この空と海さえあれば。ねぇほら地球って、丸いんだよ【クロアチア・ドゥブロヴニク】

これ以上の天気はない、と旅先で思えることができたなら、もうそれはあなたの勝ちと思っていい。

勝ち負け? 何にかは分からない。けれど思っていいと思う。今日は私の圧勝だった。

クロアチアのドゥブロヴニクにおいて、これ以上の天気と季節はない。

もう満足だ。もう次へ。

私は気に入った景色や場所があると、できれば2度訪れたいと思ってしまう性癖があるらしく(たとえばミャンマーのバガン遺跡や、インドのタージマハル)、今回のようにゆっくりと滞在できるスタイルの旅は歓迎だった。

でも、もう大丈夫。ドゥブロヴニクに思い残すことは何もない!

そういえば余談だけれど、昔私が思春期の頃「あいのり」という番組が流行っていた。いつだったっけな。とても初期の頃に、どこかの海沿いの街で合流した女の子が、一番最初に出会った時に、海のかなたを指差して「ほら、地球って丸いんだよ」って言っていた。

いやん、キザやな、って思ってた。

でも、今日くらいは言ってもいいかな。

ほら、地球って丸いんだよ、と自分に言いたい。だってほら、目の前に見える水平線が、まっすぐじゃないんだもの。と思うくらいには、今日の私は天気に浮かれている。

***

朝起きて、今日だ、と思った。一週間ほどの滞在で、晴れたらあそこへ登ろう、と思っていた。スルジ山。訪れるまで知らなかったけど、みんなが登ったほうがいいよっていうから、じゃあ、と思って満を持しての今日行こう。

朝、起きたらまず8時に東京の編集者さんとスカイプで打ち合わせがあった。2時間弱、話しただろうか。時間を作ってもらえてありがたい。じつはその前、また眠れなくて早朝から作業をしていた。ひとりだと私はなかなか毎日のリズムが作れない。

スカイプのあとまた作業して、窓の外が晴れていたから、うん、ほんとにスルジ山へ行こうか、気分転換を兼ねて、と着替え始める。日焼け止めを身体に塗って、外出用の日焼け止めスプレーも持つ。アラサー(くっ...)の肌をなめちゃいかん。

アジアと違うな、と思うのは虫除けスプレーを持たなくてもいいことだった。なぜヨーロッパは刺されにくいんだろう? 彼らの何が違うのだ? それとも私がアラサーに近付いているからなのか...(くぅぅ...)。

ソベを出たら、歩いてバス停まで向かう。海沿いの小道の階段を登って、見晴らしのよい場所を走るメインロードにたどり着くまで、5分と少し。

時刻表を見てくるのを忘れた。でもバスは5分と待たずに来た。1時間に2本しかないのに、よかった。今度は時間を調べてから家を出なくては、と至極当たり前のことを思う。街中までは15分、金額にして18クーナ。日本円だと250円くらいだろうか。

***

頂上に着いたとき、じつは、あれ、なんだこんなもんか、と思ってしまった(いや、めっちゃきれいではあるのだけれど)。よくある観光地のロープウェイ。そんな結論を出してしまいそうになったとき、展望台を降りたワイルドな山場の向こうに、人影があるのを見つけた。

裏の階段を降りて、レストランとオープンエアのカフェを過ぎたら、もう少し先へ進める道があるらしい。行ってみたい。

そう思って進んだ先で出会った、景色、匂い、ひと、笑顔。そしてインドぶりに再会した、道を自由に歩く牛。牛を見かけて、どこかほっとした私は、ちょっとやっぱり感覚がおかしくなってきたんだろうか。

「犬・猫以外の動物が、自由に道を歩いている! よかった!」と結構心底安心した。ロンドンにはいなかった。多分、東京にもいない。うーん、牛が歩いていたほうが、なんだか健全な感じがするのだけれど。そういえばクロアチアでは、まだ野生のリスもヤギも猿も見ていないなぁ。

***

行きたい岩の先に、先客がいた。くっ……と思う。でも、たまには話しかけてみよう。だって私もそこへ行きたい。

「日本人ですか?」と聞いてみる。振り返ると、男の子だった。コリアンかな、とも思っていた。でも、東洋人だろうと思っていた。

アタリだった。

年齢を聞くと、19だった。

じゅう きゅう さい

一回りも下やんけ

彼と少し、話をした。スペインのバルセロナに留学中のこと、スペイン語が難しいこと、クロアチアへは一人で旅をしに来たこと、この展望が、気に入ったこと。

帰り道は、いばらの道だった。観光客が訪れないような、展望台から数十メートル離れた岩場まで行ったから、バラみたいにトゲトゲした草の先で、少し足や手が傷ついた。ちょっとだけ、痛かった。

でも、それでもそこから見る景色が見たかった。傷なんて、いつか治る。私は晴れた今日の日に、ここからの景色が見たい。

***

帰りに岩場で足を踏み外して、痛いな、と思ってもう一度岩場に登る。

ハワイで買った、お気に入りのカラフルなサンダルを履いていた。汗をかくと、少し滑る。でも、このときばかりは少し滑り過ぎだな、と思っていた。

ふと足がズキズキする、と思って足元を見ると、左足の親指から土踏まずまでが、真っ赤に染まっていた。自分の血だった。

まじか

と思った。この旅初めてのこの量の流血である。

うっそぉーん(痛い)

と焦りながらも、とりあえずこの岩場を登り切るまで、止まることはできない。だってもう、見晴らしの良い展望台のそばで、2時間は日光にあたっているのだ。アラサーの肌(くっ…)はこれ以上日差しに耐えられない。

展望台までたどり着いて、スタッフに救急箱みたいなものがないか、もしくは売店でそれが買えないか、聞く。「残念ながらウェットティッシュしかない」と言われて、「うんそうだよね」と思う。

うーん、絆創膏、ホテルに置いてきちゃったよ。身軽に登ろう、と思って。

サンダルの紐は、布だった。真っ赤に染まってる。まずは傷とサンダルを洗い流さなきゃ、と思ってトイレに向かう。最初に流れた血が、乾き始めてた。ちなみに私は女子だけど、血がものっすご苦手である。

並んでいた。とりあえず、洗面台の方に向かう。足を上げなければ洗えない。周りの女性たちに事情を説明して、ちょっと見苦しい格好になりますけれど、いいですか、と聞いてみた(一応)。

みんな、心配してラインから外れて集まってくる。そのうちのひとりが、消毒液と絆創膏を持っている、とかばんを開ける。

ブルガリアから家族でドゥブロヴニクに旅行にきたという、可愛らしい女性だった。ありがとう、と伝えたくて、ブルガリアで何と言うか教えてもらって、「ブラゴダリャ(Благодаря)=ありがとう」と言ってみる。

青い空、青い海、オレンジの屋根、時折流血。困ったときに助けてくれる、名前と笑顔しか知らないブルガリアのひと。

なんでさわやかな話題に流血話を混ぜたのかは分からないけれど、たまにはこんなことだって、当然あるのだ。

それでいいのだ。これでもいいのだ。今日も楽しかった。幸い傷は、血のわりにはめちゃくちゃ浅かった。もう治った。と思う。

帰りは旧市街に寄って、クロアチアでとれる白い石と、ターコイズの丸い石がついた小さなピアスを買った。この旅で一番買っているのは、たぶんピアスだ。


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伊佐 知美

ともみの部屋

伊佐知美の、世界一周の旅とエッセイ。2016年4月〜
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