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2018 J3第13節 AC長野パルセイロvsガイナーレ鳥取【高まる期待感】

はじめに

2-0で勝利した秋田戦のわずか2日後、ガイナーレ鳥取は森岡隆三監督を解任し、新たに須藤大輔新監督を迎え入れることを発表した。塚野社長によれば、前記事でも触れた崩壊した守備の改善が進まなかったことから苦渋の決断をなされたという。一方で、森岡前監督の魅力的な人間性に退任を惜しむ声が多いことも事実で、J1クラブのコーチ要請を断ってでも鳥取を選んで指導していただいたことに感謝しきれません。須藤監督には、森岡前監督の意志を継承しつつ、守備の立て直しとチームに新しい風を吹きこんでくれることを期待しています。

両チームのフォーメーション

ホームのAC長野パルセイロは4-4-2を採用。今季ここまで連敗は無いものの、波に乗れず苦しい戦いを強いられている。しかし、メンバーには古巣相手の河合、鳥取戦を得意とする三上、またサブメンバーには勝又という鳥取サポーターにはトラウマであろう怖い存在も控えている。相性の良さを生かし、息を吹き返したいところ。

一方、須藤大輔監督のリーグ戦初采配となるガイナーレ鳥取は、前節の秋田戦と天皇杯の広島戦で手ごたえを感じた3-4-2-1(3-4-3)を継続して採用。しかしながら、南長野は勝利したことが一度もない相性最悪なスタジアム。今年こそは歴史を塗り替え、上位争いを何としてでも演じたい。

攻撃の形

攻撃3-4-2-1(3-4-3) vs 守備4-4-2の崩しは中央のCBがボールを左右に振り、空いた2トップ両脇を左右のCBがドリブルで侵入するところから始まる。この辺りの基本に関しては羊さんのまとめ記事がわかりやすいので、以下のリンク先をご覧ください。

これを踏まえた攻撃の形が今節でも何度か見られた。

わかりやすいのは24分。左CB井上黎の持ち上がりから左サイドを攻略した場面は、まさにこの基本形が表れたプレーである。

長野の隙

基本の崩しは前項で紹介した通りだが、今節の鳥取はもう一つの崩しの形を用意していたことが読み取れる。

長野の守備には、攻撃側のSBまたはWBにボールが渡った際、SHの寄せとFWのポジショニングの甘さから相手ボランチへのパスコースを空けてしまう、またFWのプレスバックが遅れその後の展開を自由にさせてしまう傾向がある。そこで鳥取は、右WBの小林を経由しボランチの可児が中央で受ける形を度々狙っていた。代表的なのは6分と33分の崩し。

まずは6分、鳥取の攻撃。右CB内山から右WB小林へ配球するところから始まる。この時、長野のFW三上がボランチ可児へのパスコースを遮断し切れなかったため、小林は空いたコースを用いて中央の可児へボールを渡す。

フリーな状態で受けた可児は長野の最終ラインで構えているレオナルドへ配球。その後バイタルエリアでレオナルド→フェルナンジーニョ→可児と繋ぎ、長野の守備陣を中央に圧縮させる。これにより空いたPA左サイドのスペースへ左WBの奥田を走らせ、決定機を創り出した。


続いて33分、鳥取の攻撃。長野の左SH河合が内山との距離を空けてしまったため自由にしてしまい、6分と同様な形で右サイドから甲斐→内山→可児へと簡単にボールが繋がる。この瞬間、フェルナンジーニョと加藤が右寄りでボールを要求する動きを見せて長野の選手を釣り、ポストプレーが得意なFWレオナルドへのパスコースを意図的に作り出す。可児はそのパスコースを使い、最終ラインへ陣取るレオナルドへボールを預ける。最後はレオナルドのフリックとフェルナンジーニョの技ありターンから先制点が生まれた。

長野の守備には前節の琉球戦でも同様の現象が起きていた。鳥取の須藤監督がこの弱点を見抜き、崩しの形を事前に仕込んでいたことはプレーの再現性からも明らかである。

再構築された守備

試合の序盤では前線からの連動したプレスを敢行。相手が追い込まれていると判断すればすかさず前線から連動したプレスをかけ、後方の選手はインターセプトを狙いつつDFラインを押し上げる。

39分、プレッシングからのショートカウンターで相手ゴールに迫った場面は理想形の一つであった。

もしプレスを交わされれば即各自のポジションに戻り守備陣形を整える(撤退守備への移行)。ボールをサイドに誘導できた場合は、WBがボール保持者の相手SHに対して高強度のプレッシング。2枚のボランチはスライドしてWBのカバーリングに入る。残ったDFラインの4人は同サイドにスライドし、4バックの形をとる(5-2から4-3の陣形へ)。

この時、高強度なプレッシングと危険なエリアへのパスコースの遮断を同時に実行することで相手の選択肢を狭め、一発で逆サイドのスペースへ展開されることも防いでいる。

前節の秋田戦では前線からのプレスが後方の選手と連動できず、簡単に剥がされる場面が見られた。その不安材料が今節では上記で述べたように修正され、相手にスペースを与えなかった。これにより高い位置でボールを奪う機会が増え、リードしていた鳥取が引いて守りに入る終盤の時間帯まで長野の攻め手を奪うことに成功。試合終盤には両シャドー(WG)をMFラインまで下げて5-4-1の守備的なブロックを敷き、長野の猛攻を凌ぎきった。

まとめ

須藤監督はJリーグクラブの指揮は初で、未知数なところが多く不安が少なからずあった。しかし、蓋を開けてみれば、まだ細かなミスは見られるものの攻守両面において戦術を落とし込まれていることが垣間見れた。今は様子見の段階ではあるが、約1週間という短期間でここまで立て直したのは良い意味での想定外で、次への期待感が増す結果となった。

次節の対戦相手は有力な若手が出そろうG大阪U-23。この強豪相手にどこまで通用するのか、須藤監督の手腕の真価が問われることになるであろう一戦に引き続き注目していきたい。