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暴走するネット炎上、うまい“火消し”はどうする?

ネットウォッチャーが立ち上げた新会社

 「あの企業、いま炎上してるよね」――。誰もがインターネットに触れる時代になり、そんな会話も珍しくなくなりました。「炎上」とは火災のことではなく、言わずとしれた「ネット炎上」のことです。失言や不祥事を起こした際に、インターネット、特にSNSにおいて批判的な意見が殺到することを指します。炎上が大きくなると、発言者の自宅を割り出したり、企業の代表番号に苦情電話を殺到させたりなど、実際の生活にも影響を及ぼす事態になります。
 個人も企業も炎上は避けたいところ。そんな時代だからこそ、炎上対策を行う会社を設立した人たちがいます。パソコン通信の時代からウォッチャーとして状況を見続けてきたおおつねまさふみさん、そして廣瀬光伸さん、東智美さんが設立したMiTERU(ミテル)は、炎上対策やソーシャルメディア対策を中心に行う会社です。今回は炎上の仕組みからMiTERUの今後について話を伺いました。

MiTERU代表取締役のおおつねまさふみさん

炎上させる人は“代理敵討ち”をしている

 MiTERUの代表取締役を務めるおおつねまさふみさんは、知る人ぞ知るネットウォッチャーです。そのウォッチャー歴は1984年以降のパソコン通信時代から始まり、インターネットは大学や研究所がネットを使い始めた1994年からと、30年近くになります。

 「1995年頃のネットはプログラマーやエンジニア研究者、理系研究者が多く、そこで起こるもめ事は、SJIS(文字コードの一種で「シフトJIS」のこと)とEUC-JP(同「日本語EUC」)とか、端から見ているとなんでそこにこだわるのか分からないものが普通でした。しかし今では、次第にもめる話題が普段の生活に密着し、グルメや旅なども増えてきましたね」とおおつねさんは振り返ります。

 とはいえ、サービスや人が変わっても、中で起きている炎上やもめ事はほぼ同じで、10年以上大きな変化はないそうです。ネットで燃える原因も変わらず、「いじめっ子っぽい」言動をすることだそう。

 「ネットでは、オラついている(=偉そうな態度)とかイキってる(=粋がっている)とか、ズバリ言うといじめっ子っぽい言動は完全にNGですね。マニアな人はキモいよねとか、服装がダサい人はずっと家にこもってほしいとか、いじめっ子グループが言いそうなことは、パソコン通信の時代から絶対にNGでした。ごくまれに“殴り合いで負けたことがない”といったキャラを装ってパソコン通信やネットに出てくる人もいますが、お前は何言ってるんだと総攻撃されて、そのアカウントは100%削除に追い込まれます」(おおつねさん)

 こうした言動は「企業の公式アカウントを運営する際にも参考になる」とおおつねさんは言います。公式アカウントが、「スクールカースト」でいう“一軍”感を出すとたちまち反感を買うとのこと。スクールカーストとは、学校の中で自然に行われるカテゴリー分けを指す言葉で、目立つ人や人気者が一軍、その下は二軍、三軍と続いていきます。

 「僕はネットで一軍がたたかれやすい様を“代理敵討ち”と呼んでいます。ネットでオラついている人を見ると、学校時代に一軍からキモイとか言われたときの気持ちを思いだし、平常心ではいられなくなるのです。決してその人に直接いじめられたわけではないのに、です」とおおつねさん。

 さらに「特にTwitterには、たたける人を探し出して絡んでいいという“共通認識”のようなものがあります。FacebookやInstagramといった他のSNSとは違って、Twitterほど余計にもめやすいサービスはありません。例えばおまえのその料理法は間違っている、俺が本当のやり方を教えてやるということが起こるのはTwitterです。以前ははてなダイアリーやはてなブックマークでしたが、今はTwitterに“そういうことをしていいんだ感”が強いですね」と続ける。

人間の本能が技術に追いつけていない

 ひとたび炎上が起きると、ネットはその話題で持ち切りになります。同じ話題についてさまざまな人たちが意見を論じ、批判を繰り返しているのを目にすることになります。しかし、文化庁が2017年に公表した「国語に関する世論調査」によると、炎上を目撃した際に書き込みや拡散を「すると思う」と答えた人はわずか2.8%。おおつねさんも「粘着して炎上を起こしている人は実際のところ少ない」と話します。

 「派手で大騒ぎになっているネット炎上でも、実際に先導している人は多くて十数人くらい。ところが人間の感覚で見ると、何百、何千と感じてしまう。それは人間の本能なんです。会社のオフィスに40人くらい社員がいたとして、その中の一人でも誰かを批判していたら、それを無視できないよう、敏感に察知する仕組みになっているのです。そうでなければ、つまはじきにされてしまう恐れがあるからです」(おおつねさん)

 また「ネットでは40人しかいないサービスは成り立ちません。ですから、会社や学校よりも何百倍も多くの人の批判の声が耳に入ります。エゴサーチやリプライも含めて、ネットから入ってくる情報はめちゃくちゃ増えたのに、実際の生活と変わらないぐらい敏感に反応してしまうのです。大勢の人が批判しているように錯覚するのは、人間の本能が技術の進歩についていけていないからです」とも。

 MiTERU取締役の東智美さんは、iPhoneケース「RAKUNI」を製造・販売する株式会社トーモの代表取締役でもあります。2016年にAppbankがRAKUNIのデザインと酷似している商品の販売を企画していたことで、炎上に巻き込まれた経験を持ちます。東さんが疑惑についてSNSで発信したことをきっかけに、いくつかのネットメディアに取り上げられ、炎上へと発展しました。最終的にはAppBankが運営するYouTube Liveに出演して事態の収拾を目指し、その際におおつねさんのアドバイスを受けながら対応したとのこと。

MiTERU取締役の東智美さん

 当時、東さんはAppBankの動画のファンたちから誹謗中傷を受けましたが、逆に炎上には自浄作用があることを知ったと言います。

 「はじめは罵詈雑言ばかりだったのですが、2週間ぐらいの間にだんだんと“人格をおとしめる発言は良くない”といった冷静な意見が増えてきて、誹謗中傷はなくなりました。そのとき、間違ってはいけないのが謝り方だと考えていました。ウソをつくとバレたときにもっと炎上します。私は盗用問題に関しては間違っていないので、“間違っていない”というスタンスを崩しませんでしたが、短絡的にネットを使って騒いだことは素直に反省して謝りま
した。通すことは通すけれど、周りに迷惑をかけたことに関しては謝る。そうすれば、必ず鎮火すると実感しました」(東さん)

炎上は避けてバズりたいは虫がいい

 企業が公式アカウントを運営するときは、一人でも多くの人に投稿を広めたいと考えます。しかし「炎上なしにバズりたいと考えることは虫がいい」とおおつねさん。さらに「ネットを見ている人は、特定の企業が盛り上がることには興味はありません。その時点で、企業の思惑とはズレが生じています。潜在顧客が掘り起こせればいいのですが、バズりさえすればビジネスの結果が良くなると考えるのは、途中が抜けています」とおおつねさんは指
摘します。

 「どうしたらバズりますかというときに、3B(baby、Beast、Beauty)を出せばウケますとか、トリプルF(Female、Fight、Food)は耳目を引きますよね、とアドバイスしているコンテンツアドバイザーはいますが、それでバズるのは単なる現象です。デジタルマーケティングや広報を担当する人もついそれに手を出します。政治的な話題やフェミニスト問題に言及すれば注目されるのかなと考えて、やってはいけないことをやってしまいます。しかし、作戦は一つとして同じではありません。僕がMiTERUという会社で提供するのは考え方です。謝罪の際にウソをついてはいけないというのは確かですが、では内部書類を全部公開すればいいのかといえば、それは違います。何を言って、何を言わなくていいのか、その判断が重要です」(おおつねさん)

知見を生かして炎上予防を支援

 MiTERUは、おおつねさんと東さんが持つネットの知見を生かした企業ですが、そこに元AppBankのCFOだった廣瀬光伸さんも取締役として加わりました。その廣瀬さんは「炎上する前の対策が重要」だと語ります。
 「日本は予防措置という概念が弱いのです。炎上した後に逆SEO(特定ページの検索順位を下げる)とか、検索のサジェストを消して風評被害対策をするといった物理的作業を行う会社はありますが、ではこうつぶやいたときにどんなリスクが発生するかをアドバイスする企業はありません」(廣瀬さん)

MiTERU取締役の廣瀬光伸さん

 廣瀬さんは、株式上場の監査でRCM(リスクコントロールマトリクス)という株主に被害を与えないようにどこにリスクがあるか網羅的に分析して審査する仕組みにヒントを得て、それがネット炎上についても適用できると考えました。
 「情報を発信する立場なら、RCMの中からこういうリスクがあるよとアドバイスができます。炎上は避けられない面もありますが、RCMがあればダメージコントロールの概念は持ちやすくなります。火力の高いダメージかそうじゃないか、長期化するか短期化するか。おおつねさんと東さんは、ネットの膨大な歴史を知っている上に経験も積んでいるから、その行動がどういう結果を生み出すか、推測することができます」と廣瀬さんは話す。

 また、企業や個人はネットにおけるリスクコントロールに自信がないため、「それで合っているよというエビデンスをほしがっている」とのこと。
 「でも今、そういうサービスはありません。MiTERUの今後のビジョンについては、駆け込み寺として作ってもいいし、寄り添い型でもいいし、ネットリテラシーとしてアカデミックな分野を作るのでもいいと考えています。おおつねさんや東さんがこれまでネットで培ってきた知見は“無形資産”です。その価値を広めていきたいと考えています」と廣瀬さんは意気込んでいます。

文責:鈴木 朋子(すずき ともこ) 

(※本記事は日経トレンディネットに2018年5月公開されたものを編集部の許諾を得て再掲しています。)

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