血を流す美談は存在しない

ドラフト会議ほど派手な就活は無いと思う。


この夏、ワイドショーを席巻した金足農業・吉田輝星投手も、無事に北海道日本ハムファイターズへの就職を決める運びになりそうだ。


もちろん職種は「野球選手」。

甲子園での連投で懸念された選手生命の話も、いまはちょっと黙っておこうというのが世間の反応。


私は以前、そんな”ブラック甲子園”の話題を書いた。

破滅の物語が大好物なのは国民性。興業である以上は、刺激物としての『受難』が一定は必要であると。

タイブレーク制導入を受けて、一方的に傾く議論に一石を投じてみた記事だ。



しかし先日見られた『受難』は、少し度を越していたと思う。


全日本実業団対抗女子駅伝の予選会での出来事だ。


走行中に骨折した飯田怜選手が、言うことを聞かなくなった足をつき、膝で這いながらたすきを繋いだ様子が賛否両論を呼んでいる。


コンクリートを300メートルほど這いつくばった膝は血まみれになっていた。


大会から数日が経ち検証が行われている段階だが、報道によれば這ってまで続行したのは本人の意思だという。


賛否両論と書いたが、先述の通り私の立場ははっきりと否定の立場だ。


『高校球児の酷使問題』において、世間の目線は高校野球もとい高校生の部活動の在り方に疑問を呈する形であったが、今回はそうではない。


たすきを繋ぐ団体競技としての一個人の心持ちに問題があるのだ。


<チーム全体に迷惑がかかる>という負の感情。

それは日常の様々な場所に潜んでいることを、多少の人生経験がある方ならば理解できるはず。


そもそも高校野球は選手交代があるが、駅伝にランナーの途中交代というルールは無い。


だからこの『受難』が、行き過ぎたように見えたのは当然のことだと思う。
そして世間が強く糾弾している事実に、少し安心したのは言うまでもない。



吉田投手も飯田選手も、共にまだ10代の将来あるアスリートだ。

新たなステージに向かおうとする吉田投手も、甲子園で何らかの形をもって故障していたら世間の反応もまた違ったかもしれない。


当然のことだが、<体を壊しては元も子もない>という教訓で締めくくりたい。


美しい物語に収めたければ、血を流してはいけないのである。

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