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ルトガー・ブレグマン氏2019年ダボス会議での発言 訳

SNSでバズっているダボス会議で物議を醸した歴史家 Rutger Bregman(ルトガー・ブレグマン)氏の発言。宮坂学さんのTwitterで知ったのですが、この空気を(あえて)読まない勇気はすごいと思います。日本語訳が見当たらなかったので、勝手に訳してみました。

映像はこちら↓


ルトガー・ブレグマン(以下RB): 私はダボス会議は初めてですが、正直ちょっと困惑しています。デビッド・アッテンボロー卿が人類は地球を破壊しているという話を聞くために、1,500機のプライベートジェットがダボスに飛んできているわけです。ここでは、参加とか正義、公平性とか透明性とか、そういう言葉が飛び交っていますが、租税回避について指摘する人はほとんどいません。金持ちが公正な負担をしていない、という話です。消防士のコンファレンスに来て、水について話すことを禁じられているような感じですよ。
司会: いやでも2つの…
RB: 確かに、このパネルの他に、メディアセンターの裏のわかりにくい場所で租税回避に関するパネルが1つありましたね。私は15人しかいない聴講者の1人でした。これはおかしいですよ。10年前に、世界経済フォーラムが問いを投げかけました。「世界が突然後退したりしないように産業界は何をしたら良いのか。」答えは簡単です。慈善ではなく、税金について話をすれば良いのです。とにかく税金ですよ。2日前に、この会議で億万長者が、誰だったかな、マイケル・デルだ、彼が、「累進課税の限界税率が70%で成功した国があるなら教えてくれ。」と言っていましたが、私は歴史家ですから答えられます、アメリカですよ。1950年代、共和党の大統領アイゼンハワーが、彼は退役軍人なんですが、マイケル・デルみたいな億万長者に対する限界税率を91%にしました。相続税の最高税率は70%以上でした。これは宇宙工学じゃない、難しい話じゃないですよ。またボーノを呼んできてくだらない慈善事業のスキームに関して延々と話をすることもできますが、税金について話をしないと意味がないんです。税金、税金、税金です。私に言わせれば、他のことは無意味ですね。
司会: どうぞ。
Winnie Byanyima(以下WB、オクスファム理事): 現在の税制は抜け穴がありすぎて、毎年1,700億ドルの資金が租税回避地に流れ出しています。もっとも資金を必要とする開発途上国には届きません。私たちはビジネスモデルを見直し、政府の役割を見直して、人々の生活に資金が循環するようにしないといけません。
聴衆からの質問: 正直なところ、このパネルは非常に一面的な感じがします。アメリカでは今失業率は過去最低で、黒人の失業率も若者の失業率も過去最低なのです。世界中で貧困は減っているのに誰もその話をしていません。この不平等についてのパネルでは全員が税金の話ばかりしていますが、我々が本当に不平等の問題を解決していくために何ができるのかを、税制以外に何ができるのかを話してもらいたいです。
WB: 私たちは税制の話しかしておらず、失業率は低いと今この紳士がおっしゃいました。言わせてもらいますが、仕事について語るなら、仕事の質はどうでしょうか。世界一裕福な国、アメリカの、鶏肉加工場で働く女性を我々はサポートしていますが、彼女たちは鶏肉を切ってパッキングして、それを私たちはスーパーで買っています。その1人のドロレスが、彼女と同僚たちはオムツをして仕事をしていると教えてくれました。トイレ休憩が許されていないからです。これが世界一裕福な国の現状です。これは尊厳のある仕事ではありません。
グローバル化が仕事を産み出すと言いますが、産み出している仕事はこのような仕事なのです。仕事の質は大切です。こういう仕事は人間に尊厳をもたらしません。多くの国で、労働者は声を持たなくなってきています。組合をつくることも許されず、賃金を交渉することも許されない。仕事について話をするなら、人間に尊厳をもたらす仕事について話をしましょう。健康保険制度についても話をしましょう。世界銀行によれば、1日5.5ドルの収入で暮らす34億人の人々は、一度病気になれば貧困に陥ってしまうのです、医療保険に入っていないからです。農業従事者は一度不作があると貧困に陥ってしまいます、農産物収量保険に入っていないからです。
失業率が低いなどという話はしないで下さい、数えるものが間違っています。人間の尊厳が計算に入っていません、搾取された人間の数を数えているだけなのです。


お金持ちが租税回避をやめて公正な負担をすることこそが最も重要というブレグマン氏の主張は、徴収された税金が政府によって公正に再配分されることを前提としています。ただ、お金持ちは必ずしも自分の私腹を肥やすためだけに節税に励んでいるわけではなく(もちろんそういう人も多いと思うけど 笑)、政府が再配分する能力を信用していないからという面もあるのではないでしょうか。税金納めるくらいなら節税して資金を手元に残し、自分で判断して寄付した方がよほど世の中のためになると感じている富裕層は多い気がします。ブレグマン氏は別のインタビューで、ビル&メリンダゲイツ財団が世界に貢献していることは間違いないが、一部の超富裕層に社会問題の解決を委ねてしまって良いのか、本来それは政府の役割のはずだ、と主張されています。現代の民主主義、資本主義の根本的な問題に繋がる問いですね。

ブレグマン氏の著書、「隷属なき道」を読んでみたいと思いました。

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