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一番大切なもの

人生で一番大切なものはなにか。
これまで何度も聞かれたし、今でもたまに聞かれる。
自分の命、家族、恋人、お金、大切な思い出。
おそらく、そういった身近でかけがえのないものを答えるのが正解なのだろう。
そして、それらが大切なのは間違いない。

しかし一番と問われたとき、私は「想像力」であると答える。
想像力。
それはつまり、今日自分がなにごともなく平和に暮らしているときに、どこかで戦禍によって苦しみ、涙を流している人がいることを自覚しておく、ということだ。

仕事や日々の生活に追われていると、職場や家庭のこと、自分の興味関心の範疇でしかものごとを考えなくなってしまう。
それは、ごく自然なことだ。貴重な脳のリソースをさいて、今ここではないことを考えるのは、生存戦略上、きわめて非効率と言わざるをえない。
現に、人間以外の生物は、自分のテリトリー以外のことは考えない。

しかし、本当に自分の身の周りのことだけが良ければいいのか、とも思うのだ。
現代において、世界のどこともつながっていない人など存在しない。食料や衣服、その他どれをとっても、自分以外の人がかかわり生み出したモノやサービスを利用している。
私たちの生活は、一生会うことのない、どこかの誰かによって成り立っている。

地球の端から端まで、北極から南極まで、ありとあらゆる場所に生きる人間のことをすべて把握することはできない。
だから、想像力が必要になる。
今は、スマホやSNSを使えば、なんでも分かるかもしれない。しかしその情報だって、この地球で起きていることのほんの一握りにすぎない。
メディアにとって儲けにならない情報は、決してニュースになることはないからだ。

その点、想像力には際限がない。
グローバルに展開する大企業の経営者にも、太平洋にたった一人で浮かぶ漁師にもなることができる。
明日結婚に臨む新婦にもなれるし、事故で親を失った子どもにもなることができる。

では、想像力はどうやったら鍛えられるのか。
自分という存在をできるだけ消し、小説やドラマの中に没頭することである。
自分とはまったく異なる境遇の人になりきってみる。
旅に出て、そこで暮らす人と話してみるのもいい。なにを食べ、誰と過ごし、どんな仕事をしているのか。
知ることが、想像力を豊かにしてくれる。

そして、想像力は自分自身を豊かにしてくれる。
ある人を想像し、連絡をとろうとスマホを開く。ものの数十秒で、その人とつながることができる。
だけど、本当に面白いのは、その人を想い、今なにをしているだろうか、なにを考えているだろうかと想像することだ。
つながれない、会うことができないことが、逆説的に心を動かしてくれる。

想像力は、非効率だ。確実ではないし、根拠もない。お金にもならない。役にも立たない。
自分のことは横において、利害関係のない誰かを想うことだ。
だけど、そういったはかなくもろいことが、感動をもたらしてくれる。私はそう信じている。


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