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音を聴きとるトレーニング方法

「ほんの少しのあいだ、すごく静かにすわってみよう。そして耳をすましてみよう。今度は紙に聞こえた音をぜんぶ書き出してみよう。」

これは「サウンドスケープ」という概念の提唱者レーモンド・マリー・シェーファー氏と、今田匡彦氏による共著である「音さがしの本 リトル・サウンド・エデュケーション」という著書の冒頭の一文です。

ぼくは自らもずっと心がけているし、インターンシップ生や音響を学ぶ学生さんに接する機会があるときにもこの「少しのあいだ耳をすまし、聴こえた音をぜんぶ書き出す」ことを「音を聴きとるトレーニング方法」としておすすめしています。寝ているとき以外いつでもどこでもできるトレーニング方法として。電柱にぶつかったり階段を踏み外さないように気をつければ外で歩きながらでもできます。

やり方はこうです。

1.聴こえた音の種類を記します

聴こえた音は紙に書いても書かなくてもいいけど、最初のうちは紙に書いて時間も1分とか短く区切ってやるのがいいと思います。「車のエンジン音」「エアコンの動作音」「自分の鼻息」「カラスの鳴き声」いろいろと挙がると思います。

2.次は聴こえた音の音量の大きさも認識します

「除湿機の動作音」よりも小さい「エアコンの吹き出し口の音」よりも小さい「PCのファンの音」よりも小さい「正体不明だけど聴こえる電源のジーって音」よりも小さい「重ねてた書類がずれて擦れた音」がいま一瞬鳴ったな、とか。

3.次は聴こえた音がどの方向から聴こえてきたのかもいっしょに認識します

「右斜め後ろ上から」「左下から」、車の音なんかは「右から左に移動」しているものも多いですよね。

4.さらに次は音色を、さらに次は音程を、さらに次は反射音や響きを、、、

とキャッチする情報量を増やしていくのです。

これを繰り返していくと、同じ一瞬の音を聴く行為から、より多くの情報を受け取ることができるようになります。そしてそのうちに、耳をすました状態がごく当たり前の「癖」になっていれば、、、「おめでとう!サウンドエンジニアの職業病の入り口へようこそ!」といった感じです。

これは感覚的な話なので共感してもらえるかわかりませんが、ぼくの場合はこの耳超サイヤ人状態になったときに、物が美しく並んでいるかとか、ゴミが落ちているとかに気がつきやすくなったような、視覚の方の視野が広がったように感じられもしました。気のせいかもしれませんが。

自然の音は無限のハイレゾリューションです。屋外ではときにイヤフォン、ヘッドフォンを外すことで聴こえてくる、時間の経過とともに現れそして消えていく風景もあると思います。

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「音さがしの本 リトル・サウンド・エデュケーション」は、音楽に限らない「音」に能動的に触れるためのエクササイズやアクティビティが満載の、しかもそれらを子どもたちに向けてゲーム感覚で楽しめるようまとめた著書です。見よ!このめちゃめちゃ楽しそうな目次を!小さな子どもにとっては耳をすますことは感性を育むし、うるさいだけだった蝉の声や車のエンジン音なども楽しくなる。地球がすこし好きになれる一冊です。


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