宿命屋 龍之介

「さて 行くか…」

龍之介が向かうのは 宿命の相手のもと。

きらびやかな街から外れた 古い廃屋に 身を潜め 来るべき時を待っていた。

そして 今宵 その日を迎えた。

「玉三郎よ ついに参ったな この時が。」

「龍之介よ この勝負 どちらが 最後に立っているのだろうな。」

焦燥と高揚が入り雑じる感情を 圧し殺すように 両者は 向き合った。

静かな水面は そこに 何も無いかのように凪いでいる。

ゆっくりと柄に手を伸ばした 玉三郎から 殺気が徐々に充満していく。

張り詰めた空気が 河原を凍てつかせ 全身を駆け巡る。

呼吸を整えようとする度に 鼓動は 刃に伝播していく。

玉三郎と見つめあった龍之介の重い口が 開かれようとしていた。

数秒が 永遠のように 永く感じる。

吹き出した風が 両者の刃を煽る。

「いざ…!」

先手を打ったのは 龍之介であった。

抜かれると同時に 研ぎ澄まされた一閃が 玉三郎の体を左大腿から右腕を目掛けて 放たれる。

そして それを読んでいたかのように 一歩 後退して避ける玉三郎。

「一筋縄ではいかぬか…」

「これは死闘ぞ!」

玉三郎の狙い澄ました 3連撃が 龍之介の顔面を捉えようとしていた。

避け切れなかった 3連撃目が 龍之介の左腕を掠めた。

「以前に増して 速くなったな 玉三郎。」

「この街じゃあ 俺に敵うやつはいない。」

しかし その慢心は 直ぐに 玉三郎を後悔させることになった。

「な…に…!」

突然 玉三郎が倒れる。

いや 倒れるしかなかったのだ。

「龍之介 貴様さては わざと打たせて 下を空けさせたのか…?!」

そう 龍之介は 先程の3連撃の途中に 玉三郎の足の筋を切り裂いていたのだ。

自力で立っていられなくなった 玉三郎は 地を這うことしか出来なくなった。

「止めどなく溢れる殺気は 己を過信させる。」

龍之介は 玉三郎に その刃を静かに構えた。

「これで また1つ 拙者の呪われた宿命が 終焉する。」

「完敗だ 龍之介。」

構えた刃は 寸分狂わず 玉三郎の心臓を貫いた。

「さらばだ 玉三郎。」

負けたはずの玉三郎の顔は どこか涼しげで 清々しかった。

人の命を 自らの太刀筋で 立ち切る。

それが どういう事なのかを 龍之介は 知ることになる。

しばらく 脈を失った その姿を 両眼に焼き付ける。

「また 会おう。」

二人の決別を 彩るように 睡蓮が揺れていた。

To be continued…

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