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「昭和事件史」

人間の裏面、隠された部分、理性では抑えられない衝動、動物としての本能……普通に社会人として生活を送っている人間が、何かのきっかけで、自分でも気付かなかった闇の部分を爆発させてしまう。こういう裏の人間性の発露を見ることに大変興味がある。愛を描いた感動の表現に触れることもいいが、愛のために犯罪に走る表現を知ることはもっといい。

ということで、「津山三十人殺し 七十六年目の真実」を著した石川清氏の本。昭和20〜30年代に地方で起こった、たくさんの陰惨な猟奇事件のレポだが、実録ノンフィクションというより、当時の新聞記事と同様、一種の“読み物”として面白く読んだ。

興味深かったのは、日本でもけっこうカニバリズムに近い事件が起きてることだ。一種の伝承や信仰として、肝(肝臓など)や人肉、特に子どもや若い女のソレを服用すると大病も治ると信じられていた。当時、プロの肝取り職人と呼ばれた連中がいて、新しい墓を暴いたり(まだ土葬が残ってた)、死人が出ると貰いに行ったり、捨て子・貰い子を請け負ったりして、正式に調合した肝を販売してたらしい。熊本の玉名郡のある漁港の裏山では、警察が調べると1000人を超える人骨が見つかったりしてる。

狐憑き、オシラサマ、秘密宗教クロ、祈祷師等、民間信仰による殺人、解体、撲殺もけっこう起こってる。狐憑きは医者に見せても治らないと言われ、身内も加わって憑き物の排除に参加する。本人たちは今なら統合失調症などの心の病気と診断されるだろうが、参加者は真剣に本人のためだと思って、殺人に手を染めるのだ。単なる狂気では済まされない民間の裏文化の定着の根強さが感じられる。

これらの事件を遠い歴史として読むと、社会や秩序や論理を超えた裏の人間性の激しさをヒシヒシと感じる。

脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。