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低音を分類してコントロールする

まずはじめに。低音のコントロールはむずかしい。再生環境(スピーカーの大きさや再生空間、スピーカーでなくイヤフォンやヘッドフォン再生というパターンもある)により再現性が大きく変わり、すごく増えたり、逆になくなったりすることがあるからです。

海外のポップ・ミュージックにくらべて、日本のポップ・ミュージックは低音が少ないと感じたことはありませんか?
「あ、べつにない?」と話を終わらせたくなくて、ぼくはいまこのテキストを綴っています。なぜなら、低音が少ないことがめちゃめちゃバレやすい時代がきているからです。なぜバレやすいのか。ひとつはイヤフォンやヘッドフォンを含む再生機器の特性がごりごりに良くなっていること。たぶん世界で最多数の人が利用している音楽再生システムのApple EarPods(ぼくも愛用してます)も耳穴との密着度を意識するとしっかり低音が鳴ります。もうひとつはYouTubeやSpotifyなどのストリーミングサービスの台頭。ストリーミングサービスはコンテンツごとの音量が自動で揃えられるシステムが採用されていて、周波数バランスの差がとてもわかりやすく比較されてしまうため、です。
それに加えて、海外のメインストリームの音楽の低音楽器の捉え方が近年(2016か2017年〜くらいの感覚)あきらかに変わり、エンジニアリングのスキルが確実に上がっている印象があるのです。いわゆる「時代の音」というやつなんだと思います。

「そんなに低音の再生できる環境などない」という方でも、大抵のちゃんとしたヘッドフォンならば重低音の存在は聴き取れます。頭内定位した音像が横一線に並ばず、低音は下にストンと下がっている音源はしっかりと低音の存在がある音源です。ヘッドフォンでは物によってはハウジングを耳に対して少し押し当ててやる方がわかりやすいかもしれません。

で、自分が「これはやばみが深い……」と思うサウンドにはいつも低音があって、そういうサウンドのマスタリングを目指したいと思ったときに冒頭の低音のコントロールのむずかしさにぶち当たるわけです。

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まず、この記事内での「低音」はボーカル以下の周波数帯で鳴る低音楽器(ほとんどのポップスの場合はベースとキックが該当する)による低音を指すこととします。周波数的には250Hz以下くらい(この数字はそんなに大事じゃない)。この低音を2種に分類することで理解がかなり深まると同時にコントロールがしやすくなります。

1.わかりやすい低音チーム

2種類のうちのひとつは「わかりやすい低音チーム」とぼくは呼んでいます。低音の中でも周波数的に高いチームで、下が80〜100Hzまでの層です。この周波数帯域は低音楽器たちの第2倍音、第3倍音を含み……などというむずかしいことは忘れて「わかりやすい低音チーム」で覚えて問題なし。このチームの周波数帯域であれば、大口径のスピーカーでないフルレンジスピーカーの再生システム(ラジカセ的な)でも十分に再生することができるので、どんな再生システムでも再現性の高い低音です。

で、日本のポップ・ミュージックの低音はこの層に集約されていることが多いのです。誤解のないように書きますが、この周波数帯域で低音を表現することもきちんとした技術のひとつです。この帯域での表現がなければ小さなスピーカーでの再生時には低音楽器の存在そのものがごっそりと抜けてしまう(=音楽の内容が変わってしまう)事態に陥ります。


2.わかりにくい低音チーム

対して80Hz以下の低音(音楽的には20〜30Hzあたりが下限でしょう)は非常に「わかりにくい低音チーム」です。いわゆる重低音と言われるところ。わかりにくい理由は人間の聴覚がこの層の低音にはとても鈍感である(聴こえにくい)ことや、そもそも音として再生できるシステムが少ないからです。
でもこの層の低音をもっと大事にしていきましょう!とぼくは声を大にして言いたい!(言った)。ここがない音楽は、まさに音像の下部がレターボックス(金曜ロードショーの画面上下の黒いあれ)の黒味で抜けているような表現になってしまうのです。
もっと言うと「わかりにくい低音チーム」が薄い音楽は、低音がしっかり再生される大きなスピーカーシステムで聴いても小さなスピーカーシステムで聴いても「そんなに代わり映えしない」のです。大きなスピーカーで聴いたときに「もっと」感動できる音で仕上げたい!そう思うわけです。

じゃあ何を制作時に気をつければよいか

ミックスでもマスタリングでも、じゃあ何を制作時に気をつければよいか。それは「わかりやすい低音チーム」と「わかりにくい低音チーム」のバランスです。低い低音をしっかり出したい時に、後者だけではなく前者も一緒にちょっとだけブーストしてやるとしっかり低音が持ち上がります。逆に「わかりにくい低音チーム」だけを持ち上げても暖簾に腕押しで全然引っかかってくる感じがないと思います。サイン波系のシンセベースがめちゃめちゃメーターが振れてるのに音量感を感じないのを体験したことがある人は、それです。
それと人間の脳には倍音構成から基音を推し測って、あたかもその基音までが聴こえているように知覚(錯覚)する現象もあります。それに関しては興味があれば「Missing Fundamental」でググってみてください(丸投げ〜〜〜!)。

最近は2Mixに対するアプローチであるマスタリングでもかなりの精度で低音を調整できるツールがプラグインなりで増えてきていますが、マスタリング時の調整だけでは場合によっては「音がモヤモヤする」「スピード感がなくなる」などネガティブな印象につながることもあります。世界にも誇れるサウンドを仕上げていくためにはアレンジ段階、ミックス段階でも低音を考え、コントロールしていく必要性をひしひしと感じているので、音楽表現のまさに「土台(ボトム)」にあたる低音をしっかり含んだ音楽を一緒につくりあげていきましょう!

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