プリンス:ニュー・パワー・ジェネレーションの誕生 その6

割引あり

12.プリンスとザ・タイムの関係性

 89年夏のレコーディング、ザ・タイムの未発表アルバム『Corporate World』収録曲について、更にレビューを進めていく。

 「The Latest Fashion」は87年4月上旬、サイン・オブ・ザ・タイムズ・ツアー直前にガルピン通りのプリンス自宅内スタジオでプリンスだけで作られた。この時86年に解散したミッシング・パーソンズのヴォーカル、デイル・ボジオ、彼女がデイル名義でペイズリー・パーク・レコーズより88年3月4日にリリースした『Riot In English』に収録される「So Strong」もプリンスは作っている。princevaultには「The Latest Fashion」も提供が考慮されたが拒否された、とある。『Riot In English』はAfterbachというグループにいたRobert Brookinsが曲作りとプロデュースをしており、彼はドラム、ベース、キーボード、ギター、そしてホーンも吹けるプリンス以上のマルチ・タレントであった。
 さてプリンスが作った87年の「The Latest Fashion」は未リークだが、その後89年7月から8月にモーリス・デイがヴォーカルを入れ、キャンディ・ダルファーがサックスを入れた「The Latest Fashion」#1(4:06)があり、『Corporate World』に収録されている。モーリスがリード・ヴォーカル、しかしサビは不明の女性によって歌われ、女性の語りもまた別の不明女性によるものだ。ダンス・ファンク的バッキングはホーン以外プリンスによるものだが、プリンスの声は一切入っていない。
 公衆電話、ダイヤルを回す音。❝モーリス、私。聞いて、昨日の夜のことだけど。あの人、私の従妹なのよ、本当に。だから、あなたが思っているようなことはないの。で、あなたが見たこと、彼いつも私がどのようにキスをするか興味津々でね、だから、わかるでしょ、え、モーリス?❞。この女性の声は先のデイルのものではない。モーリスと言っているのでプリンスの未リークのオリジナル・ヴァージョンの時のものではないからだ。つまりモーリスが歌入れをした時と同時期にその女性の会話も録音されたと考えられる。恐らくデイルに提供しようとしたプリンス・ヴァージョンは❝もしもし、私よ❞、とかで始まるのかもしれない。
 ❝俺は君を愛しているって言ったの覚えてる。必要だとも、いつもここにいるからとも。でも君に言ってなかったことがあるんだ、それは今年一番の流行は灼けつくようなパッションの下で寝そべることだ❞。マイケル・ジャクソンの「Bille Jean」のシンプルなキーボード・フレーズに似たカッティングや短く吹かれるホーンが華やかに耳に飛び込んでくる。
 ❝モーリス、どうかこんなことしないで、愛しているのよ。俺が聞きたいことだけ話してよ。今回やっと立場が逆転したんだ。今度は俺が炎を焚きつける立場だ、その火に焼かれることなくね。ねえ、なんでただ信じてくれないの?私本当のことを言っているのよ...。情欲の炎に横たわること、それが本気だってことだよね?今週愛したのなら次の週には昔の女になってしまう。俺が愛してるって言ったのは覚えてる。あなたは分かってないわよ。俺が必要だとも言ってたなあ。ええ、あなたが欲しいものはとてもよく知っているわ。凄い体、素敵な美顔だよ。ああ、そういうことする時間よね?君は俺の好み、超好きさ。真実の愛が欲しいって言ってたよな。でも、馬鹿にしないでくれよ。なんて人なのあんた!信じらんないわ!!裏表があって、うぬぼれてて、思いやりがなくて、糞ったれよ...。馬鹿にしないでくれ。俺はお前が俺にした愛って奴を絶対忘れない...❞。後半は灼熱のように轟くギター、花火のようなドラム、ビーチで寛いている風のバッキングで、最後には電話が鳴り続けるが出ることはない、そんな演出で終了する。
 プリンスがデイルに提供したヴァージョンは想像でしかないのだが、モーリスの部分とサビをデイルに歌わせようとしたのではないか。デイルがメインなので女性向けの歌詞に変え、一方女性による語りを男性がする、おそらくそれはプリンス担当だろう。結果デイルは浮気者のプリンスと別れ、今年一番の流行は燃えるようなパッションの下で寝そべることよ、と歌う内容になっていたのではないか。実際そうとでも変えなければ女性に提供できる内容の曲ではない。
 『GB』に収録された「The Latest Fashion」は『Corporate World』に入っている#1とは全く異なるヴァージョンである[後述]。よって『Pandemonium』に記載された女性コーラス、ブロンディ[エリッサ・フィオリロ]、グレース[ロビン・パワー]、ジル・ジョーンズ、キャリン・ホワイト[当時旦那はテリー・ルイス]、ステラ[ヤナ・アンダーソン]、マージー・コックスの女性コーラス達の誰でもない可能性があり、モーリス側の女性を使っているかもしれないし、正直誰だか全く特定出来ない。しかし録音時期は89年夏一択である。よってエリサ・フィオリロ、ヤナ・アンダーソン、この二人が有力となろう。

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