「電池」

 ××さんのお見舞いに行った時、病院の真っ白で明るい廊下の片隅、ほとんど唯一ともいえる暗がりの中で、××さんを担当している看護婦さんが、天使たちの背中に電池を入れているのを見てしまった。ああ、もうすぐ××さんは死ぬんだ。そう思ったら何だか足下がおぼつかなくて、そのふわふわした変な感覚は、病院のロビーで缶のココアを飲んで落ち着くまでおさまらなかった。それから何日もしない後、××さんはあの時の天使たちに連れられて死んでいった。××さんの死に顔を見ながら、なぜかぼくは、看護婦さんが天使たちの背中に電池を入れていた時、電池を包んでいたかたいビニールフィルムを音を立てないように静かに丸める、その筋張った掌を思い出していた。

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トモマリ(六井 象)

短い読み物を書いています。( http://tomokotomariko.hatenablog.com/
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