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北半球と南半球をつなぐもの【ニュージーランド・クライストチャーチ】

飛行機が到着して、CAに挨拶をして到着ゲートに向かおうとするその一瞬、外気を感じる。

寒っ…と思う夜中1時のクライストチャーチ。初めて降り立ったニュージーランドは、まだ空が暗くなりきって間もない夜のことだった。

明るくなるまで空港で待つか、と考えながら、WiFiをつないでこれからの行程を考える。眠くて頭が働かない。けれど、今日の宿すら決めていなかった私は、せめてどの方角へ向かうかを決めなければ、ここから一歩も動けない。

ニュージーランドへ行こうと決めたのは、前日の朝7時のことだった。夜眠る前に、行かなくていいのかな、と少し思って、夜中偶然目覚めた時に、オーストラリアからの往復チケットが手頃な価格で予約できそうであれば、どんな弾丸でも行ってみようと考えてもう一度眠った。

ニュージーランドの南島は寒いらしい、と聞いていた。これまでの人生、南へ行けば行くほど暖かくなるものだと思い込んで生きてきたけれど、南半球は南へ行くほど寒くなる。

北欧に似ている、と着いて外気に触れた瞬間、ざわりとあの夏の始まりの季節を思い出す。

デンマーク・コペンハーゲン、そこから電車で向かったスウェーデン・ストックホルム。海を越えてすぐに迎えるフィンランド・ヘルシンキ、そして少しだけ立ち寄ったバルト三国・エストニア。

少し冷えた空気が気持ちをピリリと引き締める。どうして私はサンダルでこの国に参戦したのだっけ? と思い返して、ホント頭悪いなと自省する。

外は9℃、と機長は知らせていた。

スーツケースの奥の奥の方から、エアーズロック以来取り出す上下ヒートテック、ウルトラライトダウン、その他諸々の秋冬装備を引っ張り出す。薄く薄く、圧縮されたその袋には、まだオーストラリアのアウトバックの荒れた空気が閉じ込められている気がした。

***

北欧に似ている、と街を歩いてもう一度思う。昼間は打って変わってとても暖かく、人々はサンダルにTシャツで美しい街並みを闊歩してた。

震災復興の街だ、と青い空と穏やかな空気、崩れたままになっている教会やビルのコントラストに想いを馳せる。

今、目の前にある街は儚く鮮やかでとてもきれい。けれどきっと、この街はもっとずっと、人の心を掴む街並みをしていたのだろう、と今は亡き建造物や人を透かして歩く。

イギリスと深い関わりがあった過去を持つ、ニュージーランド。ロンドンのようだ、と言えばいいのかも知れないけれど、それよりはもっと建物が低くて、人が少なくて、山が近くて、道が広かった。

そう、道が広い。スペースが、余白がたくさんある。

どうして先を急ぐの、と聞かれた気がした。もう少しここにいればいいのに、とファラフェルを手渡してくれたおじさまが笑う。

テカポ湖へ。

テカポ湖へ、行きたかった。

そのためだけに来たと言っても過言ではない。あの星空が、見れるだろうか。ルピナスというピンクや紫の花の盛りの時期で、言わば今は年間通じてもっとも、といえるくらいのハイシーズンであるようだった。

夕刻。私の背後、心地よい音楽が流れている。目の前のベンチで小さな子がこっちを見て遊んで欲しそうに笑っている。向こうの通りでは、これからゲリラ的な映画上映会が始まるようだった。「リ・スタート」という名前のコンテナを活かしたショップ群は、クリスマス前のセールで昨日、今日、あとは来週の数日を、オセアニアでは珍しいくらい遅い時間まで営業するらしかった。

日没は、9時前。6時を過ぎてもまだ昼間の3時のようで、まだまだ日暮れの気配は感じられなかった。

色が、なんとなく少しずつ薄いような気がしていた。カラフルなそれが、どことなく上品に見える。そこが、北欧を想起させる所以かもしれないなぁ、と思いながらスマホを手にとり、今日これからの仕事の内容をチェックする。

旅と、仕事のグラデーションで形成される日々。もはやそこに境目はなくて、日本語も、英語も、交じり合いながら、ふらりゆらり、生きていた。

クライストチャーチ。

北半球と南半球、こんなに遠い場所なのに、近しい、と思うなんて、地球ってとても不思議だ。

さぁ明日起きたら、もう少し南へ向かおう。山を越え、森を深めて、エメラルドグリーンの湖が見えてきたら、そこにもきっと、また昔から思い描いてきた景色があるはず。


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