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『ムーブ トゥ ヘブン』という韓国ドラマのこと

『Move To Heaven』(私は遺品整理人です)死者たちが伝えたいこと

梨の木ピースアカデミーの市民講座に韓国ドラマで韓国社会を読み解く~という講座があって、オンラインで参加しています。この講座ももう第4期が終わったところです。

もうかれこれ15年ほど韓国ドラマを観て来て、自分がいる日本からお隣の国の濃いドラマを楽しませてもらっていましたが、「歌は世につれ、世は歌につれ」・・・ではありませんが、ドラマって社会が投影されていますよね?

今回の題材、『Move To Heaven』(私は遺品整理人です)

このドラマは10話で終わり、一話完結型の亡くなった人たちとの出会いのストーリーを横糸に、縦糸のストーリーでは、遺品整理の仕事を担う青年を取り巻く家族の物語で、毎回、色んな形の死とその登場人物の生前の生きざまと、何を誰に伝えたかったのか、が描かれていて、涙無くしては観られないドラマでした。

この中で、自閉症の青年が淡々と仕事をこなしていく際に、ヘッドホンでクラシックの名曲を選んで聴きながら、誠実に故人に向き合っていくシーンがあって、毎回登場人物の背景に合った選曲になっていると感じていました。

1話 

仕事中の事故が元で亡くなったのに労災扱いされなかったソヌ青年 非正規雇用
まず一話の始まりが主人公たちの場面が始まる前に、一話での死者になる非正規雇用の青年の事故のシーンで始まります。これは、実際の世界でも起こっている労災事故であるのに、申請しないように示唆されたり非正規雇用だと保証が受けられないという労働環境の良くない状態での問題が取り上げられていました。
若いヒョヌは夜間機械のチェックのために一人で稼働機械の中に体を差し込んで作業をし、足が挟まって事故に遭います。その傷をすぐ治療せずにいて亡くなったというストーリー。ケガから敗血症になったのかしら?若いのに突然・・・。
彼には夜間大学に通って正規雇用を目指す夢がありました。グル(主人公)が選んだ曲はトロイメライ(夢)でした。親は働けることに感謝して努力をすることを教えてきたと葬儀場で会社の人からのお金を拒んで話します。
火力発電所での事故が似たケースで、ベルトコンベアに足が挟まったまま抜けられず数時間後に亡くなっていることが発見されたものです。
また、地下鉄の自動扉を修理する会社の社員はリュックに工具とカップラーメンとスプーンが混在してあったこと、本当にあったことをモデルに作られていたと梨の木ピースアカデミーの講座で知って胸が痛みました。
データで見ると、非正規雇用では労災として扱わないから、減っているのですが、死亡事故となるとカウントせざるを得ず数が出てくるため、突然増加となっているとか。
チョン・テイルが焼身自殺して訴えた時代から変わっていないと・・・。
一話のエピソードの後、主人公の人生に転機が訪れます。そこでかかっていたのがとても穏やかでリズミカルなバッハの曲。家族の死。主人公グルにとってかけがえのない存在であるお父さんは実は病気で、自分の死が近いことがわかっていた様子・・・。料理の仕方を覚えさせたいと思っていたような言動がドラマ始まりにもありました。彼の異変は想定内の出来事だったのでしょう。悲しい別れですが、人は早かれ遅かれ肉体の生を終える時が来ます。
それでも、まだグルを置いてこの世を去るのはとても辛い状況のはずです。

シューマン-トロイメライ≪子供の情景≫

バッハ-The Well-Tempered Clavier, Book 1

2話-3話 

独居老人の孤独死 ドビュッシー 月の光 “rain”
認知症で、綺麗に住んでいなかった上に亡くなってから発見されるまで3週間経過して家の中は凄まじいことに。ウジがわき、この回から仕事に加わることになったサング(サムチョン=叔父)(イ・ジェフン)は吐いてました。💦
この叔父は、グルのお父さん(アッパ)の父親違いの弟で、諸事情により疎遠となっていたが、グルの青年身元引受人となるとお金に不自由しないと考えてやってきた前科者という設定の、イ・ジェフン💖ここでは、ワイルドさ溢れる元ボクサー。
ごみ収集に来た脱北者の業者の人が、グルのことを心配したり、サングに来てくれて安心したことを話し、彼らの仕事はただの掃除だけではない大切な仕事だと言うのを、いぶかし気な表情で鼻で笑っていたサングですが、回が進むにつれて変化してきます。
故人たちとの出会いは、もう亡くなってからですが、立派な看取りだと思います。

さて、孤独死で人生を閉じられた認知症も患っていたおばあさんは、毎週愛する息子のために年金を下すと貯金して、息子に電話して、仕立て屋でスーツを作る計画を立てて愛に生きた母親でした。部屋の畳の下には現金が敷き詰められていて(勿論ウジや体が腐敗していろんな液体で汚染されたお札・・・!)それを教えたらちっとも寄り付かなかった息子夫婦ははぎ取っていました。(消毒して洗って使えるように出来るんですって!)遺品は受け取らないと言い、金目のものは要ると言う。このお話は最後もう母の愛で泣かされます。とにかくこのドラマ観てない人見てください!全ての死に一人一人の物語がある・・・。

ドビュッシー 月の光

4話 

ストーカー殺人 被害に遭った女性は加害者の男性から逃げようとしていたが気付かれて・・・。ピアノソナタ 月光
とても悲しい曲調です。ここで、事件を担当する検事さんと出会います。彼女に遺品整理の仕事について聞かれます。まるで、亡くなった人からのメッセージを受け取っているみたいと。それはお父さんが大事にしてきた故人の送り方でした。死者の残した遺品をみていると話してくれる。でもそれは聞こうとしなければ聞こえないのだと。自分の思いが強すぎて、相手の伝えたいことに耳を傾けることの大切さを感じました。それは、本当は生きてる内にできていると良いですよね。

ベートーヴェン-月光

5話 

病院で事件が起きます。若い医師が命を落とします。彼の部屋を遺品整理に。すべて捨ててという要請。
イケメンの若い医師が恋愛関係にあった人と親の反対で上手く行かず別れたが、相手の人が帰国したら告白するつもりだったらしく、恋人宛ての手紙(父親に見せたら焼き捨てられて、焼けた紙くずと化したもの)を渡すために会いに行くことになり・・・。
ドラマ中のチェロのメリークリスマス&ハッピーニューイヤーがおしゃれでした。
仲良くなったきっかけの曲で、コンサートでも思い出の曲として登場します。チェリストだったんですよね!恋人は。
性的マイノリティがテーマでした。梨の木ピースアカデミーの講座の中で佐相さんがピックアップしていましたが、グルがなぜ両親が反対したのかわからないと言ったことに、サングが「お前のお父さんも心配してるだろうな。」というのです。するとグルが、お父さん(愛にあふれたアッパをチ・ジニが好演しています)は皆と違うが誇りに思うと言っていたというのです。授業中にしゃべりすぎて退学になった時も、と。
これを聴いて、兄を恨んでいたサングは何か感じたようです。
ブラームス ピアノ三重奏曲 第一番 ドラマの監督が音楽リストをとある音楽アプリの中で作ってくれていました。YOYOMAのものがアップされていました。
そのリストの最後に6バッハのチェロスート 第一番 Gマイナーが収められています。💖

ブラームス ピアノ三重奏曲第1番ロ長調作品8

バッハ-チェロスートNo.1 in G Major  Yo-Yo Ma

6話 

高齢者夫婦の心中自殺。ここで、ソーシャルワーカーの若い女性が登場するのですが、サングが心中自殺に対して妻を勝手に道連れにするな、と怒っていたことに対して、死者を侮辱しないで、とぶつかり、結果気になる存在となってましたね。💖

ショパン/ノクターンOp9-2

7話 

サングの隠された過去が・・・。弟分のボクシングの愛弟子が植物状態に?!で、なんで状態悪化して病院に行くとき走っていくの?タクシーでしょう?サングは借金してまで彼の医療費を払って生きていてほしくて、本当は意識が戻って回復してくれることを望んでいたのでしょう。
そういえば、昔アメリカンバイクで通勤していて、心斎橋筋で突如エンスト・・・。仕方なくバイクを歩道脇に放置してタクシーを拾うことに。遅刻しそうで血相変えて●●病院へ急いでください!と言ったら、タクシーの運ちゃん、すごく飛ばしてくれて・・・助かりましたが、絶対親が危篤とか思ったのよね?ごめんなさい!ここは、ストーリー書きません。皆さん見てください。『アルハンブラ宮殿の思い出』では、チャニョルを執拗に追ってくるゲームの中のキャラクターに扮していてめっちゃ怖かった彼、いじめられていた所を見られて関りを持つことになって、サングが心を開いていく過程が良かったです。

8話 

サングとお兄さん(グルのアッパ=お父さん)のお話。なんで、こじれたのか。なぜ、一話でジョンウの死を告げられた時に「良かった」なんて言ったのか。そして、兄の愛の深さを知った時の泣きっぷり。イ・ジェフンの素直な子供に返ったような嗚咽。家族の絆が強まってきた感!

9話 

海外養子の問題がテーマに。アメリカで養父に追い出され、帰国命令を受けて帰って来たけど実の母親からも拒絶され、孤独の中病死したマシュー。 
アメリカにて牧場などの働き手として引き取られ、上手く行かなかった場合、強制帰還や、どっちの国籍もない状態になってしまうことがあるようなんです。
韓国に戻っても居場所がなく、このドラマのケースでは実の母親には会うことも拒否されていました。モーテルで病死した若者の時はジムノペティの静かな曲が、慰めてくれるようでした。

サティ-ジムノペティ

10話 
父親の死とやっと向き合うことをっ決意したグル。その決意に至るまでには、彼の出生を辿る道程が。早くに亡くなったお母さんとも一緒の3人で行った水族館、母が逝った後お父さんと二人で行った時には、お父さんがオンマはグルのここにもここにもここにもいると、頭と目と胸を刺してくれた場所。
自閉症で言葉を自ら発さなかったグルが初めてちゃんと言葉を発したのがその水族館だったんですね。魚の説明をスラスラと言っているのですが、それを聴いて喜ぶ2人。そこではBGMにクラシックが。思い出のシーンから切り替わって、お父さんの姿が隣に現れます。そして消えてゆく・・・。パニックになって「出てきて!」と叫ぶグル。そこへグルを探しに来たサングが駆けつける。
アッパにもう会えないと泣くグルにサングが「誰かさんがこう言っていたぞ。故人だって話が出来るって。」そう、そうサングに言ったのはグル。いつも遺品整理をして死者のメッセージを受け取っていたのに。
お父さんの部屋を整理すると携帯電話の動画に残されたビデオメッセージが。
「息子、グルや、約束だ。これからはグルが言うんだ。鏡をみてごらん。そして『良くできた。』」もう涙です!!!
アッパの部屋の遺品整理の時のBGMはバッハ-第一番前奏曲ハ長調

私が、一番好きなドラマと聞かれて先日『大丈夫 愛だ』を上げましたが、ラストシーンでラジオのディスクジョッキーに復帰をした主人公が言うんです。「皆さんもたまには自分に「お休み」と言ってみては?」と。それと同じだと思いました。

そして、葬儀後、やはりまだ死を受け止め切れていないグル。でもそこにアッパが語り掛けます。「いつもアッパはなんて言ってた?見えなくてもいつもそばにいる。」「記憶の中で・・・」グル「生き続ける。」アッパ「そうだ。」

素敵なドラマでした。

このドラマを題材にした講座が受けられて幸せです。
原作は『去った後に残されたもの』遺品整理士が去った人々の後ろ姿で学んだ生の意味-というエッセイ集です。


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