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2018 J3第24節 ガイナーレ鳥取vsFC東京U-23【複数の選択肢】

はじめに

昇格圏への浮上を考えれば、残り全試合で勝利しか許されないガイナーレ鳥取。対してトップチームへの昇格、再昇格を目指す若手とベテランの融合が鍵となるFC東京U-23。両者が対戦した試合を解説する。

両チームのメンバーとフォーメーションは以下の通り。

鳥取のフォーメーション

F東23のフォーメーション

F東23の意図

F東23は鳥取対策が候を奏したのだろうか。ボールを保持しながら展開する機会は少なかったものの、攻撃時は平岡、内田の両SHがハーフスペースに絞り、[4-4-2]から[4-2-2-2]への可変システムを採用。そして両SHが絞ることで空いたスペースにはバングーナガンデ、柳の両SBが駆け上がり、大外やハーフスペースでの崩し、個の力(質的優位)による突破を図る。

これに対し鳥取の守備は、基本の[3-4-2-1]から2シャドーの加藤、フェルを1列下げて[5-4-1]へ変化させる可変システムを採用している。しかしながら、特に不用意なミスからボールを失いネガトラの場面を強いられる場面では鳥取の弱点が露呈し、F東23の意図する戦い方が牙をむく。

不用意にボールを失うと前線へ上がっている加藤、フェルは守備への対応が遅れ、瞬間的に[5-2-3]の形になる。そのため、可児、星野の2ボランチの両脇が空き、このスペースを利用される。下図は極端な形ではあるものの、例に挙げる9:15の局面では連携ミスからボールを失った直後、下図に示す形で可児の脇のスペースを利用され、約30mの前進を簡単に許した。

以上の現象と最初に説明したF東23の戦い方は論理的にもマッチングしており、F東23が序盤から明確な攻撃の意図を持っていたことが伺えた。鳥取にとっては毎節狙われる弱点でもあるため、2ボラ脇スペースの管理方法を今一度整理しておきたい。

SHが絞り、2ボラ脇のスペースを利用

鳥取の攻撃

対する鳥取も攻撃の狙いは明確だった。序盤からF東23右SB柳の背後のスペースを徹底的に突く。その話をする前に、まずは前提条件を確認しておこう。

鳥取は基本フォーメーション[3-4-2-1]に対して魚里、小林の両WBを1列上げた[3-2-5]でビルドアップを開始する(図1)。相手が[4-4-2]で守る場合、相手2トップに対して3バックで数的優位を確保しながら左右に揺さぶる。これにより空いた2トップ脇のスペースを利用し、ボールをハーフスペースの入口へ前進させる。このとき、前線の各選手は相手SB、SH、CB、CHに対して中間ポジションを取ることで、この選手を誰が見るのかというプレーの選択肢(迷い)を相手に与える。ボール保持者は相手が選択したプレーにより新たに空いた別の味方選手を利用する。これを繰り返し実行し、理詰めでゴールへ迫る。

以上を踏まえると、F東23からすれば、鳥取の強力な攻撃陣に対して自陣で待っているのみだとゴールを奪われるのは時間の問題であり、対応が求められる。

図1 鳥取攻撃時の基本フォーメーション

そこでF東23は右SH内田を1列上げ、相手最終ラインと数的同数を確保することでビルドアップを封じようという策に出た(図2)。鳥取は最終ラインの3人の中でも井上黎生人が持ち上がり、攻撃の起点となることが多い。そのため、F東23から見た左サイドへ寄せられた時点で、逆サイドに位置する井上黎がボールを持ち上がるスペースを消しておくことが一つの狙いだったのであろう。

しかし、鳥取は対抗策を準備していた。7:20からの場面、右SH内田が井上黎へのパスを警戒し1列前のポジションを取る。その際、内田が空けた背後のスペースには加藤が柳を引き連れて侵入。すると、大外に位置していた魚里を見るF東23の選手が不在となり、フリーでボールを受けられる状況となった。この機会を見逃さず甲斐の鋭いロングフィードを利用して柳の背後にポジションを取った魚里へ。魚里はハーフスペースを駆け上がる加藤にパスを出しPA内に侵入、最後はCKを得た。

F東23は飛び道具という武器を持つ甲斐に対して完全にフリーな状態でロングフィードを許したのは研究不足なのか、判断ミスなのか。加えて後方でのスライド、マークの受け渡しなどが整理しきれていないなど未完成な部分が見られ、鳥取はこの相手の弱点を上手く突いた印象を受けた。

図2 F東23の対応と逆手にとった鳥取の攻撃

鳥取は別の方法で柳の背後を狙う形も準備していた(図3)。ライン間で受けたフェルが大外の魚里へ。魚里は中央レーンから移動してきた後方の可児へパスを送る。ボールウォッチャーと化した柳がマークしていたフェルへのパスを警戒するため前へ踏み込んだ瞬間、フェルが背後へ全力疾走。可児からのパスが渡り、直後にスローインを得た。

図3 相手SB柳の背後を狙うパス

次は相手のスローインの場面(図4、図5)。カバーシャドウを実行しながらのプレスで相手を狭い局面へ誘導し、苦し紛れのパスを可児がインターセプト。直後に可児とフェルのパスコースに立っていた加藤が中央寄りにレーン移動。加藤をマークしていた選手は釣られて引っ張られ、コースが空いたところで可児からフェルへボールが渡った。

このように、鳥取は柳の背後のスペースを徹底的に突いた。狙いとしては、柳に背後を警戒させるポジションを取らせ、F東23の攻撃時に前方へのポジショニングを遅らせること。一対一に強い魚里と勝負させることで意識をさらに後方へ移し、その対応で体力を消耗させて攻撃の体力を削ぐことなどが容易に思い浮かぶ。

図4 狭い局面へ誘導、可児がインターセプト

図5 加藤が中央へ移動、空いたパスコースからSBの背後へ

アイソレーション

鳥取は柳の背後のスペースを狙うことの他に、もう一つ攻撃の形を見せる。それはアイソレーション(isolation)と呼ばれる戦い方である。

アイソレーションとは、直訳すると「分離、隔離、孤立」などの意味で、バスケットボールの経験者は直ぐにピンと来るのではないだろうか。この戦い方は、一対一に強く個人の力で突破できる質的優位性をもつ選手がチームにいる場合に効果を発揮する。通常のフォーメーションでは、質的優位性をもつ選手が仕掛けられるスペースは限られる。そこで、残りの味方選手が片方のサイドに寄り、もう一方のサイドには個で突破できる選手を配置。これにより一対一を仕掛け突破しやすいスペース、局面を意図的に作り出す方法である(図6)。

図6 アイソレーションの図解

ポイントとしては、まずは味方選手が片方のサイドへ寄ることで得た数的優位の局面から同サイドでの突破を図る。ここで突破できれば良いが、ブロックされて詰まる場合が多い。そこで逆サイドに配置した選手へ一気に展開し、広大なスペースを利用して個人での突破、決定機を演出する。現所属の選手では魚里、近年在籍した選手の中では馬渡(鳥取→金沢→徳島→広島)が質的優位性をもつ選手の代表格でイメージしやすい。

それでは、実際の試合の中から例を挙げていく。まずは26:15の場面(図7)。井上黎が大外レーンに移動し、甲斐からのパスを受ける。直後にハーフスペースに位置する星野へ。星野から逆サイドへ位置する小林へロングフィードが通り一対一の場面を作った。ただし、パスを受ける際に小林が大外レーンに開いていなかったため、F東23の選手は直ぐにスライド対応可能な位置関係を取れており、また小林は背中から来るボールをトラップする形となったため、前を向いた状態で仕掛ける形までは行かなかった。

図7 一度左サイドに寄り、逆サイドの小林へ

続いて得点に繋がった54:15からの場面(図8、図9)。大外レーンでボールを保持する小林の後方へ右CBの西山がレーン移動し、ボールを受ける。直後にF東23左SBの背中を取った加藤へ配球。守備網に引っ掛かるも、こぼれ球を再び確保。ここまでは同サイドでの数的優位を生かす攻撃の段階である。

次に可児、小林、井上黎を経由して左サイドの魚里へボールを一気に展開。ボールを受けた魚里は直ぐに縦への突破を図る。一度阻まれるも素晴らしいネガトラの意識から井上黎がボールを回収。最後は空いたハーフスペースからPA内へ侵入し、勝利を決定付ける3点目を奪った。

図8 まずは同サイドでの突破を試みる

図9 詰まったら逆サイドへ展開し、一対一

雑感

早くもまとめ。後半に2失点を喫するも、十八番のロングカウンターで4点目を取り、合計4-2での勝利。攻撃に関しては意図的な戦い方の選択肢が複数用意されており、終始ゴール前まで理詰めで迫力ある攻撃を展開。一方で守備に関してはあまり触れていないが、最初に触れたボランチ脇に加えて全体的なネガトラの意識の薄さ、ポジショニング、マークの受け渡しなど、基礎的な守備の構築が後手となっている印象を受けた。須藤監督によると今季に関しては妥協していると受け取れる発言もされていたが、安定した守備が基礎にないのは今後の不安材料である。