見出し画像

村立白馬中学校でオンライン授業導入〜10日でオンライン授業導入にこぎつけた人口9000人の村の小さな中学校の挑戦

コロナウィルスがあっという間に世界を席巻し、数週間の間に人類が世界各地で今までとは全く違った生活を強いられるさまは、まるでSF映画を観ているようでした。

私が住む白馬村には公立の学校が4校あります。村立の白馬北小学校、白馬南小学校、白馬中学校、そして、県立の白馬高校です。感染拡大が数ヶ月で収束するとはとても思えない中、白馬の学校はどうなるのだろうと不安に思っていました。

私は、白馬南小学校には保護者として、白馬中学校には数学の補講ボランティアとして、白馬高校には「グローバルコーディネーター」として、ここ数年関わらせて頂いています。白馬中では今年度から学校運営協議会の委員を拝命しました。オンライン授業をこれらの公立の学校で取り入れることはできるのか。それはそもそも望まれているのか。いろいろ考えながらも、3月は情報収集するくらいで何もできずにいました。

白馬ではまだ感染者が確認されていないため、小中学校では学年を分けて登校日を設けていますが、自主休校されている家庭もありますし、今後の状況によってはいつ完全休校になってもおかしくありません。白馬高校は全国募集をしており全国各地から生徒さんが来られるため、入学式と始業式を4月末に延期しました。

各校が完全休校になった時に生徒たちにどうやって学びを補償するのか、学校とつながっている安心を担保できるのか、また、こうして考えている間にも早々にオンライン授業に踏み切っている学校や地域との教育格差が広がるのではないか…。

また、全国で感染拡大が懸念される中、白馬でもオンライン授業を取り入れてもらえたら今は登校日を設けている小中学校でも無理に登校しなくても良くなるのではないか。逆にオンライン授業ができないことによって教育格差の拡大を懸念するあまり安全への配慮が後回しになり無理に学校を開けたままの状態にならないだろうか…。

色々もやもやする中、キッズアイランド代表の堺谷武志さんが紹介して下さった東京の公立小学校で早々にオンラインの学びを取り入れ注目されている蓑手章吾先生にお話を聞き、オンライン授業導入に踏み切られた横浜創英中学・高等学校の堀井章子先生にお話を聞き、竹村詠美さんが主宰されるLearn by Creationのコアメンバーミーティングで各地の現状や先進事例そして考え方を学び、炭谷俊樹先生の学びを探究するメディアQでオンライン学習に関する対話に参加させて頂き、インフィニティ国際学院 学院長の大谷 真樹さんが立ち上げられたFBの「コロナ対応で困っている先生たちの情報共有グループ」 で様々な情報や事例、気付きを頂いて、

「みんな困っているし悩んでいる」
「オンライン授業ガチでやってきたのってミネルバ大学くらい?だったら皆同じスタートラインに立っている」
「逆に地方にとってはもしかしてすごいチャンスかも…」
「これは取り敢えず村の教育長にお考えを聞いてみてオンライン授業導入をお願いしても良いのでは…?」

と思ってしまいました。

岡田武史さんをして「草本さんの迫力に押されて気付いたら白馬で講演することになっちゃってたんだよね」と言わせしめたおばさんパワー全開で、白馬村の平林教育長にメールでお問い合わせをしたのが4月7日。教育長が白馬中の浅原昭久校長先生も交えて面談の機会を作って下さったのが4月10日。校長先生がその場で「やりましょう。この危機をチャンスに変えましょう。」と言って下さってから、爆速で色々なことが進みました。

白馬中は幸運なことに、既に1人1台のタブレットが導入されていました。教育委員会が数年前に整備して下さったものです。ただ校内利用専用で外では使えない設定でした。変更するには業者にお願いする必要がありお金もかかるので、最初は取り敢えず家庭にある端末を使って授業ができないかを検討しました。しかし、信頼する白馬村のスーパー役場職員、渡邉宏太さんに「やはり機器は揃っていた方が運用が間違いなく楽だし、せっかく1人1台あるなら活用したいですよね」と言われて、学校にも賛同して頂き、学校のタブレット利用で話が進みました。ここで、白馬で起業された元ヤフーのエンジニアの石田幸央さんがITエキスパートとして参画、「業者にお願いする予算がつかないなら、200台くらいだったら僕が何とかしますよ」と力強いお言葉を頂きます。結局、役場が動いて下さって、業者に設定変更して頂くことに。石田さんにはこの後セキュリティの問題からオンライン教材導入まで様々な面で活躍して頂いています。

この間、保護者の方々の間でもオンライン授業導入を望む声が出ていて、保護者として学校運営協議会の委員を務めておられる武藤慶太さんやIT系のお仕事をされている保護者の尾川耕さん、平岡千春さんが学校に提案して下さっていました。

4月17日には、白馬中の理科の先生、清原佳明先生がさっそくzoomを使った理科の授業を考案し先生方に研修で披露して下さり、1週間足らずで生徒向けのわかりやすい写真解説入りの「オンライン授業手引き」も作成して下さいました。

横浜創英の堀井先生に薦めて頂いたオンライン教材のeBoard(公立校への導入はなんと無償)は、浅原校長先生があっという間に学校として導入して下さいました。申し込みが殺到しているGoogleクラスルームは順番待ちですが、2週間以内には導入されることでしょう。白馬の中学生がGoogleクラスルームで宿題を提出する日が近いと思うと感慨深いです。

生徒の家庭のWi-Fi環境の調査も行い、授業を受けられるWi-Fi環境が自宅にない生徒さんに対しては、武藤さんが話をして下さって、村内の宿泊施設などが無償で場所とWi-Fiを提供して下さることになりました。

さらに、オンライン授業を提言して下さった尾川さんや平岡さんらITに強い保護者の方々が、接続がうまくいかないなど生徒の家庭でトラブルがあった場合のヘルプデスクを引き受けて下さり、いざとなったらお宅に行って問題解決する「駆けつけ隊」を結成して下さいました。ITの人が家に駆けつけてきてくれるって…。すごすぎます。

そして、4月22日は、とても嬉しい日になりました。白馬中の先生方のために、新渡戸文化学園の山本崇雄先生、芥隆司先生、奥津憲人先生がオンライン授業導入に関する研修をzoomで開催して下さり、理念の部分から具体的な導入へのアドバイス、利用可能なソフトウェアやアプリケーションの情報まで、大変わかりやすく教えて下さったのです。山本先生は、「なぜ『教えない授業』が学力を伸ばすのか」の著者であり、生徒のやりたい気持ちを引き出す教育を追求されている素晴らしい教育者です。2年前に白馬で開催した教育シンポジウムにご登壇頂いていました。白馬中の先生方もこれで準備バッチリ(?)です。

これ以上中学生の学びに手厚く対応している地域があるでしょうか。

校長先生の熱意から爆速で進んだオンライン授業の導入。校長先生が4月13日の職員会議でオンライン授業導入を目指すと宣言されてから10日で生徒たちはタブレットを家に持ち帰り試験的な「zoom朝の会」が始まりました。本格的なオンライン授業開始は27日月曜日からです。

もちろん今後うまくいかないことや失敗もあるでしょう。でも当たり前です。今まで誰もやっていなかったことに挑戦するのですから、最初から成功しなくても当然なのです。そんな挑戦に先生方が一丸となって取り組んで下さって、白馬の中学生は本当に幸せだと思います。情報機器は間違いなく子どもの方が早く使いこなせるようになるので(笑)、先生方にとっては試練かもしれませんが、生徒に教えてもらいながら一緒に授業を作っていくくらいの心持ちで取り組んで頂けたら嬉しいなあと思います。先生たちも新しいことに挑戦している姿を見せ、苦労している姿もさらけ出して、学び続けることの大切さ素晴らしさを生徒に感じてもらえたら、それこそ真の学びといえるのではないでしょうか。

山本崇雄先生は、「生徒たちはオンラインでどこでもドアを手に入れた。どの国のどんな人とでも繋がれる。」とおっしゃって、新渡戸文化学園の生徒さんには本当にそうした機会を提供されています。

これは地方にはすごいチャンスです。白馬で素晴らしい景観と綺麗な空気と美味しい水を楽しみながら、世界の誰とでも繋がれるし最新の学びも手に入れられる時代になったのです。

最後に。

人口9000人の小さな村の生徒数200人足らずの村立校、白馬中学校でオンライン授業を爆速で導入できたのは、「白馬だから」ではありません。浅原校長先生が生徒たちの学びを止めないために覚悟を持って挑戦して下さったことと、白馬中の先生方が熱意を持って取り組んで下さっていることが大きいのは間違いありません。同時に、オンライン授業移行を望む保護者が教育委員会や学校に電話をかけたり先生に話したり、地域の人ができることがあるかもしれないと発信したりなど、いろんな人がいろんな場所で声をあげたこと。それらがうねりを作って教育委員会や校長先生の背中を押し、実現に至ったのだと思います。

この不確実で辛い時期がいつか終わる時、この時期が無駄ではなかったと胸を張って言えるように。できることを少しずつやっていけたらと思います。白馬高校は動き始めているし、白馬の小学校もきっと何かできる!

白馬中のオンライン授業にご尽力下さった多くの方々に心から感謝申し上げます。図々しく色々お願いしてしまってごめんなさい。このご恩は忘れません。白馬中学校の挑戦が、他の学校の挑戦のきっかけとなったら嬉しいです。

さあこれからだ!

画像1

危機を決して無駄にするな   ウィンストン・チャーチル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?