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旅先で買ったワンピースの肌触りと、あの人の声の記憶。

「トミスラブ」という名前の黒いビールが、本当は一番美味しくて人気なんだよ、とその人は笑いながら言う。

背景はクロアチアの首都・ザグレブの中心部、美味しいお店が並ぶ、緩やかな坂。

「あ、あとお皿を2枚くださいね」と、あらかた注文を終えたあと、その人はウェイターに告げる。「これは、ジャパニーズスタイルだね」と言われて、一瞬何のことだろう、と首を傾げそうになる。

「隣を見てごらん。ね、家族でも、カップルでも、みんなそれぞれのディナーを、一皿ずつ楽しんでる。日本では、みんなシェアをするね。だから、お皿は言わないと出てこない。今日は、2人でシェアをしよう」と続けていく。

日本の小さな島の旅を共にした、1つだけ年下のその人。クロアチアを南からぐっと北上しながら旅をしていた私を、クロアチア中央駅の出口で、昔と1ミリも変わらない姿で迎えてくれて、そして街を案内してくれていた。

***

その夜は、当時フランスを舞台に行われていた、UEFA EURO 2016の試合の日。しかも、クロアチアのチームが戦う日だった。

「ねぇ、今日はサッカーを観るの」と聞いたら、「どこで観ようか?」と答えが返ってくる。最初から一緒に観てくれるつもりだったのだろうか。どこで観る、なんてその先の選択肢が私に分かるわけないやん?と思って、ねぇどこで観られるの、と話を弾ませていく。記憶。

食べて飲んで、ほろ酔い気分で21時過ぎから始まるサッカーの試合が観られるお店を、「トミスラブ」の缶を片手に、2人で飲みながらまた探す。

店も道も坂も街も、クロアチアを応援する声と気分で、盛り上がっていた、夏の空の下。

延長戦を経て負けた、張り詰めていた空気がどこからか抜けていくような、ふぅ、はぁ、というため息が街のそこここから聞こえてきそうな。日が変わる間際のザグレブの、教会の脇。

覚えている。「クロバチカ」「イジュヴェリ」「アイモセ」。

クロアチア語の響きが好きで、なぜかその街角にずっと立っていたいと思ってしまって、あぁもう少し、もう少しこの場に居られたら、と。

スプリットに、ドゥブロヴニクに。もう一度戻りたいと思う、それは今この時にも。

***

あぁ、私は、私たちは。たしかにあの時あそこに居た。

写真を振り返るとありありと蘇ってくる、けれどもう二度と戻れない、2016年の夏の頃の旅の日々。

あくる朝目が覚めて、昨日着ていたワンピースの裾が薄茶色に染まっていて、そういえば隣に座っていたクロアチアの人が、私に「トミスラブ」を盛大にぶちまけた……ような記憶が、蘇ってくる。

青と、白が混ざった、タイのチェンマイで買ったお気に入りの、ソレ。

日本に帰ってきて10日以上が経った今日も、まだ私の旅のスーツケースにそっと眠る、それ。

記憶が鮮やかに蘇ってきても、「トミスラブ」で汚れた跡がぜんぶは消えない、そのお気に入りのワンピースが手元にあっても、けれどどうしても旅の最中には戻ることはできない。


旅に、出なければ。と、半ばもう中毒のように思えてくる。夏の風、湿気の少ない街、慣れないスパイスの香り、聞き取れない発音の並ぶ異国の雑踏、マーケット、道端の笑い声、私を見つめる、知らない眼。

まだやっぱりもう少し、旅に身を浸しておきたい、とカラダが言う。まぁ、そろそろ耐久戦の問題になってくる。お金と、仕事と。

ふむ。好きだった、クロアチア。今もまだ、行けるならばもうどこまででも、行きたい。

もういっそこのまま行けるところまで|伊佐知美|note(ノート)

ワンピースひとつ、手に取るだけでふわりと薫る旅の記憶。あぁきっと2017年も、私は移動を続けてしまうのかもしれない、いやいやどうしようか、とほろ酔い気分で考える、すごーく暇な、三が日の最後の夜。新潟は、やっぱり東京よりも少しだけ寒い。

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伊佐 知美

世界一周の旅とことば。旅と写真と文章を愛してる。2016年4月から地球を放浪しています。

ともみの部屋 #2

伊佐知美の、世界一周の旅とエッセイ。2016年10月〜
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