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「おすすめの小説」を探す

「おすすめの小説を教えて」と女の子に言われてはたと困った。

20年ぐらい前は一生懸命読んでいたけど、最近は仕事がらみのものかライトノベル崩れ、あとは昔読んだものを繰り返し読むぐらいで、まともにすすめられるものがない。
「大学時代に読んだのは?」「吉行淳之介」と答えたのは覚えている。あれ、福永武彦も言ったっけ?繰り返し読んでいるのは藤沢周平「蝉しぐれ」と佐藤亜紀「戦争の法」なのだが、「蝉しぐれ」はともかく「戦争の法」はちょっと…他にも頭の中をいくつかタイトルが浮かぶけど、いずれにしても小説初心者の女の子向きではない。

やってしまった。

本好きな友達男女2人に「小説初心者の女性におすすめは?」と相談したら、すぐ何冊か挙げてくれた。1冊ぐらい読んだことはある有名どころでも手が伸びなかった作品だ。でもこの2人のおすすめなら絶対に間違いない。
以前から本読みとしてのセンスは分かっているし、この前は自分も入れて「なぜ人は小説を読むのか」をテーマに2時間ぐらいZOOMで話し合った仲なのだ。

2人からおすすめされた本をきのうアミュの紀伊国屋に探しに行って、閉店間際に滑り込んで1冊探し出してゲット。中央駅のカフェで早速読み始めた。
だって、自分で読んでもいないものをおすすめするなんて不誠実だし、失礼じゃないですか。

家に帰るとゆっくり読めないので、どこかで読もうと決意。
スタバは混んでいそうだからシアトルズで。
空いていて中々良い。
水出しコーヒーをちびりちびりやりながら読む。

小説は、電車の中で行きかういろんな人の人生が交錯する物語。
ドはまりしてちょうど半分、一気に180Pぐらい読んでしまった。
各駅停車の話なのに、特別快速並みの速さだけど、読み進めて本の中の人の気持ちに触れていると、仕事などでいっぱいだった頭がきれいな清流で洗われていく感じがする。
電車の話を駅の中のカフェで読むっていうのがまた趣深い。

1時間半ぐらい読んだ後、帰り際に駅の大階段の上側にブルーのタオル地のハンカチが落ちていた。いったんスルーしてエスカレーターで下りちゃったんだけど、「誰かの大切なものかもな」と思い直して、階段を上って拾って駅員さんに届けた。
本の中の人たちならきっとそうするだろうなと思いながら。
駅員さんは「ありがとうございました」と思ったより丁寧にハンカチを受け取ってくれて、「大階段の上にありました」と伝えると、「大階段の上ですね」としっかりした声で復唱してくれた。帰り際、自分の背中に向かって「ありがとうございました」と大きな声でもう一度言われ、こちらも会釈で返したのだけど、なんだか心があたたかくなる対応だった。

あすには読み終わるはず。

もし貸したら彼女はどんな感想を持つかな。趣味にあえばいいのだけど。


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