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そこはまるで夢の中を歩いているような。【ニュージーランド・テカポ】

そこに着く直前に、血を吐くような1年、と形容したことがあって。「では来年は血湧き肉踊る年に」と言われた直後で、私はそれだからなのか、到着した瞬間に「体内の血液が蒸発して、浄化されて、そして入れ替わるような」イメージを抱いた。

どこまでも続く真っ直ぐな道。「70キロ先を右折」右折したらば、「40キロ先を左折」。そんな風に真っ直ぐな、真っ直ぐな一本道を、300キロ走ってきた先に見えてきた、テカポの湖。

湖に到着する20〜30キロほど手前から、ピンクに紫、白に淡い黄色のルピナス、という少し背丈の高い花たちが、テカポ湖に向かう観光客たちを迎えていた。

「あぁ、そう……これ!本当に、あったんだ」と、ひとりドライブ続ける運転席で、思わず笑いそうになる。

オーストラリアで別れた旅の人が、「旅には音楽が必要でしょう」と手渡してくれたスピーカー。大好きな音楽を少し大きめの音量でかけながら、青く光る湖へ向かう。(乗っていた車は日産のティーダだったけれど、CDしか聞けなかった。そして私はCDなど持ってはいない)

あまりにも気持ちがよくて、私は写真を撮るために降りた先でも鼻歌を歌っていたらしい。人は前後数キロ先まで誰もいなかったけれど(多分)、牛が、羊が、歌の流れるモトである私の方を、じっと見ていた(なんだあいつ、と思われている気がした)。

ずっとずっと、見たかった景色というものが、誰にだってひとつやふたつ、あると思う。私は20代の毎年と、29歳から始めた少し長い旅の中で、そのひとつひとつを、丁寧につぶしていく作業を続けていた。

ルピナス咲き誇る、テカポの湖。

テカポへ行くならば、ルピナスが咲く季節にしようと決めていた。

通常、旅先の写真というものは、撮影者だったり大人の事情だったり、見たものよりも「もっとキレイ」になってしまうことが定石で、だからして私は「過剰に期待」を悲しいかな心のどこかでしないようにしているフシがある。

けれどここは、「思った通り」の場所だった。描いていた、テカポの青とピンク。いえ想像よりももっとミルキーで、晴れの日だけでしょうこの美しさは、と思いきや、曇だって、雨だって、同じミルキーな色を魅せて私を驚かせる。

湖と、花と、空と、星。あとは少しの、カフェとスーパー、宿、人、モグラ?

少し車を走らせると、「ロード・オブ・ザ・リング」か、と声が出る程の、広大な自然が見える。

国立天文台のあるマウントジョンの山頂に行くまでの10キロの道のりは、道路脇に咲き渡るルピナスの花がなんだか天国のような様相を呈していて、本来の地球の美しさを見せつけられている気がした。

(私は高い場所が好きで、山頂に登るととかく仕事をしがちだった。このnoteはマウントジョンの頂上の「アストロカフェ」で書いている。外は雨が降りそうなくらい今度は曇っていて、そして風が強かったけれど、ミルキーな湖はやっぱりこの時もとてもきれいだった)

(私と同じように考えるバカがたくさんいるんだな、と思った)

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旅先で仕事をしながら、生きてみたいと希望したのは私で、本当にそれを実行に移そう、と決めたのも私だった。うまくいくことばかりじゃない。助けてもらうことも、迷惑をかけ続けてしまうことも、そのために信頼を失ってしまったことも、たくさんあると感じている。

「私が私でなければならない理由」なんて多分この世にひとつもなくて、けれど私は「私が私でなければいけない理由」をどこかにどうしても探したくて、創りたくて、そのためのパズルのピースを生み出すために今日ここにいる。

美しい言葉じゃないけれど、きっと多くの犠牲の上に成り立つ今日。

けれどやっぱり、来てよかったと私は思う。来なければいけなかったし、今日より遅くても、早くても、何か違ったのかもしれないと、都合よく思ったりすることも多くある。

何かを選べば、何かを掴めない。
何かを掴むためには、何かを手放さなければいけない。

少しずつ、少しずつ容量を増やしながら、ずっときっとシンプルに、生きていくのがいいのだと思う。

全部がほしいと思ったこともあったけれど、ひとつずつ掴んでゆけば、いつか「ぜんぶ」になるんじゃないかしら。

「ロード・オブ・ザ・リングか」と、ふと顔を上げたMacBook Airごしのニュージーランドに、もう一度思う。

きれいな、ニュージーランド。クライストチャーチから向かうなら、ぜひに車を借りて、自由にこの地を走って欲しいと思う。

広くて、美しくて、バイロンベイのパカリアが言った通りに、尖った山とそこに残る積もった雪たちが、景観にスパイスを加えるミルキーなテカポ。

……あと数日のうちに、日本に一旦帰るなんて、ちょっと信じられない。

けれど飛行機はすごいから、決めた通りに私のカラダを運んでくれるのだろう。年末は、日本で過ごすと決めたのだ。まだ誰にも言ってないけど。ということでちょっぴり帰るから、予定の合う人は、遊んでね。

夢の中に、いるみたいだ。

いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。