骸のような生徒たち。あまりの状況に、ひとつ、仕掛けることにした。前回と同じ授業をしたのだ。

生気の無い高校生たちは、気にしている様子が見えない。さすがに動揺した。自分の思いつきとはいえ、あり得ないことをした。時間が経つにつれて声が上ずっていくのを自覚してきた。「これを禁中並びに武家諸法度と言います」同じセリフ。繰り返し言ったことになる。届いているのか。気付いているのか。気付いていて、言わないのか。分からない。混乱してきた。普通にやれば良かった。今から範囲を変えるのも不自然だ。誰か言ってくれ、「そこは前回やりましたよ」と。

「あの」骸、あ、いや、生徒がしゃべった。止めて欲しいような、触れて欲しくないような。「気分が悪いので、保健室に行きます」返事をする前に動き出した。せめて許可を待てないものか。どうせ許可は出る。出す。出すが、一応待つものだろう。まあ、いい。「はい、どうぞ」体調を気遣う言葉も添えず、形式を整えた。

企みは止められなかった。続けた。仕方ない。次の言葉を吐こうとしたが、中身が無かった。ん?1度は存在したのに、いなくなってしまった。沈黙はコチラ側で続く。アチラ側は沈黙とは無縁だ。また、思いついた。アチラ側の骸たちは、もういいのだ。本来話すべきセリフに、継ぎ目無く繋いだ。10ページ以上飛んでいた。大丈夫。骸たちは死んでいるのだ。大丈夫。

目が合った。骸に紛れたその生徒は、コチラを、黒板を、見ていた。ツバを飲む。続きを話し出した。言葉が途切れることは無かった。繰り返しではない、初めての言葉。届いていた。受け止めていた相手がいた。良かった。僕は教師だった。

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