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文化特有のアイデアをより多くの人へ伝える|文脈の中を泳ぐデザイン #2

『文脈の中を泳ぐデザイン』は、私が2018年11月に上海で登壇した内容を文章に起こした全5回のシリーズです。事例を交えて、私がどのように文脈を行き来しながらデザインしているのかについてお伝えします。

今回は、「フーハ」という展示デザインの事例を通して、ある文化に特有のコンセプトをどう他の文化の人にもわかるよう表現するかということについてお話しします。


0. なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか
1. 多文化性を表現するひとつのストーリー
2. 文化特有のアイデアをより多くの人に伝える
3. ふたつの文化をすり合わせた新しい価値
4. 異文化間の「解釈のギャップ」で遊ぶ


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FUHAの言葉に込められたメッセージ

『FUHA — The expression of air』は、ダイキンがイタリア・ミラノのデザインウィークで発表した空気をテーマにした10個のインスタレーション作品の展示です。

最初にダイキンの方たちが持ってきたのがこの「FUHA」という言葉です。これはダイキンが商標登録しているほど思入れのあるキーワードなのですが、実は日本のオノマトペから来ています。

FU(ふー)は息を吹きかけて何かを冷まそうとする様子、HA(はー)は反対に何かを息で温める様子を表しています。

日本の人は、これらの音を言葉にするとき、息を吹きかける手の感覚や物の温度、息の強さなどを思い出し、とても身近で個人的な情景を思い浮かべます。ダイキンが、そういった個人的な空気との体験を再現できるくらい、空気にこだわりを持っていることを伝えたいという依頼でした。

しかし、その言葉の向こう側にある情景を別の文化圏の人に説明するには長い文章が必要になります。アイデンティティの役割として、この日本をよく知る人にしか伝わらない概念を言葉で説明しなくても多くの人にわかってもらう必要がありました。


西洋の視覚言語でFUHAを語る


FUHAという名前の中には、個人的さ・親密性・敏感さ・繊細さなどの意味が無意識に含まれています。しかし、その文脈を共有していない人には、これらの隠れた意味を瞬時に感じ取ることはできません。

そこで反対に、読み取る側にとってどんな色やかたちがこれらの意味とつながっているのかを探ることにしました。その視覚言語の中で、コンセプトと調和する表現を作り出せないかと思ったのです。

まず最初に行ったのは、自分的にFUHAのコンセプトを表現できそうなイメージ画像やカラーパレットを集め、それをプロジェクトに関わる同僚に見せることでした。そして「どのイメージから個人的、親密さや繊細さなどのキーワードを感じるか」を教えてもらいました。

そしてわかったのは、「何かが優しく風に吹かれている瞬間」「彩度が低く色幅の狭い色合い」に親密感や繊細さを感じるということでした。


ディテールを突き詰め、コンセプトをよりシャープに

それから、FUHAという文字が吹かれた様子でこの2種類の動きを表現しようと試みました。

FUとHAがそれぞれの別の種類の息であること念頭に置きながら、実際に紙に息を吹きかけて観察しつつ、カーテンのように前後になびかせてみせたり、または花びらのように舞っているようにみせたりして、最適な形を探しました。

次に色合いでは、「個人的な記憶」を想像させる暖色のグレーに色幅を絞ることにしました。またインスタレーション作品で意識して使われている、無垢でナチュラルな素材らしさを尊重し、グラフィックでも真っ白や真っ黒など無機質な色を避けることにしました。

そして行き着いたのが、こちらの2つのロゴです。

ポスターではこのロゴを写真と入り組ませて、遠近感や空気感で遊びました。

またロゴと同様に、息に吹かれたようなアルファベットの字体も製作し、SNS用に作られたタイポグラフィーの画像などに使いました。

カタログでは色やサイズの違うページを組み合わせ、招待状では透明度の違う素材やエンボス加工を使うなど、展示デザイン全体でメッセージが一貫して伝わるよう、それぞれの媒体の奥行きや動きなどで繊細な空気感を表現しました。


相手の文脈で説明する

FUHAのコンセプトのように、文化特有のアイデアは時に閉鎖的で、またその文化に浸っていればいるほど、言葉にするのが大変な場合がよくあります。

それをデザインにする時、一旦そこから距離を取り、どの要素が伝わっていてどの要素が伝わっていないのか、そして、伝わりにくい要素は相手の文脈ではどのように表現されているのかを知ることが、大変役に立つと思います。

FUHA — THE EXPRESSION OF AIR のグラフィックデザインの詳細は以下のページでご覧になれます。


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次回は、あるラーメンレストランのブランディングを通して、異文化が融合したアイデアの視覚化という課題についてお話しします。

「そもそもなぜ文脈とデザイン?」「文脈とデザインの関係を考え始めたきっかけは?」については以下の記事でお話ししています。


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