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通り抜ける風と夏色のオレンジ【オーストリア・ウィーン】

通りに面した風の通り抜けるテラス席で、髪を結い上げた肌の白い女性と、オレンジ色のポロシャツに、陽にあたって青く光るサングラスをかけた男性、その向かいに座る紺色のTシャツを着た男性が、3人で楽しそうに話している。女性の顔と、肩と腕が少しほかの肌の色よりも赤い。きっと、今日の気持ちの良い晴れの日を、日光の下で楽しんでいたのだろう。

男性の手にはビール、女性の手には私の知らない名前の、やっぱりオレンジ色のカクテルが握られていた。

通りを行くひとはまばらだけれども、人通りは絶えない。片手に小さなビール瓶を持って歩く若い男の子の2人連れ、ベビーカーを引いたママと、その前を走るようにして進む子ども、赤く光る塗装がまぶしい、オープンカーに乗ったカップル、手をつなぐ老夫婦、その隣を行くトラム。すべてがウィーンの街を彩っていた。

3人組と同じカフェに入って仕事をしていた私は、電源を求めて少しテラス席よりも中に入った場所に座っていた。けれど、店に入った17時よりも、20時になったいまは大分陽が傾いてきていた。空はまだ青く、けれど建物に当たる光はオレンジ色で、雲は少しずつピンクになって、風が少しずつ冷たくなっていく。そんな気持ちのよい20時5分だった。

私も、テラス席に移動したいな。充電も100%になったことだし。とちらりとテラスを見ると、さきほどから一心不乱にパソコンに向かう私を気にしてくれていた、ウエイターが話しかける。

「君の席を予約のために使いたいんだけど、テラス席に移ってくれるかな?」

私の心が読めたのだろうか。それとも、日本にいるときと同じように、私は感情をまだ顔に出しっぱなしでいるのだろうか(それともただもう帰ってほしいのだろうか、100あり得る)。

もちろん、と私は答える。風が気持ち良いから、ちょうどテラス席に行きたいと思っていたから。ねぇ、もう少しこのカフェにいていい? いま原稿がはかどっているところなの。このカフェ好きよ。

と伝える。ウィーンの中心部、オペラ座にほど近い、小さなカフェでの出来事だった。

せっかく海外にいるのに仕事だなんて、と少し悲しくなる時がある。けれど、ホテルを出るときにパソコンを持って、世界中から観光客が訪れる街の中にあって仕事をするのも、悪くはないな、と思う。

日本に一時的に帰るまで、あと1ヶ月を切ってしまった。正直に言ってしまえば、私はまだまだ帰りたくない。気持ちの良い風の中で、もう少し。肌を焼きながら、行けるところまで行きたかった。

夏が好きだ。夏が好き。ほんとうに夏が好き。

肌が焼けて、いつかシミができてしまうなんて怖いけれど、今日の気持ちが良い陽を浴びずに避けて生きるなら、私はいつかシミができて今日の思い出がカラダに刻み込まれる方がいい。

明日もできたら晴れてほしい。ここから片道4時間かけて、けれど行きたいと思っていたハルシュタットの街へやっぱり行こうと、さっき思った。電車を調べる。チケットの予約の有無を見る。値段を見て、時刻表を見比べて、朝は6時に出よう、と決める。夜は遅くとも22時には家に帰りたい。治安のよいウィーンの街でも、暗い中を長く独りで歩くのはまだ自分に対してあんまり許してあげられない。

もう少ししたら、チェコに移動する日がやってくる。別になんてことのない、気持ちがよかった夕暮れの日の時間。


いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。