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第6章〜わたし以外との恋愛喜劇はゆるさないんだからね!〜⑦

「ところで…………最後の告白の時に、相手の心をつかむような、気の利いたと言うか、効果的なセリフがあれば教えてほしいんだが…………」

 恥を忍んで……という言葉がピッタリ当てはまる雰囲気でカリスマ講師に問いかけると、彼女はこちらの表情を観察するようにながめがら、穏やかに微笑んで、

「ねぇ、黒田クン……もし、あなたが想像する『告白に効果的なセリフ』っていうのが、キザなフレーズや甘い言葉だと考えてるなら、それは、止めておいたイイよ。告白するなら、シンプルかつストレートで言葉で伝えるのが一番だから!」

と断言し、オレの肩に、そっと優しく触れる。

「そ、そうなのか……?」

 その仕草に緊張がとけたのと、意外な返答だったため、やや拍子抜けしたように聞き返すオレに、白草は、自身の見解に対する解説を続けた。

「うん! キザな言葉や甘いフレーズは、実際に付き合うまで取っておいた方がイイよ! その方が、断然、効果的だから……それに、『付き合う前までは、熱心に口説くのに、付き合ってからは甘い言葉の一つも言わない……』そんな、オトコは最低でしょ?」

 最後は、自分の言葉の説得力を補強するかのように、ニコリと笑う。
 その有無を言わさないと言った雰囲気の笑顔に、思わず

「そ、そうだな……」

と、同意する。
 こちらの返答に、

「よろしい……」

と、満足したように微笑んだ白草は、さらに、言葉を付け加えた。

「まぁ、どうしても『気の利いたことを言いたい!』とか、『思い出に残る告白にしたい』って考えてるなら……確実に告白が成功する、という確信を持っている時に有効な方法があるんだけど……」

 彼女は人差し指を口元にあてながら、「これを伝えようか、どうしよう……」といった感じで、もったいぶっている雰囲気だ。

「頼む! 教えてくれないか」

両手を合わせて、拝むように講師にすがる竜司に、「フフ……」と微笑んで、

「しょうがないなぁ〜」

と、一言添えた四葉は、

「相手の思い出にいつまでも残る告白の言葉はね……『相手が言ってもらって嬉しい言葉』を添えること! その『言ってもらって嬉しい言葉』は、そのヒトが、『他のヒトを褒める時に、一番良く言っている言葉』だからね……というわけで、相手のことを良く観察すること」

そう言って、自身の見解を締めくくった。
 その言葉を胸に刻むように、オレは、深くうなずき、

「わかった……ありがとう」

と、講師役への感謝の言葉を口にして、何かを決意するような表情で、大きく息を吸い込み、深呼吸を行った。
 すると、自称・カリスマ講師の言葉を端末にまとめていた壮馬が、今回の議題について、
これ以上の進展はないと判断したのか、会合の締めの言葉を告げる。

「白草さん、最後に具体的なアドバイスをありがとう! 一応、確認しておくけど、この計画については、竜司と紅野さんの仲の進展具合を見届けながら、判断するってことでイイかな? がんばってね、竜司! 白草さんも、それでイイかな?」

「お、おう! なんとか、進められるようにする」

「わかった! 黒田クン、困った時は相談にのるから、いつでも言ってね!」

 そんなオレと白草の返答を確認し、意見がまとまった、との見解に達したのだろう、壮馬はこんな意見を提示してきた。

「今日、話しておくべき内容はまとまったみたいだし、他に白草センセイの講義と議論しておくべき課題がなければ……脳の疲れをとるために、ボクとしては甘味の摂取を提案したいんだけど……」

「「異議なし!!」」

 オレと白草の声が重なる。こうして、用意したスイーツを味わうべく、再び、編集スタジオから、隣合う我がオレの自室へと移動することになった。
 ティータイムを堪能するべく、白草はイチジクのタルトを、壮馬はココナッツのブランマンジェを、オレは抹茶とピスタチオのタルトを選び、それぞれに味わう。
 なかでも、一目見た瞬間、イチジクタルトの見た目の美しさに感嘆の声をあげていた白草は、自身のスマホで熱心に撮影を行い、その後、あっと言う間に目の前の食べ終わると、SNSを更新した。

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clover_field 新鮮なイチジクがごろごろと積み上げられたタルト!
《竜馬ちゃんねる》のホーネッツ1号サンが、ミーティング終わりのティータイムに用意してくれました!
タルト部分はパイ生地でサクサク!イチジクのみずみずしさと中のカスタードクリームがとっても合ってるし、イチジクの隙間にあるシューボールは、モチっとした歯触りでアクセントになってる!
タルトのサクサク感、甘さ控えめのカスタードクリーム、イチジクのやさしい甘さとなど、いろいろな食感が楽しめるよ!とっても美味しくて、ペロッと食べちゃった。

#本日の会議終了
#いちじくタルト
#芦宮のケーキの名店
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 手元に置いていたスマホに、《ミンスタ》の更新通知が表示されたことを確認したオレは、画面を左手の人差し指でパスワードを解除して、通知欄をタップする。
 右手では、フォークでタルトを口に運びながら、クローバー・フィールドの投稿に目を向け、

「相変わらず熱心だな〜。白草は……」

苦笑しつつ、つぶやくと、彼女は、すぐに返事を返してくる。

「みんなに見てもらいたい! っていうのもあるけど、その日、なにがあったかっていう日記代わりにもなるしね」

「ふ〜ん、なるほど……そんなもんか……」

 納得したようにうなずくと、「それよりさ……」と、白草はニコニコと笑みをたたえながら、オレの鼻さき数十センチの距離まで近寄り、

「黒田クンが食べてるタルトも、一口食べたいな〜!」

と、ホイップクリームまみれのケーキのように甘ったるい声で、おすそわけを要求してきた。

「なっ!? 白草、自分のタルトはあっという間に平らげたくせに、オレには要求するのか!?」

 声をあげるオレに、白草は

「えっ!? 黒田クン、わたしのタルトが食べたかったの? それなら、そう言ってくれたら、『ア〜ン』をして、食べさせてあげたのに……あっ、もしかして、それが目的だったとか!?」

などと、ニヤニヤしながら返答する。

「んなわけね〜だろ!!」

 ツッコミ返すオレに、

「ふ〜ん」

と、彼女は微笑み返すと、人差し指で口元をトントンと指差し、再度、抹茶とピスタチオのタルトを要求する。
 渋い顔をしながら、オレはため息をつき、

「しゃ〜ね〜なぁ……」

と、つぶやいて、

「一口だけだぞ……」

と言って、フォークで切り分けたタルトを白草の口元に持っていく。

「あ〜ん」

と、口に出しながら、タルトを口に含んだ彼女は、

「う〜ん、程よい甘み! 美味しい!!」

と、感想を述べた。
 そんな白草とオレのようすを無言で眺めていた壮馬は、左手の人差し指でテーブルをトントンと叩いている。
(ちなみに、これは壮馬が苛立ちを感じている時に出る癖でもある)
 内心のイラつきを隠せないでいる友人は、オレたち二人の言動に無関心を装いながら、ブランマンジェを口に運んでいた。

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