女に承認されたいがために)男が泣くという行為に出るとも捉えられる。

しかし、今は「安全の欲求」(Safety Needs)すら満たされていないのだから、泣ける状況もなかなか起こり得ない。「泣く男」の事情は、大きくは変わっていないと考えるのが妥当だと思う。

あとがきにマズロー

では、「泣く男」はアフターコロナに復活するのだろうか。
コロナ禍もようやく落ち着いてきたようにみえるが、いつまた新たな波がくるとも限らない。そして、コロナではない新たなウイルスが拡がることも考えられる。ただ、未知のウイルスにも何らかの対処法があることを、今回世界中の人々が今回学んだ。人類はウイルスとの戦争を乗り越え、平和を取り戻したという見方はできる。ならば「泣く男」も復活する。そう考えることもできる。

ただ、日本の合計特殊出生率は2020年には1.34だった。2005年の1.26を底とし、わずかでも回復基調にあったのだが、2016年から再び減少傾向へと転じた。男女関係が再び薄まりつつあったところにコロナである。まったくもって恨めしいウイルスである。

合計特殊出生率とは1人の女性が15歳から49歳までに生む子供の数の平均である。日本の過去最高値はどれくらいであったかご存知だろうか。
人口動態統計が国の指定統計になった最初の年、1947年(昭和22年)は実に4.54だった。いわゆるベビーブームである。焦土と化した日本に平和が訪れ、戦地から戻った男と、待ちわびていたであろう女の感情がどのようであったのか想像に難くない。

あとがきに合計特殊出生率

SNSやらICTやら、なにかと便利になった日本人は、もっと単純に行動すべきなのではないだろうか。男女が本能のおもむくままに恋愛ができるということは、それだけ平和ということなのだ。そのうえで、さまざまな要因により歪められてきた規範意識、役割意識にとらわれることなく自由にふるまえる状況とは、いかに貴重なことか、改めて噛みしめたいものである。

そう、やはり「泣く男」は平和の象徴なのだ。

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