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マスタリングにおけるカット方向のEQ

画像はEQカーブでつくったウォーキング フォーキーの腕です。ご査収ください。

「EQはカット方向に使え!」というような教訓を本や雑誌やネット記事ではよく目にします。ミックスにおいては結構同意できるけど、マスタリングにおいては現実には(少なくともぼくの場合は)そればかりではむずかしい。トニー・マセラティのミックスだけが届くならそれでもいいのかもしれないし、別にそういう問題でもないのかもしれない。

で、カット方向にEQを使えと色々なところに書いてはあるけれども、とりわけマスタリングにおいては使い方のイメージがあまり沸きづらいのではないかと思います。大体の記事には「不要な音を削って」っていう記述がありますが「不要な…音…?(ガタッ)」ってなります(よね?)。

実際のぼくのマスタリングプロセスの中にも数カ所、カット方向のEQを使用しています。その使い方は明確に意味を持たせているので、ご紹介します。


1.キツイ成分を抑えるロキソニンEQ

ナロンエースEQでもイブクイック頭痛薬DX EQでもなんでもいいんですけれども、効くのは頭痛にではなく耳にキツイ成分にです。耳にキツイということでこれはぼくの場合は2kHzより上、中高域以上の周波数で2箇所くらいピンポイントで抑えることがあります。この使い方はめちゃめちゃイメージしやすいですよね。ただし「耳にキツイ」と「派手さ」は表裏一体でもあるので、カットの量はその時々によります。またこの「シンプルに抑える系」のカットEQの使用法の場合は、入力信号によって減量が可変する「ダイナミックEQ」を使用するのも、「この成分抑えたぜ」的な音像変化が少ないので大変おすすめです。痛みに早く効くのが通常のパラメトリックEQで、眠くなりにくいのがダイナミックEQだと思ってもらえれば多分間違いないと思います。


2.浮き彫りにする彫刻刀EQ

彫刻刀EQって名前もいま適当に付けたんですけど、イメージとしては木版画を彫刻刀で彫るその通りです。出したい音の周り(EQなので上下の周波数)を削る。ただしマスタリング的には上も下も両方削る必要性はぼくは感じていなくて、下だけを削っています。一番効果的なのはボーカルに対してで、ボーカルはブースト方向のEQだけで仕上げていくとどんどん声が人間的でなくなると思っているのですが、そういう音質変化なくボーカルを浮き彫りにできるのがこのEQです。本当のことを言うとぼくはこのEQと、ブーストのEQと、ボーカルには両方使っていますが、ボーカルを固くし過ぎずに大きく聴かせるのにはこのEQが一役買っているのです。


3.何かと何かを仕分けるボーダーラインEQ

ここで言う仕分けというのは「いる」「いらない」を仕分けるのではなく、「キック」と「ベース」や、「低音」と「それ以外」、「歌」と「ウワモノ」など、ある要素と要素の間に線引きをするイメージのEQです。
マスタリングを施す音源は(ご存知の通り)すべての楽器がステレオトラックにミックスされた状態のものです。そして各楽器の周波数分布は完全に分離していることなどは絶対になく、混じり合っている状態です(周波数帯域が被っているという言い方をすることもあります)。で、このEQでも各楽器を完全に分離させるのではなく(そんなことはEQだけではできない)、ほんのり薄い影の線を引いてあげるイメージ。
むずかしいですね。具体例を提示します。キックとベースの入っている楽曲に、Q幅は広すぎない真ん中くらい(EQによると思いますが数値的には3〜6くらいかと)で-0.2dBに設定したEQを、50Hz、55Hz、60Hzと周波数を切り替えて当ててみてください。それぞれでキックとベースどちらがより見えるかの関係性が変わると思います。


あーー、本当はここでは細かい数字とかはつまらなくなるから書きたくはなかったのですが、書いてしまいました。大切なのは人が使っている数字ではなくて、明確な目的意識の下でのプロセッシングですからね。

書いちゃったついでにもっと蛇足ですが、低域(100Hz以下の理解でいいと思います)に対するカット方向のEQは、やり過ぎるとスコッと低域が居なくなってしまうので、中高域に対するEQと同じ数値感覚でやってはだめですよ。この答えは「等ラウドネス曲線」という線カーブとにらめっこすると見えてくると思います。蛇足蛇足。

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