【掌編小説】火

 どちらから声をかけたのかは忘れたが、たまたま通りかかった夜の美術館の前で、俺はその女と出会った。
 酒を呑み、飯を食い、することをした後、嗅いだことのない煙草の香りの中で、「絵とか、好きなの?」と尋ねると、彼女は笑いながら、
「いや、別に」
 と答えた。
「そうなの?じゃ、何で……」
「あそこに勤めてるから、居ただけ」
「ふーん」
 次の日曜日、さんざん迷った挙句、結局会いに行ってしまった。
 展示室に入ってすぐに、仕事中の彼女を見つけた。
 俺が軽く手を振ると、彼女は油絵の中の断頭台の上から、困ったように微笑んだ。

(トモコからきいた話)

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