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創薬イノベーション:表層から根本への深化と異分野融合

新薬開発におけるイノベーションの動向を簡単にまとめました。

1、「10万分の1」という難しさ

新薬開発は成功確率が非常に低く、難しいものです。
食品業界では「1,000に3つ」(1,000品目出しても当たるのは3品目くらいと言う意味)という言葉もあるようですが、新薬開発の場合は10万の候補物質のうち、1つくらいしか無事に製品として市場に出せません。
これは医薬品が、非常に厳しい基準で安全性と有効性が認められなければ承認されないからです。

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(出所:“Omics”-Informed Drug and Biomarker Discovery: Opportunities, Challenges and Future Perspectives)

2、ベンチャー企業の役割とエコシステム

新薬開発のように「非常に成功確率が低いが、当たると莫大なリターンをもたらす」ものは、着実なリターンが求められる大手企業よりも、ハイリスク・ハイリターンを狙うベンチャー企業の方が向いています。
実際に、新薬の開発元としてベンチャー企業の存在感が増しています。

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(出所:経済産業省)

もちろん、その裏では多くの開発が失敗の憂き目に遭っています。「期待の創薬ベンチャー」と言われながら、治験で臨むような結果が出ずに株価が暴落というケースも散見されます。
しかし、創薬ベンチャーとはそういう種類の取り組みであり、リスクが大きい分、成功すればまたリターンも大きいことを認識しておかねばなりません。

多くのベンチャー企業は「創薬」だけに特化しており、製造や販売の能力はありません。
ここで、大企業の出番になります。彼らが開発した新薬を製造・販売する権利を有償で得て、世界中に広めます。ベンチャー企業ごと買収したり、共同研究したりするケースもあります。
このように、ベンチャーはハイリスク・ハイリターンの試みに特化し、それ以降の拡大は大企業が担うというエコシステムが出来上がっているのも、新薬開発の成功確率が極めて低い製薬業界ならではと言えます。

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3、タンパク質からDNAへ

最近は、ペプチド、抗体、核酸など、新たなカテゴリーの薬が出てくるようになりました。
創薬分野における研究開発の流れをひと言で表現すると、「表層から根本へ」です。画像4

人間(生物)の身体は、細胞核にあるDNAからRNAがコピーされ、そこからありとあらゆるタンパク質が生成されます。そのタンパク質が様々な働きを行うことで生命活動が行われるのですが、時として我々にとって害のある作用を起こしてしまうことがあります。

これまで主流であった低分子医薬品は、このタンパクの働きを阻害するものがほとんどでした。
望ましくない生体作用の原因となるタンパク質そのものにアプローチしたり、合成プロセスを妨害して誕生しないようにしたり、設計図であるDNAそのものに働きかけたりと言う「より根本的なところ」に迫っているのが現在の研究開発の流れです。

これらの新薬は「バイオ医薬品」と呼ばれるものが多く、その市場は右肩上がりで成長を続けています。

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(出所:医薬産業政策研究所)

4、変わる製造方法

バイオ医薬品とは、大腸菌などの生物を用いて培養・精製される医薬品のことです。
これらの物質は分子量が大きく、複雑な構成をしているため、従来の手法(低分子医薬品を製造する有機合成)では製造できません。

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私が学部時代に専攻していた化学分野では「有機化学は花形」と言われていて、製薬会社への就職者も多かったのですが、時代は変わってきています。
(2001年にノーベル化学賞を受賞された野依良治先生の「不斉合成」も、最大の貢献分野は医薬品製造でした)

5、他分野との融合

ビッグデータとAIを用いた創薬、ロボットを使った実験自動化、スマートピル、電子薬など、バイオテクノロジーの発展に加えて、電子工学・情報学等の異分野との融合も今後の大きな期待分野です。
詳細は別の機会にまとめたいと思います。

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